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サファイアとP2

 「地獄への道は善意で舗装されているが、楽園への第一歩も善意が作り出すものだ。」

                                    星宮星雅

 それからP2が第二防衛部隊を連れて帰ってくるまでの数日間、サンビタリアとガーネットは常に落ちつきが無く、そわそわしながら過ごした。毎日、意味も無く部屋をグルグル歩き回ったし、食事の時は器が既に空なのに気づかず延々と箸で空を掴み、携帯端末機を手に取ってはジッと見つめ、何をするでもなくまた端末機を手から離す。そんなことばかり繰り返していたために、レコメンドやサファイアたちは随分呆れていた。


  そうしている間にも時間は一日また一日と過ぎていき、とうとうP2たちの帰還予定日前日になった。

「ど、どうでしょう?私変な感じはしませんよね?ね?」

明日、P2が帰ってくるとあっていよいよ落ち着かず、サンビタリアは鏡台の前で百面相しては、「可笑しなところは無いか?」とガーネットやレコメンドを問い詰めるのを繰り返していた。

「いい加減、少しは落ち着いてください。社長は仮にも貴女の夫ですよ?身内に会うのにそんな奇行を繰り返してどうするんですか?」

「相手が夫だから緊張するのよ!それに、私ぴぃつぅ様と会ったのはまだたったの一回だけよ!?」

気持ちは分からなくもないので黙って見守っていたレコメンドだが、いい加減我慢出来なくなって苦言を呈するようになったが、余裕のないサンビタリアに苦言が響くことはなかった。

「そ、そうだ服!普段着は115の無人商店で勝ったけど、ドレスは着てきた一着しかないわ!そ、それに髪もちゃんとプロの方に整えて貰わないと…!」

「いや、赤目製薬は名前の通り製薬会社なのですが…」

「しかし、旦那様となるP2殿と会うのだから準備は必要では?」

「ガーネット、貴方もですか。」

レコメンドは目の前の暴走する2人をどうしたものかと頭を抱えたくなった。

そんな折、『ピン!ピンピン!ピンポーン!』と部屋の呼び鈴がゴキゲンに鳴り響いた。


 「2人とも、まだやってたの?ちょっとは落ち着かないと社長が帰ってくるのは明日なのよ?」

サファイアは部屋に入るなり、ガクガクと足や声を震わせているサンビタリアとガーネットを見つけ、心底呆れたという風に口を開けて苦い笑みを浮かべた。

「………今の私は冷静じゃないって、頭では分かってはいるんですよ?分かっているんですけど…」

「心が落ち着かない訳ね。まぁ、サンビタリアさんはこの短期間で色々ありすぎたから仕方ない所もあるんでしょうけど……だからってこのまま放置してたら明日になっても震えてそうね。」

サンビタリアの主張にサファイアも理解を示しているものの、如何せんP2が帰ってくるのは明日であり、今のままの状態でサンビタリアたちをP2の前に出したら、余裕がなくなって焦りの余り失態を繰り返し、それを引き摺ったサンビタリアたちのフォローでP2が苦労する羽目になるのがサファイアの目には見えていた。

「前に電話で話したって言ってたし、社長がどういう人かサンビタリアたちも知っているでしょう?社長は器の広い人よ。シェヘラさんじゃあないけれど、私は彼を一種の王だと思っているわ。そんな人がちょっとレディーが失敗しているのを見たぐらいでゴチャゴチャ言う訳ないでしょう?違う?」

「……でも、どうせなら夫となる殿方には一番素敵なところを見て貰って、綺麗だって言って欲しいじゃないですか。」

サンビタリアの答えが意外だったのか、サファイアは虚を突かれたようで一瞬放心して間抜けな顔を晒した。そして、直ぐに噴き出してケラケラと愉快そうに笑った。

そんなサファイアの姿を見て、馬鹿にされたと捉えたサンビタリアは頬を膨らませてムッとなり、無言の抗議をする。それは拗ねた子どものようで大変愛らしい表情だった。

「いや、ゴメンなさい。何ていうか、婚約破棄されたばっかりなのに一丁前に恋してるんだなぁって思うとつい………ね?」

「どうせ、私は簡単な女ですよ。」

「本当にごめんなさい。でも、馬鹿にしてつもりは無いのよ。ただ、少し、眩しくてね。」

「眩しい…ですか?」

サンビタリアは意外でならなかった。

サンビタリアの知るサファイアという女性はいつも自信に溢れ堂々としていて、誰かを羨んだり、誰かに憧れたりするよりは、自分の道を行って結果的に憧れられるタイプの人だった。だから、そんなサファイアから眩しいという言葉が出たのが意外でならなかったのだ。


 「あら、意外?前にも話したかもしれないけど、私がここに来た時はそれはもう塞ぎ込んだのよ。社長が手配してくれた自室に籠って、毎日ご飯も食べずに泣いていたわ。」

「それは…」 

本社に来た時は落ち込んでいたという話は聞いたことがあったが、そこまで酷い状態だったとは夢にも思わず、サンビタリアは何と答えたらいいか分からず口を閉ざした。

「でもね、そんな私のところに毎日通って、色んな話をしてくれた人が居たのよ。仕事で忙しい合間を縫ってまでやって来て、引き摺り出すでも、説得するでもなく、ただ扉の向こうから声をかけ続けてくれた優しい人がね。………ある日、私は言われたわ。「君はこのまま部屋の中で死んでしまってもいいと思っているかもしれないが、俺は君に生きて欲しい。死んでほしくない。だから、もし、生きる理由が見つからないというのなら、君に生きて欲しい俺たちの為に生きてくれ」ってね。」

「…それで、部屋から出られたんですか?」

「いいえ、部屋から出たのは、それから更に二日引き籠った後、思い切って溜まった愚痴をこれでも吐き出してからだったわ。それで、部屋から出て、洗面台で自分の顔を見てみたら酷い顔。泣きはらして目は真っ赤っかだったし、何日も食べてなかったせいで瘦せすぎて骨みたいだったし、服も顔も洗ってないから汚れまみれで…もうヒトの顔してないの。」

サンビタリアは不思議だった。昔の自分のことを散々扱き下ろして罵倒しているのに、サファイアは全く暗い顔をしていない。それどころか、本当に華が咲いたような幸せそうな笑みを浮かべていて、サファイアにとって本当に大切な思い出なんだということがヒシヒシと伝わってくるのだ。

「そんな酷い醜態晒した私のことも社長はバカにしたりしなかったから、心配しなくても貴女のことも笑って受け入れてくれるわよ。」

サンビタリアは思った。「もしかして、サファイアもぴぃつぅ様ラブ勢なのでは?」と。



 人物情報記録 サファイア (第二項)

 サファイアは元々貴族のお嬢様であり、ヴィーヴル族の姫として愛されて育った。

だからこそ、罪人として蔑まれ離島に捨てられるという経験はサファイアの心に大きな傷を作ることとなった。今現在、サファイアが元気に働くことが出来ているのは時間をかけて彼女の心に寄り添い続けたP2社長と彼女自身の勇気のたまものに他ならない。

そして、気力を取り戻したサファイアはやつれた自身の身体を元に戻す療養の過程で、食という文化に目覚め、健康栄養食品部へ志願。食堂のプリンセスを自称するようになった。

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