演習!サンビタリアVSレコメンド
「外見や振る舞いだけで人の本質が分かるものか。」
星宮星雅
演習は本職であるレコメンドからのハンデとして、本来射撃手が苦手とされる遮蔽物の少ない荒野フィールドで行うことになった。
演習に当たりレコメンド何時も持ち歩いていた物よりも、かなり大型でより銃器に近い機械的な構造をしたボウガンを手に取った。矢をセットする箇所に専用のマガジンを取り付けることで特殊な機構により自動でリロードが出来る優れもので、引き金付近に取り付けられたハンドルを回すことで種族の特性上他の兵士よりも非力なレコメンドでも本来10張りの強弓である大型ボウガンを放つことが出来るという仕組みだ。
ボウガンは余りに大きいので小柄なレコメンドと並ぶと、その身長を10cmも追い越した。そんな巨大ボウガンを抱えているだけでは無く、戦闘用に腰に付けたベルトに予備マガジンに短刀、更に手榴弾や緊急治療用キットなどを詰め込んだ軍用ポーチを取り付け、正に重装備といって差し支えない風体になった。
「あの・・・レコメンドさん?ハンドル機構でボウガンを引けるのはお伺いしましたが、流石にそれほどの重装備では身動きが取れないのでは・・・・・・・・・?」
「ご心配、ありがとうございます。しかし、普段からこの恰好でランニングや行軍訓練を行っていますので問題はありません。ゴブリンという種族は元来非力ではありますが、私は鍛えておりますので。」
心配するサンビタリアにレコメンドは「遠慮は無用です」と笑みを浮かべた。
「モリアーティが既製品を大幅改造して作り上げたレコメンド専用大型ボウガン『弩鬼説奇』、アレを持ち出したということは彼女も本気ということよ。果たして、護身で武術を囓った程度のお嬢様にどれだけ通用するかしらね。」
武器置き場の影に隠れながら、シェヘラは恋敵のピンチにほくそ笑む。
だが、そのあくどい笑みは直ぐに曇る結果となった。というのも・・・
「でも奥様が怪我をされたら、社長は心配して今まで以上に奥様に意識を割くようになるのでは?」
「奥様じゃないわ。奥様になるのは私よ。だけど、それもそうね、お優しいP2様のことだからサンビタリアが怪我をしたら、サンビタリアに今まで以上に気を遣うようになる。・・・ヤバいじゃない!」
とまぁ、こういう訳で、サンビタリアのピンチが自分にとってもピンチになり得ると気がついたからだ。
シェヘラは筋金入りのP2LOVE勢である。だからこそ、自分以外の女がP2の心の大部分を占めるのは到底許容しがたいことだった。余裕の笑みから一転、顔面蒼白である。
「ま、まぁ、でも防衛隊がゴツくて強そうな武器を使うのは賊への牽制の為でもありますし、レコメンドさんだって護衛が仕事なんですから加減ぐらいはちゃんとしてくれますよ。」
「そ、そうよね?共にP2様に使える社員の仲間だものね?その位はちゃんと分かってますよね?」
着いてきた部下の1人のフォローを聞き、多少は顔色が良くなったが、まだ完全に不安は晴れない。
こうなった以上、シェヘラは忌々しい恋敵の無事を祈る他なくなった。
人工的に作り上げられた草1つ生えない荒れた大地で、2人の女性が己の得物を構えながら睨み合う。
サンビタリアは護身術の習っていただけのお嬢様にしては堂々とした綺麗な立ち姿で、まるで元々荒事を生業にしている本職なのではと見紛うほどの構えを見せ、バルハードの穂先をレコメンドへ向けている。
対するレコメンドは流石は本職と言ったところか、サンビタリアの見事な構えに勝るとも劣らない。
小柄な身体にかなりの重装備であるにも関わらず、その重量を完全に物にしているかのように涼しい表情でサンビタリアを見つめている。幾度もの戦いを越えてきた貫禄がそこにあった。
『ビ-ッ!演習開始ィー!』
「でやぁぁぁぁぁ-----っ!!」
演習開始を告げる機械音が聞こえたと同時に、サンビタリアは勢いよくバルハードを振り被った。
レコメンドは振り下ろされるバルハードの軌道を冷静に見極め、最低限の動きのサイドステップで躱すと同時に、振り下ろしたばかりのサンビタリアに狙いをつけて弩鬼説奇の引き金に指を掛ける。
「っ!?」
不味いと感じたサンビタリアは強引に身体を捻り上げ、全身でバルハード斜めに振り上げようとする。
だが、バルハードが振り上げられるよりもレコメンドが引き金を引く方が早く、射出された矢は音を置き去りにして凄まじい速度でサンビタリアへと迫る。
強引に身体を捻ったばかりのサンビタリアが矢に対応出来る筈も無く、矢はサンビタリアに突き刺さる。・・・ことはなく、サンビタリアに直撃する前に弾けて中から赤い絵の具が飛び出した。ペイント弾だ。
『勝者!レコメンド!』
「へっ?」
「へっ?では、ありませんよ。演習で本物の矢を撃つとでも思ってたんですか?」
勝敗の裁定を下す機械音に、少し遅れてサンビタリアは間抜けな声を上げた。
少し衝撃は来たが痛みが全然無かった上に、一瞬ことだったのでやられた自覚が薄かったのだ。だが、段々現実が飲み込めてくると、気が抜けたのかその場にへたり込んで、少し疲れた顔で笑った。
「参りました。完敗ですね、レコメンド様。」
「レコメンド様は本当にお強いのですね!あんなに巨大な得物を抱えながらあの軽やかなステップは見事としか言いようがありません!私、少しは自信があったのですが、蓋を開けてみると完全に手玉に取られてました!」
サンビタリアは負けたというのに喜色満面・天真爛漫のキラキラした笑顔を浮かべ、演習の熱も冷めること無く大興奮でまくし立てた。
一方、レコメンドはマガジンに消費した分の矢をセットすると、今度は武器置き場へと狙いとつけた。
「・・・レコメンド様?其方に何か?」
「いえ・・・・・・殺意が無いとは言え、いい加減ネズミの視線が鬱陶しくなってきたもので・・・。」
レコメンドが引き金へと指をやると、武器置き場の裏から3人の男女が大慌てで飛び出してきた。
3人とも胸に赤い目のエンブレムが描かれたジャケットを羽織っており、一目で社員であると分かった。
「情報編纂室のお三方ですね?大方、シェヘラ室長が恋敵の奥様を偵察に来て。他のお二方はその監視でしょう。」
「やっぱり防衛隊の目は誤魔化せないわね。・・・そう、P2様LOVE勢が1人にして情報編纂室室長のシェヘラとは私のことよ!」
サンビタリアは「これはこれは、どうもご丁寧にありがとうございます。」と律儀に頭を下げ、ガーネットは驚愕であんぐりと口を開けた。
人物情報記録 レコメンド(第二項)
第二防衛小隊におけるレコメンドの役割は射撃による後方支援である。
射撃手としてのレコメンドの強みは多種多様な矢を使い分けることで数多くの戦場に適応出来ることと、専用武器である弩鬼説奇のハンドル機構によって高威力の矢を比較的短いクールタイムで連射できる点にある。
多種多様な矢を状況によって瞬時に取捨選択出来る戦術的思考と、射撃手として重要な精密に狙いをつける技術。そして何より厳しい訓練によって手に入れた重装備をものともしないフィジカルが彼女を精強な兵士たらしめる由縁である。




