第51夜(学園編) 善と多難
前回のあらすじ
入学したけど、本人以外大変。
沸くブーゲンビリア学園の入学式で、スフィアは1人驚いていた。
目を見張る先にいるのは、壇上にいるシヴァリエだ。彼は何故、悲鳴が上がったのか分からない様子でキョトンとしている。
会場内では何故か拝んでいたり、恍惚の表情で倒れていたりしている人間が次々とメイドや職員に連れていかれている。
‥‥ああ、知っている。この光景を!!
「まこちー‥‥!!」
厳密には彼が彼女ではないのは見てわかる。性別も雰囲気もどう見てもよく知る彼女ではないが、この呪いのようなモテぶりは彼女を彷彿させ、アレと同じだとしか言いようが無かった。
スフィアはいつの間にか自分の親指を手袋越しに噛んでいたのに、気づいて口を離した。
「‥‥。」
‥‥思うことは色々あった。
しかし、そうはいってられない。
彼にどうにかして近付かねば‥‥。
特に先日、ルークの件は頓挫してしまったから。
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「え?」
「あーもしかしてスフィアさんには言ってなかったかしら?」
ルークの内情を探ろうと近づいたアルバトロン公爵家、ルークの母である前宰相夫人から言われた事を飲みこむのにしばらくかかった。
ルークは結婚しないのか、と言う質問に夫人はにこやかに笑って話したのだ。
「あの子は既に相手がいるわよ。と言っても、国の事情からまだ結婚でいないけど‥‥。」
「‥‥もしかして平民ですか‥‥?」
「ええ、そうよ。女性ながら商人をなさっている方。世界中またに掛けてるからなかなか会えないけれど。」
「それっていいのですか?平民と宰相が‥‥。」
「うふふ、そうね。戸惑うのも仕方がないわね。私もグローゲンも最初、連れてこられた時戸惑ったわ。貴族と平民が結婚なんて認められないもの。でも‥‥自由恋愛と禁断の恋って萌えない?」
「‥‥は?」
「ルークには申し訳無いけど、私が趣味で出版している恋愛小説のいい題材になると思って、最初許可したの。グローゲンをルークと二人で抑え込んでね。」
「‥‥。」
「そう最初は打算だったの。でも今は純粋に嫁として義理の娘として好きよ。平民としてみたら誰だってダメだけど、あの子個人は聡明だし、お互い大変な時にうちに支援を申し出るくらい親切な人よ。」
「支援‥‥?」
「ほら、8年前の戦争よ。うちは兵は居たけど食糧はあっという間に尽きちゃってね。領民から取り上げるなんて出来ないのに、他の貴族が独占したり、商会がありえないくらい値段をあげざる得なくなったりとかして大変だったの。その時、彼女が食糧確保とか物資の輸送とか何も言わずにしてくれてね。本当に助かったわ。グローゲンも思わず結婚を了承するくらいにはね。」
「‥‥。」
「だから、家族公認なのよ。世間様が許さないから正式な結婚は難しいだろうけど、もうお付き合いも10年以上経つし、このまま何十年もルークの恋人としてお付き合いするでしょうね。」
「‥‥は、はぁ‥‥。」
「いつか紹介するわ。貴族以外の人と関わるのも視野が広がるわよ。」
スフィアは困惑した。
ここに来て、頓挫したようなものだ。両親公認なら出奔する意味が無い。ルークはとうの昔に恋愛によって家を出るいう辿るべき道から外れていた。修正するにはグローゲンと仲違いさせるか‥‥ルークを暗殺するしかない。
スフィアは答えを出せないまま、失意のまま公爵家を後にした。
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諦めてはいけない。
スフィアはそう立ちはだかる難関に息を飲んだ。
ルークの件は頓挫したが、そのシヴァリエの件はまだ終わっていない。
まこを彷彿させるそれに激しい苦手意識を感じながらもスフィアは意を決した。
これまでも色々あったのだ。
貴族達の持ち直しを支援したり、自分と懇意にしてくれる騎士や商人を集めたり‥‥。なんといってもストーリーに欠かしてはいけないヒロインの為に頑張った。
ヒロインであるユリアの実家が8年前の戦争で落ちぶれてしまい、学園に入学できないという緊急事態になっていたのをすぐに根回しして、ユリアの母をその気にしてユリアを学園に入学させたり、成績は良かったが致命的すぎることに名前の書き忘れをして、メインキャラのいるクラスから外れたユリアを無理やりクラスに入れたり‥‥。権力乱用も甚だしかったが、やっとユリアを学園に、メイン舞台に入れられた。
ユリアがいなければ、何も始まらない。本当に頑張ったのだ。
しかし、懸念すべきことにユリアはどうも士 気が無い感じがした。ゲームの中では国一番の魔法使いになるんだと意気込んでいた彼女の姿は無い。適当に学園で過ごそうと言う魂胆が見えてしまう。
まさか、とは思う。しかし、どうなるかはこれから分かる、分かってしまうだろう。その時、どうすればいいか考えるしかない。
スフィアは深い溜息を吐いた。
今まで自分なりにやってきた自信はある。だからこそ、ここで折れてはいけなかった。
一方、その頃。
「んじゃ、片付けを頼む。シミの一つも残すなよ。何だったら買い直すのも視野に入れていい。」
「‥‥は、はっ。」
「終了するまで、俺はルキウスとの会合を前倒しで行う。迅速に、行え。」
宮殿の一室。宰相の執務室でその人は顔色一つ変えず、そう命じると、さっさと執務室から出ていった。
残された執事やメイド達はあまりに落ち着きはらった主人に戸惑い、補佐官達は近衛兵を呼んで大慌てで事態に対処していた。
執務室の真ん中には1人、黒いフードを被った異人が事切れていた。その胸には剣が一刺し、一瞬で殺された事が分かるほどにその侵入者の身嗜みは崩れておらず、その表情も今に人を襲いかからんとした表情のままで死んでいた。先程、その異人に手を下した本人は余程、死ぬ前の異人からすれば容易に殺せる人間に見えたのかもしれない。だが、一瞬で状況は逆転し、異人は今、地獄で自分が死んだことが認められずに泣いているだろう。
そして、当の本人であるルークは異人のことなど忘れ、ルキウスのいる執務室に護衛と共に向かいながら、小さく溜息を吐き、護衛には聞こえない声で漏らした。
「スフィア嬢が‥‥米本明音ねえ‥‥。」
さてはて、と彼は考えながら、脳裏にシヴァリエを思い出した。
どうするだろう、彼女は。
果たして✕✕できるだろうか?




