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第50夜(学園編) 入学式

前回のあらすじ


ユリア嬢、死亡フラグが立つ。

 















 そんな入学式の2ヶ月前。












 シヴァリエは入学準備の為、辺境伯領を後にした。

 見送りにはハルトや使用人達だけではなく、カタリナやサウス達、何人もの近所の人が集まり、かなり盛大な見送りになった。

 ハルトは前の晩に2人でお茶を飲みながら話したので、港では結局、ハルトと着いていくアンナ以外の人達との一時の別れを惜しむことになった。

 何でもマイネス伯爵家から王都に進学する人間はシヴァリエが初めてらしく、『半年後の休暇まで寂しいですね。』、『何かあったら帰ってくるんだよ?』、『王都の連中にお前の剣を見せつけてこい。』、『無事卒業したら、もっとオトナなことをアダルトに教えてあげるからね!』と心配もされながらも励ましてくれた。‥‥ただカタリナだけは発言してすぐグラスゴーが「そんなことしません。させません。やらせません。」とカタリナの発言を撤回させて何処かに回収していった。

 そんな見送りの中で、ハルトはシヴァリエだけに聞こえるような声音で告げた。

「‥‥何かあれば連絡しろ。」

 それにシヴァリエは笑顔で。

「はい。」


 そうして乗船する時にジュリオと話した。

「向こうでもお元気で。商談で王都に行く時は挨拶させてくださいね。」

「はい。いつでも待ってます。‥‥あと、いつか感謝出来たらしますね。」

 誰に、とはシヴァリエは言わずに小声でそうジュリオに言った。伯爵の身分でしかないシヴァリエが国のNo.2と会う機会はほぼ無い。それでも天文学的な確率で会うかもしれない。だから、出来たらするとシヴァリエはジュリオに誓ったのだ。

 それにジュリオは小さく笑うと、シヴァリエの頭を撫でた。

「!」

「向こうに行くのが楽しみですね‥‥行ってらっしゃいませ。」

 それだけジュリオが言うと船の鐘が鳴り響き、出航することを伝えた。







 そんな彼らに見送られながらシヴァリエは王都に向かっていった。





 そうして王都行きの船の中で、ある人物に手紙を書いた。

 フィンである。あの超がつくほどのド平凡顔の男爵位の少年とは、年に何回か手紙をやり取りしていて、新年になったばかりの手紙の中でフィンもまたブーゲンビリア学園に入学する事を書いていた事をシヴァリエは思い出し、連絡をとったのだ。

 手紙の中で色々訳あって男子として学園に通う事になったこと、出来れば入学についてアドバイスが欲しいとのことを書き、王都に着いて早々、郵送してもらった。

 そして、当然ながら、フィンから怒涛の質問がやってきた。

「どういうことだ!?何で野郎として入学すんの!?もしかして男装で入るとか?何があったらそうなるんだ!?てか、学園に通う事になったって急すぎない!?」

 手紙ではもちろん伝えきれず、直接会うことになった。そこで少年の姿になったシヴァリエを見て、フィンは膝からがくりと崩れ落ちた。

「負けた‥‥!」

 リアルにorzという格好したフィンにシヴァリエは戸惑った。戸惑うしかなかった。

「‥‥フィン‥‥?」

「くそう‥‥この人なんで男になってもイケメンなんだよ‥‥敗北感しか感じねえ。これが童貞とアイドルの差か、本当に残酷さしかない‥‥!」

「フィン?フィン?」

 どうやら少年の姿のシヴァリエに男としての敗北感を感じているらしい。

 何とかシヴァリエは宥めた頃には、『ま、お前、女を捨てたわけじゃなくて、3年だけ男子になるだけもんな。うん、イケメンとかリア充だとかそういう童貞独身非モテの敵になる訳じゃないよな?』という日本語、否、フローレンス語通じてるのか分からない事態になったが、シヴァリエはとかくフィンは長く生きてる中で色々こじらせているんだな、と深く考えず受け入れることにした。

「訳を話すと長くなるから、要約するとまたストーカーちっくな人に遭っちゃってさ。」

「またかよ。しかも、男子で入学するしかないくらい深刻と見た。てか、お前はいつでも犯罪者ホイホイだな!?」

 流石に前王に狙われたとか、王命で入学しなければならなかったとかはシヴァリエは言わなかった。言わずともフィンは察しがいい。

「急すぎる報せだとは思っていたが、まあそんなことになっていたとはな。学園入学は本意か?」

「きっかけは違うけど、今は自分の意思。」

 そう告げるとフィンは「なら、良いんじゃね?不都合があるなら同じ学年だし俺がフォローしてやるよ。」と嬉しいことを言ってくれた。頼りになるクラスメートゲットである。早速気になることを続けざまに聞いた。

「学力試験があるって聞いたけど、どれから選ぶの?」

「数学、国文、古文、歴史、地理、法律、理科、外国語、魔法学、錬金術。ちなみに俺は数学と理科と法律を取るつもり。」

「うわあ、何かフィンって感じがする。」

「‥‥悪かったな。完全に理系なんだよ。俺、古文なんて見たくもない。で、お前は?」

「国文、古文、外国語!!」

「俺の嫌いなもんばっか!!」

 そこからは雑談混じりに入学について二人で話す。やはり同じ学校に入る者同士、話が弾む。

「シヴァリエ、学問専攻と魔法専攻と騎士専攻は?どれにするんだ?」

「騎士!」

「は?なんで?」

「え?楽しそうじゃない?」

「‥‥まこちーは、魔法専攻だと思ってた‥‥。」

 8年前に出会って以降、フィンは時折、まこちーのファンだった過去を覗かせながらも、同い年の友達として甲斐甲斐しく、時にぶっきらぼうに気にかけてくれた人だ。もちろん、そこにはフィンの下心も混じっていたがシヴァリエは気づかず気にせず、頼りになる王都の友達かつ同じ転生者仲間として慕っていた。

「制服とか備品は全部買ったか?剣はアルメラ金属製剣しかダメだ。魔法の授業じゃ杖や薬物も入った学生用セットを買わないといけない。あとは寮の準備な。王都に屋敷を持っていようとも毎日自宅から通学しようとも、寮部屋はサロンを兼ねているから全員持たなきゃならない。仲間同士の団欒や相談事をしたり、まだ婚約者がいない男はお茶会に女性を誘って、婚約者を探したり‥‥まあ多目的社交用空間だ。サロンを持つことは貴族社会のマナーでもあるし。」

「へー。」

「俺は面倒だがな。寮費だって安くないし、貴族のマナーとはいえわざわざ万年金欠財布を開かないといけないのが何より嫌だ。」

「でも、やらないと万年ぼっちじゃないんですか?」

「痛いとこを突いてきたな‥‥。」

 前世で童貞のまま死んだのが悔いなんだよー‥‥でもだからってさあ‥‥とやけっぱちに呟くフィンは今日も元気である。






 そうして、入学式。



 学力試験でシヴァリエは新入生2位となった。フィンは残念ながら6位。「もし5位だったら、女子に見つけて貰える機会出来たかもしれないのに‥‥!」と悔しがる彼は、尚更、どこまでも残念な男だったが、シヴァリエは心底、そんなフィンが面白くて小さく笑っていた。

「しかし、シヴァリエがステージに出たら、大変なことになりそうだな。」

「そう?1位の王子の‥‥名前分からないけどその人に注目が集まってるんじゃないの?」

 入学式が行われるオペラ座に向かう廊下でふたりはそんな話をする。周りはシヴァリエの姿に既に釘付けになっているが、シヴァリエも座席表で自分の席を探すのに夢中なフィンも気づかない。

「あーそういや第二王子のミカエラ様も入学するのか‥‥。」

「知ってるの?」

「知ってるというか‥‥ハァ‥‥乙女ゲーだったことを今思い出した‥‥。」

「??‥‥おとめげー?」

「シヴァリエは知らなくていいよ。あと王子に下手に近づかない方が良いぜ。‥‥女の嫉妬に巻き込まれるから。」

「女の子の嫉妬かあ‥‥。」

 シヴァリエはその言葉に久々に前世を思い出した。

 恋茉莉まこだった自分。

 アイドルだった自分。

 嫉妬とお金で周りが変わってしまって‥‥1人だった自分。




 今は違う。





 シヴァリエ・マイネスという自分。

 ハルトの妹という自分。

 辺境伯領や王都にいる自分を気遣ってくれる人達。

 隣にはフィンがいるし。

 ‥‥独りじゃない。


「フィン、あの‥‥そばに居てありがとうございます。」

「あ、俺の座席、2階か。やっと見つけたぁ‥‥ん?シヴァリエ、何か言ったか?」

「‥‥フィンって残念ですね。」

「はあ!?」

 折角、感謝したというのに肝心の本人が気づかなかったというそれにシヴァリエは吹き出しながら、残念ってなんだ!?と文句を言うフィンをからかう。


 入学式はすぐそこまで迫っている。


 そこでシヴァリエは伝説級の大事件を起こし、入学早々インパクト大の印象を残すのだが‥‥今のシヴァリエは知らないことである。


「俺の席は2階の右側辺り。同じクラスだから表彰の後で落ち合おうぜ。」

「分かった。壇上でフィンの席探すね。」
















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