第45夜(学園編) 内訳の驚き
前回のあらすじ
前王は変態クソジジイ (by ジュリオ)
Let's ハートフルボッコだドン!
一方。
ルーシフーの乙女とかつて呼ばれ、今尚、その影響力を持つ少女、スフィア・カルマンはブーゲンビリア学園の制服をクローゼットにかけるようメイドに頼みながら、自身の机にノートを開いて、思案していた。
学園での勉強をしているわけではない。
最早日課となっているフローレンスの未来を思案する時間である。
ノートの中に生前から知識としてあるこの世界の情報を全て記載している。他の者に見られてもわからないように全部わざわざこの世界にはない日本語で書いたそれを何度も読み直しながら、スフィアは考える。
あれから8年。
自身が休暇を取ったことで起こったあの悲劇のせいで、スフィアの計画は完全に狂っている。
ルキウスが王になるなんて“本来この時間軸で起こり得るはずが無かった”し、辺境伯領なんて“百年前に消えていたはず”で、宰相をしているルークは“公爵家からこの時既に出奔しているはずだった”。
それが今、全て真逆なことになっている。
この8年、スフィアはどうにかして元に戻す為に様々なことをやったが、8年前に起こった戦争の余波は凄まじく、国王にルキウスがなり、本来なら宰相になるはずが無かったルークが行政の中心になり、民主化なんて“フローレンスには毛ほども要らない”ものを持ってきたせいで、スフィアではどうしようもない事態になって軌道修正できなくなった。
「フローレンスは今まで貴族主義だったから、安定していたのに‥‥これからとんでもないことになるわ!」
スフィアはそれをどうにかするため、自身を売り出すことにした。
貴族に力が無い今、貴族をまとめてクーデターは得策ではない。騎士や商人などの平民が今や貴族よりも数の多さも含め有利だ。だから、貴族、それも民主化に賛成する貴族を内部から壊すことを思いついた。
フローレンスの未来の為だ。国内がまだ安定しない内に仲間割れを誘発することになるが、荒療治するしかない。
そこで目につけたのが、宰相ルークの実家、ゲームでの攻略キャラクターもいるアルバトロン公爵家だった。ルキウスから歳の近い第二王子と婚約しないかと言われたが、それを断り、自分から見て2歳年下のアルバトロン公爵家の次男カイムと婚約した。
‥‥自身の片思いに目をつぶって。
そもそもゲーム内でのスフィアのストーリーはこのカイムの婚約者だったことから始まる。元鞘に戻ったようなものだ。これからカイムはヒロインと真の愛に目覚め、私は蔑ろにされる未来が待っている。
だが、私はスフィアはスフィアでも明音だ。蔑ろにされようとも関係がない。
私は宰相であるルークに近づく為に‥‥彼を宰相職から引き離す為に嫁いだのだ。
‥‥平民と恋に落ち、すべてを放り出して出奔したゲームと同じ末路を彼に歩いてもらう為に‥‥。
そうすれば、政権の中枢はカイムのモノになる‥‥スフィアが堂々と政治に介入できるのだ‥‥。
今日もスフィアは思案する。
まだ時間はある。
ヒロインが学園に入学するまでのあと僅か‥‥。
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「‥‥。」
「ほら、姫様。そんなに固くならないで下さい。」
「‥‥でも‥‥。」
あれからシヴァリエは馬車に揺られていた。馬車にはジュリオとルークもやはりいて、ジュリオは馬車の馬を走らせて、ルークはシヴァリエの前に座っている。
シヴァリエの悩みを半ば解決した二人は、屋敷の近くまで送るからとシヴァリエを馬車に乗せた。移動魔法が発達した辺境伯領でわざわざ馬車を出した理由は多分、シヴァリエに気を使ってのことだろう。
「下車するまでですが、まあ心積りをして下さい。」
結局、このルークとジュリオはシヴァリエが何故屋敷から飛び出したかは聞かなかった。しかし、察するところはあるのか触れる事はなく、午前零時を回る星空の下、ゆっくりと馬車を進めてハルトがいるだろう屋敷に向かっていった。
「‥‥一つ、ハッキリと忠告しよう。」
ふと目の前に座るルークが言った。
「お前もう16だろ?」
「はい。」
「なら、もっと色々考えな。」
「‥‥。」
プロデューサーと同じことをルークは言う。
「うじうじ考える暇があるなら、相手の行動を読んだり、分からないことは分からないと周りに聞き回れ。流されるな。自分の意思を曲げるな。シヴァリエ嬢はどうもそこが抜けてて、イライラする。」
「イライラ‥‥。」
その言葉に萎縮するシヴァリエをフォローするように御者をするジュリオが明るく言う。
「‥‥言葉足らずですよ、ルーク。
姫様、この人の言うイライラするってのは、貴方が出来るのにしていない事に対して、ですよ。貴方の存在がイラつくからではないのです。」
それにシヴァリエはぱっと顔を上げて、ルークを見る。ルークは鼻を鳴らすだけで何も言わない。
その代わりにジュリオが言葉を紡ぐ。
「‥‥まああの御領主の下じゃあ、仕方がないかもしれませんね。」
「え?」
その言葉にシヴァリエはびっくりする。ジュリオは失礼を承知で言いますが、と断って。
「あの方とは10年以上の付き合いがありますが、ルークが最高に楽に思えるぐらい、ディスコミュニケーション人間です。あの自分の結論を人に押し付ける王様タイプ。そんでもって他人の意見は自分の都合の良いものしか受け取らないご都合主義!‥‥二重苦も三重苦もありますよ。」
「え、ええ‥‥?」
「御領主は相手が自分の意見を呑むもんだと勝手に思っているんですよ、多分。ま、今回の件に関してはルークの言う通り、貴方の幸せを願うが為に貴方に何も知らせなかっただけでしょうが。
貴方が妙に人の思惑に聡くないのも、あの人が何も貴方に言ってないのも、あの人が『貴方には必要ない』と判断したからでしょう。そんな中で生きたら、判断力が欠如していても可笑しくはないですね。」
でも流石に、箱入り娘にしたって、こんなの脳内お花畑状態にしすぎでしょう、とポツリとジュリオが悪口にも似た不安を吐露する。それを聞いてしまったシヴァリエは地味に精神が傷ついた。脳内お花畑‥‥。
ジュリオは続ける。
「色々頷けますよ、あまり良くないことに。ボクはあの人に感謝してますが、人としては苦手なんで、分かります。」
はあ、とジュリオは深いため息を吐いた。
ジュリオから見た兄の姿はどうやら暴君であるらしかった。
しかし、シヴァリエにとってその意見は新鮮だった。怖いだとか、なに考えているか分からないだとかはよく聞いたが、ジュリオのそれは他人から見た兄を正確に射抜いているように聞こえた。ジュリオは商人だからこそ、あの兄と面と向かって話すことが多いのだろう。それ故に実感が言葉にこもっている。
「まあ、それだけ貴方は愛されているとも言えるのでしょうね。」
そうジュリオは締め括って、告げる。
「姫様、御屋敷についたら、家出したことはとにかく謝ることをおすすめします。‥‥そして、学園に入るのはどうでしょうか?どうせ王命を反故した方が状況が悪くなりますから入ることになるのでしょうけど。」
「学園に入る‥‥?」
「はい、入るべきだと思うんです。あなたには平民とは違って金や地位を考えずに高等教育を自由に受けられる権利がある。‥‥権利は使えるなら使うべきです。」
そう言っているジュリオの表情は夜闇に紛れて、見えない。だが、シヴァリエは目の前にいるルークの表情が妙に硬いのを見て、ただならぬ何かを感じた。
「‥‥最後に決めるのは、貴方なのでこれ以上は言いません。ですが、貴方が貴方の思う将来を歩けることを祈ってますよ。」
ふと、そこでジュリオは馬車を止めた。
いつの間にかハルトの屋敷のすぐそばにある林に着いていた。午前の真夜中は冷えて暗い。ジュリオはランタンを片手に先に馬車から降りて、シヴァリエの手を取って降車を手伝う。
ジュリオはルークの事もあるせいか屋敷まで行く気は無いようだった。
「姫様、お気をつけて下さいね。また何かありましたら、是非相談に乗らせてください。」
そう人の良い笑みを浮かべるジュリオにシヴァリエはずっと気になっていたことを聞いた。
「あの、助けてくれてありがとうございました。‥‥でも、どうしてこんなにしてくれたんですか?」
その問いにジュリオはきょとんとして目を瞬かせると、ふふ、と小さく笑った。
「ボクだって貴方を保護して適当に落ち着かせたら、あとは放置しようとしましたよ。でも、恋人がお節介を焼き始めてしまったのを見たら、自分もしなくてはと思うじゃないですか。結果的に貴方が元気なって良かったです、人助けもたまには良いですね。」
その嘘偽りない言葉にシヴァリエは驚く。ジュリオはどうやらシヴァリエを程々に見捨てるつもりだったらしいが、恋人がお節介をやいて‥‥恋人?
「‥‥恋人‥‥?」
「はい、恋人ですよ。ああ、もしかして勘違いしてます?ボク、こう見えて身体上の性別は女性ですよ。」
「え、あ‥‥そうじゃなくて‥‥恋人って‥‥。」
戸惑うシヴァリエに、やがていたずら心に満ちた人の悪い笑みを浮かべたジュリオは、馬車に乗っているやや呆れた表情をするその人に抱きついて言った。
「はーい、ボク‥‥いえ、私達、恋人同士です☆」
「誰にも言うなよ。」
「え、えええぇぇぇぇ‥‥。」
シヴァリエの驚きが林の中に消えていった。




