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第46夜(学園編) プロデューサーの介入

前回のあらすじ


世紀の大身分差カップル 宰相と平民。

 










 帰宅したシヴァリエ嬢に泣いて喜んだのはアンナだった。


 「シヴァリエ様~本当に、本当にどごにい゛らじだんでしゅか~~~!」


 使用人達は何時間も探してもいなかったシヴァリエが無事に帰ってきたことに本当にホッとしているようで、シヴァリエが帰ってきて早々駆け寄って五体満足なのを確認して深いため息を吐いた。

 「お嬢様、本当に心配したのですよ!?一体何時間、行方不明だったと!」

 「無事ですね?無事なんですね!?」

 「怪しい人間に何かされたとかも無い!?」

 しかし、そんな使用人の姿を見えど、ハルトの姿はいない。

 「あの兄様は‥‥。」

 「あっ、そういや居ませんね。」

 シーラが今気づいたように屋敷の奥を見る。そこには暗がりが広がっているだけで人気はない。



 結局、その夜、ハルトは帰って来なかった。









 +++++++++










 オフの日専用だというジュリオの家には既にルークの姿は無かった。

 3人分のマグをジュリオを鼻歌混じりに洗いながら、先程のシヴァリエの驚きようを思い出して、くすくすと笑う。


 「‥‥。」

 「おい、ジュリー、驚きすぎて固まっているぞ。」

 「えー。ルークがどうにかして下さいよー。流石に平民と貴族が恋人同士って目玉ドコーってなるのは分かってたでしょ。そもそもの言い出しっぺ、貴方ですし。」

 「どうにかしろと言われても、打ち明けたのはお前だろ。最後まで責任持て。」

 「いやいや、ここは彼氏側が最高に惚気ける場面でしょ。ねぇ、姫様。」

 「はあ‥‥今更12年にもなる付き合いの人間を惚気ようたって無理が‥‥。」

 「ケチー。酒飲んだらこっちが恥ずかしくなるくらいダダ漏れになる癖にー。」

 「おい、こら‥‥んなこと教えるな!」

 そんな様子を目の前で繰り広げられて彼女は思ったのだろう。シヴァリエは言ったのだ。


 「‥‥あの、凄く仲良くてお似合いですね‥‥!」


 それはお世辞だったかもしれない。

 しかし、初めて言われたそれにジュリオは上機嫌になった。





 面倒な洗い物も捗るというものである。

 ジュリオは洗ったマグを魔法で乾燥させると、さっさと食器棚に片付けるとソファに掛けていたカーディガンを羽織って寝支度を整えようとしていた。

 そんな時。

 控えめなノックが3回、人里からやや離れたこの家に来客を知らせるそれが突然、鳴り響く。

 ジュリオはそれに驚きつつ、冷静に近くにある戸棚に忍び足で駆け寄ると引き出しからマッチと‥‥紙巻きたばこを取り出す。

 吸う為ではない。()()()()()()()()()()

 ノックはまた鳴り響く。3回、まるで脅迫めいている。

 ジュリオは灰皿代わりの皿を1枚用意して、たばこにマッチで火をつけ、皿の中でタバコを燃やし始める。

 すると、たちまち部屋の中はたばこ独特の匂いに包まれた。微かな煙が部屋を満たすのを確認して、ジュリオはノックが鳴り響く扉に向かった。

 まるで、さも先程まで寝てましたよという体で。

 「‥‥こんな夜更けにどなたですか‥‥?」

 扉にチェーンをわざわざかけて、開く。

 そこには実に予想通りの人物がいた。

 黒い、その存在に、紫色の瞳が輝くその人‥‥。

 「‥‥おや、御領主。本日、面会の御予定などありましたっけ?」

 扉の外にいたのはハルトだった。

 妙に険しい表情のその人に、ジュリオは内心やれやれと思いながらも、絶対来るだろうと思っていたその人にとぼける。

 「クレーム対応は昼間にしていただけるといいんですが。あ、もしくは人に言えないような商談、無茶振りでしょうか?」

 とぼけながらも、ジュリオは絶対に扉のチェーンを外さなかった。中にハルトを入れることすらしない。

 そんなジュリオにハルトは小さく息を吐くと、口を開いた。

 「うちの‥‥シヴァリエが世話になったな。」

 それにジュリオは目を細めた。それが来訪の理由だろう、予想通り。しかし、表向きには感謝しているようだが‥‥さてさてその内面は何を思っているやら。最悪、こちらの行動は大方把握されているかもしれない‥‥後でルークに平謝りだろうか。ジュリオは警戒しながら言葉を選ぶ。

 「いえ、世話はしてませんよ。ボクは‥‥私は貴方の方が解せませんから。」

 「‥‥。」

 「シヴァリエ様を学園に入れる気はないんですか?」

 「さあな。」

 そう言って、ハルトは結論をはぐらかす。それにジュリオはため息を吐きたくなるのを堪えつつ、言った。

 「シヴァリエ様を私はよく知りませんが、あんな世間知らずじゃこの先大変ですよ。人の思惑に異様に疎いと言うか不自然な思考回路と言うか‥‥性善説でも信じているんですかね?貴方はどう思います?」

 「‥‥。」

 また黙りかよ、とジュリオは返答のない彼に諦めを感じながら、とにかく話を終わらせようと口を開けた。

 「‥‥とにかく、私はこれで。兄妹喧嘩は他所でやって下さい。あ、でも、シヴァリエ様が学園に入りたいと言ったら、全力で味方する所存なので。」

 じゃ、とジュリオが言いかけたその時に、ハルトは恐らくそれが本題だったのだろうことをジュリオに聞いてきた。


 「‥‥シヴァリエをお前が保護する前に、誰かシヴァリエの近くにいたか?」


 「‥‥はい?」

 思わず、ジュリオは首を傾げる。どういう質問だ。

 「いえ、あの子は独りでしたよ。シヴァリエ様も誰とも会っていないような様子と口振りでしたし。」

 「‥‥。」

 嘘はない。確かな事実だ。

 ハルトの表情は全く変わらない無表情だが、ジュリオは何となく彼にとって困るようなことが起こったのを察した。

 とはいえ、シヴァリエがこの家に来る前の出来事なんてジュリオには知った事ではない。それでハルト側に何らかの不利が発生していたとしても関係のないことだ。

 「‥‥シヴァリエ嬢に直接聞いては如何です?私はもう関係ないようなので寝ますよ。御領主の問題は御領主で。では。」

 無遠慮かつ礼儀も無しにジュリオは扉を閉める。特にハルトも指摘したり、止めたりもしない。こちらにもう本当に用はないのだろう。扉を閉めてしばらくするとハルトの気配もその場から消えた。

 ジュリオは去った嵐に小さく息を吐くと、放置していたタバコの近くに歩み寄った。

 「‥‥本当に不気味な人ですよねー。」

 そのタバコは先程までちゃんと棒の形状をしていた筈だった。だが‥‥ジュリオが皿を覗きこむと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()タバコがそこにあった。

 「あの人、本当に何者なんでしょうか‥‥。ルークには報告すべきでしょうか‥‥。」

 このタバコは身代わりの魔法がかかっている。

 出会ったあの時から、あの人物に会う度にこの常々携帯している紙巻きたばこは潰れるようになった。いつもはちょっと潰れたなぁ、と思うぐらいだったが、今日はその潰れ方が今までで1番激しい。原型がないのだ。‥‥つまり、身代わりのタバコがなければ、ジュリオは今日、()()()()()

 「‥‥ボク、あの人に何かしましたっけ‥‥?」

 思い当たるのはシヴァリエのことだが、彼はシヴァリエの入学云々、王命云々如きで手を下す男ではないのをジュリオは理解している。ならば、別のことだが思い当たる節は無い。

 辺境伯領は金稼ぎには今、1番良い土地だ。あの御領主の不可解さとタバコの末路を思えば離れるのが1番だろうが、まだまだ稼ぎたい為に離れたくはない。

 「‥‥まあ、どうせボクはどこに行ってもこうなるのですし、まだまだ居座りましょう。」

 そう呑気にも結論づけて、さっさと寝室に向かってジュリオは背を向けた。


 その途端、タバコが引きちぎれるように、裂傷を起こして自壊した。








 同じ頃、グラスゴーは悩んでいた。

 「‥‥プロデューサーの介入か‥‥。」

 シヴァリエは直ぐに見つかる筈だった。

 辺境伯領はハルトのテリトリー。そんな場所で何時間も見つからない筈が無かった。しかも、遠見の魔法や探し人の魔法でも見つからなかった。

 どこぞの達者な魔法使いに捕まったかと危ぶんでいたが、彼女はあっさり日が代わる頃に帰ってきた。

 曰く、ジュリオ‥‥あの商人の元に世話になっていたとか。

 ジュリオは敵でも味方でもない、辺境伯領の人間ではなく元は金の匂いにつられてやってきた、アーズワース商会と密接な取引が出来る程の腕のある外部の商人だが、決してシヴァリエを隠せるような魔法使いではないし、名実ともに過去の経歴も含め、平民かつ一般人だ。そんな彼女がシヴァリエを自分達から隠せる筈がない。

 裏があるのはすぐに分かった。

 そもそもこうした事が出来る人間は数少ない‥‥プロデューサーだ。

 この人物について、グラスゴーが知ることは少ない。否、ハルトの協力者で、実力者で、かつて何かハルトでも出来ないようなことを依頼したことだけは知っている。

 話によれば、調()()()()()だとか。

 とにかく、そのプロデューサーが何かしらの介入をして、数時間、ハルトやグラスゴー達からシヴァリエを隠した。その数時間、何があったのか、彼女が何を体験したのか辿ることは如何なる魔法でも出来ない。魔法が完全にブロックされてしまう。

 ただ、シヴァリエは妙に意気込んだ様子で、『学園に行くと決めました。だが、兄様が帰ってきたら、何が何でも説き伏せます‥‥!』

 と言っていた。何があったのか詳しくは教えてくれないが、ジュリオにコーヒーを貰い、色々世話になったようだ。

 しかし、学園に入る‥‥あの前王のことがある王都に行くのは危険だからと遠回しに言ったが、シヴァリエはどうも考えがあるようで、大丈夫です!と自信満々に言う。

 グラスゴーはその点でも頭を悩ませたが、このプロデューサーの介入によって、主であるハルトが妙に気が立っているような気がして、心の底から怖い。


 ‥‥とにかく、計画が順調だったのにここに来て、プロデューサーが介入し、彼が何をしたのか分からない以上、下手なことが出来なくなった。


 手がかりはシヴァリエ自身と、ジュリオだけ。


 「見張るか‥‥。」

 グラスゴーはそう決めて、遠見の魔法を発動させる。しばらくは彼女を監視しなければならない。プロデューサーと関わりのある人間だとしたら、これから厄介になることこの上ない。

 ‥‥もしくは。

 「わざとシヴァリエ様と行動を共にさせ、おびき寄せて釣り上げるか‥‥。」

 さてはて、どちらが得策か‥‥。



 「どちらにせよ。聖女が動き出す前にどうにかせねば‥‥。」



 ルーシフーの聖女、彼女がどうこうしようとも8年前の状態には戻せまいが、彼女が実に厄介な場所に嫁いだせいで無視出来ない。後顧の憂いは僅かでも絶たねばなるまい。

 「あーもうー頭が痛くなる‥‥。一難去ってまた一難ですか、ハァア‥‥。」

 グラスゴーのため息は止まる気配はない。










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