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第22夜 ストーカー現る。

前回のあらすじ


主人公、好かれすぎたっぽい。













それは突然のことだった。





「‥‥あ、あの‥‥初めまして。」



シヴァリエが家の庭に水を撒いていた時に突然現れたその子。

一目で魔族と分かる風貌のその同い年くらいの男の子にシヴァリエは、今や後悔するレベルで特に警戒せずに、新しく越してきた人かな?と実に呑気に考えていたものだ。

「初めまして、こっちに越してきたの?それともお兄様に住民票貰いに来たの?」

そうシヴァリエは愛想良く笑って、彼を迎えた。それに彼はほんのり頬が赤く染まったのだが、シヴァリエは気づかなかった。気づかずシヴァリエはきっと移住の子だろう、と思って、アンナかシーラに任せようと家に向かおうとした。

しかし。

彼は予想外なことをのたまった。


「あのね。僕、君を迎えに来たんだ‥‥!」


脈絡なく放たれるその言葉。シヴァリエが首を傾げるとその男の子はシヴァリエの手をしっかりと両手で握って。


「あの領主は危険だよ。僕のところに行こう?」


その言葉にシヴァリエは目を瞬かせ。首を傾げる。

「‥‥お兄様が危険?」

そこで彼は初めて、領主がこの子の兄だと知ったようで、目を見張った。そうして、やや考えて悩んで決意したように頷き、シヴァリエに告げた。

「うん。だって、僕の眼が焼き切れるかと思ったんだもん。あの人は危険だ。人に恐怖しか与えない。よく言えないけど君が一緒にいても、良いことないよ。尚更、僕のところに来るべきだ。」

しかし、そう告げた彼の手をシヴァリエは丁寧に解き、困ったように手を引っ込める。それに口外に出さない否定を感じて、彼は傷ついたようだった。

「‥‥何で‥‥?」

「私の心配をしてくれているのは有難いけど、私にとってお兄様は君が言うような人じゃないもの。凄く優しい人。それに知らない人に私は着いていけない。」

「‥‥知らない人‥‥?」

どこか呆然とする彼をシヴァリエは丁度やって来たアンナに事情を話して、彼を任せる。アンナは訝しげに彼を見つつ、シヴァリエを家の中に逃がしてくれた。その時、小声で。

「一応、グラスゴーさんに報告なさって下さい。」

そう言われて、シヴァリエは至急、グラスゴーの下に行って、報告した。すると、グラスゴーにはやって来た彼が誰だか分かったらしい。彼は実に苦い顔して、頭を抱えた。

「お嬢様、これからその方を見ても、必ず私かハルト様のところへ逃げてきて下さい。」

「‥‥逃げる?」

「はい。」

その時、シヴァリエは本当にまだ呑気なものだった。いきなり兄が危険だの、僕のところに来るべきだのよく分からないことを言う人だったが、自分にはそれこそ兄と使用人達が常にいるから、怖い事があっても大丈夫だと気が抜けていた。



そう、全てはこれからだったのである。



彼は毎日、シヴァリエのいる領主の家にやって来た。

ものの見事にハルトが視察や出先の時に限ってやって来た。そうして毎日こんこんとシヴァリエを説得するように言うのだ。

「あの人は危険だって。」

「僕のところに来て?」

「こんなところダメだよ!」

しかし、シヴァリエにとってハルトは心から慕うその人だ。平たく言えば目の前で悪口を言われているようなものでいい気分にはならず、そんな事を毎日言って来る彼を好きになれるはずも無く、更に毎日のように家にやって来る彼に前世のストーカーの影を見て、怯えるようになるまでに時間はかからなかった。

そうしたあまりの事態に使用人達も黙ってられず、彼が来訪する度にシヴァリエを隠し、彼を追い返すようになったのだが。



誰が思っただろう。


彼の恋心は実に真っ直ぐでぶっ飛んでいたのであった。



彼にはシヴァリエの居場所がすぐに分かるようで。そこまで押しかけるようになったのである。そう、シヴァリエの自室に。

思わず、シヴァリエは悲鳴をあげた。

彼なりに何か危機感と信念があるのは理解出来るが、彼にはどうにも人間関係の常識というものが無く、押しかけて悲鳴をあげたシヴァリエを見ても、「何か怖いものでも見たの?」と不思議そうに首を傾げ、シヴァリエが堪らず逃げ出しても自身の事だとは思っていないようだった。

そして、致命的なまでに彼は他人のプライベートを覗くことに、小さい時からその魔眼があるが故に抵抗が無かった。



「君、最近、やつれてるよね?眠れてないからじゃない?昨日も2時間ぐらいしか寝てないよね?それに夕飯もリゾットしか食べてないし、笑えないくらい酷いことされているんじゃないの?」

「(絶句)‥‥す、ストーカー‥‥!!」



こうして彼は誤解と様々な無自覚な失敗を重ねて、無事にシヴァリエからストーカーの烙印を押されたのであった。


シヴァリエは彼から逃げる方法を考えに考えた結果、ハルトの傍から離れなくなった。彼はハルトが恐ろしいのか、絶対にハルトだけには近づかなかった。領主として多忙なハルトだったが、事情を汲んでか特にシヴァリエに何か言う事なく外出時や仕事中でも近くにいることを許可した。むしろ、気を遣ってくれているのか。シヴァリエが寝不足で辛い時は自身の上着をかけてくれたり、彼がやって来た時に駆けつけてくれたりしてくれた。

おかげでシヴァリエの中のハルトへの好感度の上がりようは天井知らずである。‥‥ストーカーの彼?あの子は墓穴を掘りまくっているので論外である。


すると、彼は大胆なことに彼女が唯一ハルトから離れる夜に来るようになったのである。


流石にこれは本人も行き過ぎているとは感じているようだったが、彼女の安全の為には仕方がないと考えたようで、真夜中にやって来る彼にシヴァリエは更に疲弊した。

「帰って。」

「でも‥‥君の為なんだ。僕についてきてよ。」

「行かない。」

「なんで僕の言う事分かってくれないの?」

「帰って。」

こんな事が連夜続くようになり、シヴァリエはまだ小さいというのに目の下にクマが出来るまでに酷いことになっていた。

そうして昨夜もまたやって来て、シヴァリエを参らせていた。



そんなシヴァリエが知らないところで、グラスゴーもまた頭を抱えていた。そうして目の前のハルトに悩ましげに告げた。

「‥‥お嬢様が見てられません‥‥。」

「‥‥。」

「この数日、お嬢様はずっとあの状態。何か出来ることはありませんか?」

あんなに元気だったシヴァリエがこの数日だけであの衰弱ぶり、グラスゴーが心配になるのも仕方が無かった。彼女のことをグラスゴーは特に何とも思わないのが正直だった。ストーカーの彼のように執着することもなく、そもそも目が惹き付けられるということもない。せいぜい彼女はハルトが拾ってきたもう1人の仕えるべき人という認識で、特段、好意も無かった。しかし、流石にここ連日のあれには同情と哀れみを感じざる得ない。

だが、かと言って、ストーカーである彼‥‥先日、即位式を終えたばかりの幼き皇帝であるシリウスを簡単に振り払えないのも分かっていた。この国家間の緊張の中で、皇帝を無下に扱えばどうなるか分かったものでは無い。慎重に対応しなければならなかった。‥‥例え、やっていることの度が過ぎているとしても。

ここで何かの拍子で彼が命令して、帝国が攻めて来たら困る。非常に困る。

‥‥元より何故、幼いとはいえ皇帝が女の子を追いかけるのに夢中になっているのか分からない。‥‥王城の奴ら止めろよ‥‥。しかし、そうは思っていたとしても、彼は来るのだ。どうにかしなければならない。

「何とかならないのでしょうか?このままだとお嬢様が倒れてしまいます。家に4重ぐらい結界を張っても強行突破し、さり気なく魔眼の視線をお嬢様から外してもすぐに戻す。本当に彼、やばいんですけど。」

そうこちらだって彼に何もしていない訳では無いのだ。彼をシヴァリエに近づけないよう試行錯誤を繰り返しているのだが、だが、如何せん、魔眼持ちかつ王族の血を持つ魔族。対策が取れなかった。

恐らくハルトが本気出せば、彼を二度とシヴァリエに会わせないようにすることが出来るのだろう。記憶から消したり、その魔眼を奪ったり、魔眼にシヴァリエが映らないようにすることだって可能だろう。だが、彼には彼なりの考えがあるのか、ストーカーである彼には何もせず、シヴァリエのフォローばかりして大方、この件に関して静観していた。‥‥もしかするとグラスゴーが思うに、ハルトは彼に避けられているから何も出来ない、というのが正しいのかもしれないと思った。彼だって直接会わなければ、ハルトが何も出来なくなるのを分かっているから避けているのかもしれない。

しばらく部屋に沈黙が訪れる。

そうして、ハルトは淡々とだいぶ前から決めていたのだろう言葉を抑揚もなく告げた。





「シヴァリエと王都に行ってくる。」





いきなりの言葉にグラスゴーは言葉を失った。






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