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第23夜 王都へ

前回のあらすじ


ストーカーがやばい。

 











 久しぶりです。シヴァリエです。


 ‥‥凄く眠い‥‥。


 毎日のようにあの子が来るから全然寝れない。

 本当にあの子は何なんだろう。

 私がどんなに言ってもしつこくて怖い。時々違う言語で話しているような気がする。私のこと何だと思っているんだろう。お兄様が凄く嫌いなのは分かるけど、あの子、私と自分が一緒にいるのが当然みたいなことばっかり言うから‥‥正直、怖い。まこちーの頃みたい‥‥。私のこと好きじゃないんだよ。ああいう人って、私に重ねた“自分の理想像”が好きなんだよ。そこに私がいない‥‥。そんなのに付き合っていたら、後から怖いことになるの、私は知ってる‥‥。

 どうすれば、あの子、私を諦めてくれるのかな‥‥?

 もう本当に嫌だ‥‥。




 「シヴァリエ。」

 あっ、お兄様だ。ぼうっとしてたから、近くにいるのに全然気づかなかったや。

 「王都に行く。準備しろ。」

 おうと‥‥?

 おうとって‥‥もしかして‥‥王都?

 「王に謁見する。」

 え?え、えええええええええええええええ!?




 グラスゴーさん曰く、元々王様から王都に来るように命令があったんだって、ずっと断っていたけど断りすぎて、とうとう処罰が下りそうだから行くことにしたそう。

 グラスゴーさんから貰った予定表だと、船で王都までは2日かけていって、王都に着いたら2泊3日ぐらい帰りの船の関係で泊って、帰りも2日かけて帰るんだって。大体1週間くらいの外泊‥‥。長い。そう感想を言ったら、グラスゴーさんから折角です、王都ならあの子も来ない筈だから、ゆっくりお休みになってください。って言われた。


 確かにそうだ。


 1週間はあの子に会わないで済む‥‥。それに凄く心が軽くなった。

 それにグラスゴーさんが、私がいない間にあの子をどうにかしてみるって言ってくれた。グラスゴーさんも優しいお兄さんだな‥‥凄くその心遣いが嬉しい。優しいのはグラスゴーさんだけじゃない。この家の人はみんな、私に優しくしてくれる。甘えさせてくれるわけでも、甘やかすわけでもないけど、凄く私を助けてくれる。あの子から逃がしてくれたり、参っている私にお茶の1杯出してくれたり‥‥うん。私、この家が好きだ。血は繋がってないけど家族だと思える人達、私の居場所だ。いつか、みんなの為に何か出来るようになりたいなぁ‥‥。

 だから、正直にグラスゴーさんにこの話をしたら、何故か凄く泣かれた。‥‥何か言っちゃいけないこと言ったかな?


 ともかく私は急いで準備して、兄様とアンナと一緒に辺境伯領の港に来ていた。

 あの子に見つかる前に行きたかったから良かった‥‥。多分、私が王都に行くことが知れたら、何が何でも連れていくような気がするもの。ただアンナが馬車の中で兄様に異常に緊張して怯えていたのはただただ可哀想に思った。

 私はもうお兄様が怖くないけど、お兄様をよく知らない他の人からすれば怖いのは仕方が無いのかも。

 港に着いたら、お兄様の周りはどんどん人が逃げるように捌けていった。モーゼみたいって思っちゃったら、少し笑ってしまったのは内緒。

 そんな中、私達に手を振る人がいた。フェリーみたいな三階建ての船の入口で、お兄様を待っていたかのように佇む三人。獣人と魔族の人を引き連れた、黒髪に鴇色のメッシュが入った紅色の瞳を持った綺麗な人。でも、後ろに控えている人達の雰囲気からして明らかに偉い立場にいそうな人がそこに居た。

 「お待ちしていましたよ。御領主。」

 そう言ってその人はとても綺麗にお辞儀した。

 「まさか、ボクの船で王都に行きたいだなんて仰るとは思いませんでした。やはり陸路より海路ですよねー?」

 お兄様と親しげに話すその人はにこやかに笑うと私の方を見た。あんまり人に見せられる顔じゃないけど、その人はあまり気にならないみたいで私に告げた。

 「初めまして、姫様。ボクの事はジュリオと呼んでください。」

 話を聞くと、凄く若くて見た目20代くらいなのに、辺境伯領の全部の港を管理する商会の会長らしい。凄い。‥‥だけど、私のことを何故か姫様と呼んだり‥‥そもそも性別が分からなかったり‥‥何か謎な人だな。

 ジュリオさんは私達を船の中に案内して、説明した。

 「御領主と姫様には1番いい部屋を用意させました。今回の事は、向こうの商会にも話を通しているので、着いたら馬車の貸与と同時に、一時滞在場所である屋敷まで連れて行ってくれる筈です。」

 「‥‥。」

 「それと食事はこちらの船で運んでいる分で賄って下さい。向こうは戦争で食料なんて売ってすらいませんから。水も一応載せています。向こうは軟水ではなく硬水ですから、姫様は慣れないでしょうね。それと王都では下水がないので、外出は心して下さい。」

 下水がない‥‥どういうことだろう‥‥?ローザレンスのお家がどうだったか分からないけど、兄様の領地には下水が整備されてるから、全然想像つかないや。


 兎にも角にも、私達は王都に向けて出発することになった。ジュリオさん達はそんな私達を見送ってくれた。何故か私を見るジュリオさんが凄く楽しそうな笑顔だったんだけど、何だったんだろう?

 そんなことはさておき、アンナは初めての船旅らしくて出た瞬間からヤバそうだった。

 「‥‥吐く、ゲロ吐く、マジで吐く。」

 これで2日、大丈夫かな?





 今回、何で陸路じゃなくて海路で行くことになったかというと、陸路だと検問があるんだって。城壁の中に怪しい人を入れられないから、まる3日くらいずっと検問所で入国審査されるらしい。それはお兄様でも受けなくちゃいけないらしい。何で同じフローレンスなのに“入国審査”なんだろうと思うけど、とにかく検問所でひたすら待たされた挙句に、検査料っていうお金を払わないといけないから、何か嫌なシステムだよね。だから、辺境伯領の人は専ら海路で行くらしい。海は商人がしょっちゅう往航しているから検問が出来ないんだって、急ぎの荷物もあったりするから尚更。それに陸路より遥かに早く着くし。

 ちなみに移動魔法で王都に行くなら、一瞬で着けるらしいけど。王都及び城壁内では謀殺に使われる危険から移動魔法の使用及び開発は禁止されているんだって、便利なのに。


 ところで、兄様は王様と謁見するって言っているけど、1体、何を話し合うんだろう。私も同席するのかなぁ‥‥?



 兄様は何だかいつも以上に寡黙な気がした。必要なことしか話さない人だけど、出発してからはまともに声を聞いていない気がする。凄く気になるんだけど‥‥あの子がいないおかげで私、安心しちゃったのか。凄く眠くて‥‥うーん、後ででも大丈夫かな?

 とにかく今は寝よう。久しぶりにずっと寝られるもの。

 それにお部屋はお兄様と同室だ。何だかそれだけで凄く安心する。乗船して早々、読書に没頭しちゃったお兄様には聞こえないだろうけど、私は言った。


 「おやすみなさい‥‥兄様‥‥。」


 重くなっていた瞼を閉じたら、すうっと眠りの世界に入る。何だか凄く久しぶりにいい夢見るような気がした。










 ++++++







「陛下、今日という今日は許しませんぞ!」

「エンコフ離せ。僕はあの子をどうしても説得して、ここに連れてきたいんだ。」

 「ダメなものはダメです。陛下という立場をお考え下さいませ。」

 「‥‥皇帝なんて知らない。チェルマンに任せればいいじゃないか。僕はどうしても‥‥あれ?」

 そこで、少年は初めて気づく。

 辺境伯領に少女がいないのを。そして、その辺境伯領では使用人達が何故か“シヴァリエの部屋を綺麗に片付けている”のを目の当たりにする。

 「え?え?え!?」

 「陛下?」

 家具から何から片付けられているその様子はまるで“引越し”のようでもあった。少年は急いで少女を世界中から捜す。そうして、海上にいるのを見つけた。久しぶりに見る幸せそうに眠るその人の隣には恐怖のあの人がいて、少年はびくりと震える。そうして船を隈無く調べると、その船はなんと王都行きの船。

 少年の顔がさあっと青くなった。

 「もしかして‥‥王都に引越しちゃうの?」






 +++++++






 一方、その頃の使用人達。




 「しかし、これで騙せますかね?」

 「魔眼持ちでもガキんちょに変わりないから大丈夫でしょ。」

 「ま、どうせ良い機会ですよ。今までのお嬢様の部屋ではお嬢様を守れませんでしたし。」

 「有難いことに、明日からはカタリナさんが手伝ってくれるそうだ。」

 「とりあえず、この1週間。どうにかしてストーカーを辞めさせてやるぞ!」

 「おう!」










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