舞い散る花は…
ハチと伊織の春の花にまつわるお話です。
「ねぇ、いーくん、ちょっと散歩に行かない?」
食後、ソファーでまったりと配信を見ていたら、珍しくハチからのお誘いが。
もう、21時すぎ。こんな時間に?でも、ハチのことだ。何かあるんだろうな。
「いいよ?近く?」
「それは着いてからのお楽しみにしておいて」
そう微笑むハチに手を引かれ、二人で家を出た。
まだ4月上旬。昼間は暖かいのに、夜は少しだけ肌寒い。
ときおり、風がそっと頬を撫でていく。
月明かりが綺麗な夜だ。
白い光があたりをぼんやりと照らして、俺たちの足音だけが響く。
そんな住宅街の路地を二人並んで歩くと…
「え?もしかして…」
隣を歩くハチがニコッと笑った。多分、行き先はあそこだろう。
二人で新年を迎えた小さな神社。
でも、なんで今日なんだ?
ハチは種明かしをしてくれないだろうから。でも、着いたらわかるか。
無言で歩いているのに、重苦しさがない。
その理由に思い当たって、心が少し温かくなった。
「そうだ。いーくん、目、閉じてよ」
「え?」
ちゃんと引っ張っていくから、とか言ってるけど。
なんか、楽しそうだ。
手を引かれるまま歩いていたら、ハチが止まった気配がした。
「着いたよ」
そっと目を開ける。
「…………」
「サプライズ成功かな。びっくりしてくれた?」
声が出なくて、何回か頷くことでハチに答えた。
桜の木が一本、ぼんやりと白い空気の中に凛と佇んでいる。
風が吹くたび、ひらひらと舞う光景は幻想的で、言葉が見つからなかった。
いつもなら写真を撮るのに、それをするのが憚られるような空気感。
ただただ、その光景に見惚れた。
「“散る”って言葉は、桜にしか使わないんだって」
ハチがゆっくりと喋り出す。
「儚さや優雅さ。確かに、舞い散るって、桜にしか似合わないもんね」
月明かりに照らされたハチの横顔、なんか……桜のようだ。
儚く、消えそうな…。でも、凛としている。
返事も出来ず、ハチの言葉をじっと聴く。
「ちょっと冷えてきたし、帰ろうか」
手を引かれ、来た道を戻っていった。
帰り道、ハチが他にも花の終わりの言葉があるんだよって教えてくれた。
牡丹は崩れる。
椿は落ちる。
梅はこぼれる。
今度、番組で使おうって思ったのは、内緒だ。
実際にこの言葉を教えてもらった時、椿は知っていましたけど、他は「そうなんだ」ってなりました。
もっと日本語を知らなくては…ですね。




