最高位
この物語はフィクションです。
西暦1582年6月13日
13時00分 近江国・安土城
「これは近衛様。急なご来訪とは一体?。
何かございましたか?。」
「織田殿。率直に話がしたい。大切な話だ。
そちらは日向守殿と堀(久太郎秀政)殿も、出来れば同席して頂きたい。」
「無論構いません。お話をお伺い致します。」
「織田殿、単刀直入にお聞きしたい。
貴殿は・・・、関白・太政大臣・征夷大将軍のいずれかの職に就いて欲しい。」
「以前にお伺いしました三職推任ですな。」
「そうだ。貴殿に日の本の政治を全て任せる。
主上のご意思である。」
「主上の・・・、それは又大きな事ですな。」
「前回この話が出た時には、征夷大将軍は足利義昭公が保持したままだった。
だが今は当の本人は織田の庇護下にある。
そして称号は自ら『前将軍』と名乗っている・・・。
もう貴殿の征夷大将軍への就任に障害は無い。」
「・・・、そうですな。」
「言わずもがな織田家は武家。
関白・太政大臣・征夷大将軍では、征夷大将軍が座りが良いと思われる。
どうであろうか。」
「・・・、・・・、某が征夷大将軍となったとして。
朝廷としては半年後に嫡子・三位中将信忠に、征夷大将軍を譲っても構いませんか?。」
「もちろん構いませぬ。
征夷大将軍はそうして、織田家の家職として代々受け継いで行く。
その形で何の支障もござらぬ。」
~~~~~
13時30分 同
「近衛様。この信長、朝廷への尊崇の気持ちは今も昔と変わりありません。
今後もです。
朝廷への変わらぬ気持ちを表す為に、内裏の全面的な建て替えの費用を全額出させて頂きたい。
合わせて主上が引退後の住居である、『仙洞御所』も全面的な建て替えの費用を、全額出させて頂きたい。
如何でしょうかな?。」
「それはそれは・・・主上も喜ばれるでしょう。
織田殿、真に忝い。」
「いえいえ征夷大将軍、就任のお礼でございます。
そうだ。合わせて安土城への行幸(天皇が各地へ外出する事)をお願いいたしたい。
この信長、主上への感謝の気持ちとして、精一杯おもてなしをさせて頂きます。
7月の始め頃では如何でしょうか?。」
「織田殿。真に有難し・・・、主上もお喜びなされるでしょう。」
(ふぅ~、良かった。本当に良かった。
この数日間。織田殿の事を調べに調べ尽くした。
儂も織田殿との付き合いは長いが、1から10まで何もかも検証した。
その結果、あくまで織田殿は朝廷に対して、主上に対して尊崇の思いを持っていると確信した。)
(織田殿が嫌うのは華美で浮ついた人物や物事だ。
幸いにして主上は質実清廉な人柄。
貧しく苦しい時も粘って粘って・・・お勤めを果たしてこられた。
織田殿の人物の好みと合っていた。これも大きい。)
(織田家の嫡子・三位中将信忠殿も優れた武将だ。
そして朝廷を敬ってくれている。
信長殿100年の後も織田家は盤石・・・。
後継者も朝廷は大切にしてくれる・・・、少なくとも無碍にはされまい。)
(今後は朝廷自体が自ら襟を正さねば。
下手に不祥事や醜聞を起こしてしまっては、織田からの気持ちが冷めてしまう。
おかしな事やマズイ事が起きたら、火が小さい内に消す。
そして火はそもそも出さない様に、綱紀粛正に励まねばならない。)
(今後は日の本は織田に統一されて、平和な時を迎えるはずだ。
そういう時こそ気の緩みが怖い。
信長の本性は苛烈だ。公家がおかしな不祥事・醜聞は起こさない。
今後は特に気を付けねばならない。)
(・・・この報告ならば主上も大いに安心するだろう。
これら一連の事が終われば、主上の引退をして上皇様への道も開ける。
儂もまだまだ頑張らねば。
そうして朝廷の次を担う者への襷を繋ぐ。
それが儂にしか出来ぬ大役だからな。)




