戦う事が武士の存在証明なのか
この物語はフィクションです。
西暦1582年5月31日
9時50分 備中国・高松城付近
「・・・。・・・。」
「・・・。・・・。」
「ご当主殿。我らに話したい事があるのでしょう。
お聞き致します。」
「吉川の叔父上。お爺様の遺言を覚えておいででしょうか。」
「無論。『毛利は天下を目指すな。天下を取った家は必ず滅びている。』。」
「私はこう解釈しております。
『無謀な天下統一の野心を持たず、地元の安定と一族の繁栄を優先すべし。』」
「まぁそう解釈も出来る事ですな。」
「今の毛利は家が亡ぶか残るかの瀬戸際です。
織田は元々強大・・・。軍事力でも経済力でもです。
今は信長本人がこの地まで来ていますが・・・。
もし、仮に、この場で万に一つ、毛利が勝つ事が出来たとしても。
もう毛利に戦力は無い・・・。」
「・・・異論は無い。今が現状の最大の力。
そして目の前の織田に勝ったとて、もう毛利の財布は空っぽだ。
既に今までの織田への対抗で使い果たした。
頼みの石見銀山の産出量は年々増えているが、とてもとても戦費の増大に追い付かない。」
「そして現実には織田には追い風が吹いています。
レンタイ国という未知の南蛮国家が、熱烈に織田家を支援している。
金も兵も織田の御用商人の如くドンドン出す。
今織田領は空前の好景気・・・。勢いが違いまする。」
「ぐっ、口惜しい事だ。」
「小早川の叔父上、何か策はございませぬか?。
毛利と吉川と小早川・・・そして傘下の各領主が生き残る術はございませぬか?。」
~~~~~
10時05分 同
「降伏。それも織田家の新参として。
対九州戦、対四国戦での先鋒を受けて働く。
領国の内、安芸国・石見国・出雲国は本領安堵。
後は条件次第で長門国・周防国は残るかどうか。
更に我らの虎の子、石見銀山と周辺は織田領。
残った毛利の国の中でも、大きな港の周辺は織田領。
この形ならば織田に大きな利益がある、これならば織田も真剣に毛利の降伏を取り扱う・・・。」
(ぎりっ、ぎり・・・。)
(吉川の叔父上が鬼の形相だ。
世間で言われている通り、吉川の叔父上は猛将だ。
この様な屈辱的な降伏案など一蹴にすると思われている。
だがしかし、怒りで顔が真っ赤になっている反面。
頭は高速で回っている・・・。)
(吉川とて諜報組織は持っている。
今の織田の力、レンタイ国の熱烈支援を受けている力も理解している。
毛利は勝てない、もう勝ち筋など無い。)
(それなのに織田方には勝ち筋は大量にある。
金をバラまいて参陣している領主を寝返らせる事だって可能。
寝返りまでいかずとも、戦い開始後に自陣で篭って戦わない『不戦』をさせる事だって可能。)
(今度のレンタイ国は6,000人の雪系・炭系部隊がいるんだ。
備中高松城をボロボロにした『投石機』だって、どれほど運用してくるか?。
10台での攻撃だった前回と違って、もっともっと多いのは確定的だろう。)
(父上の三子教訓状にしろ、遺言にしろ。
なんせ言いたい事は毛利をどう残すかだと、儂は解釈している。
織田と戦うと破滅だ。
屈辱でも泥を啜ってでも毛利を残す。)
(対九州戦なら大友・龍造寺・島津。何れも強敵だが、織田と違ってやり様はある。
対四国戦の長宗我部が相手ならばやり様はある。
戦いにはなるはずだ。毛利が先鋒。織田が後ろに控えているなら戦える。)
(意地を張って織田と戦えば、毛利は残らない。
今織田に降れば、織田は面倒な毛利掃討戦をしなくて済む。
その後の地元の面倒な反発も発生しない。)
(ぐっ、ち、くちしょうが。毛利を残す為には降伏しかない。
隆景の案よりも更に過酷な条件となったとしても、織田とは戦えない。
家を残す、その為には心を鬼にして屈辱を受け入れる・・・しか無い。)
~~~~~
10時10分 同
「ご当主様。儂は隆景の案を受け入れまする・・・。
毛利を滅ぼしては父上に顔向け出来ぬ。
その案で・・・あるいは更に過酷になろうとも儂は。
毛利が織田に降る事を支持します。」




