8-10
競技開始2日目。俺たちは1日目の道順を引き返し、またも森の外周部に沿って歩いていた。
第3チェックポイントの正確な位置はすぐに判明した。俺が転移してきた例の洞窟のすぐ外、ピオネール北西に広がる森の奥だ。確か、プリムラは前に"施しの森"と呼んでいたか。
地図上にシンボルマークとして樫の木が描かれていたのが決め手だった。俺の記憶が確かなら、あの洞窟は大きな樫の木の根元にあったはずだ。
川沿いの街道まで戻った後、比較的魔物の少ないピオネール近郊を経由して一気にチェックポイントまで走り抜けるというのが2日目の行動計画だった。
それにしても昨日は散々だった。第2のチェックポイントを探して周辺の鉱山を巡りに巡った俺たちは、最後の1か所になるまでハズレを引き続けたのだ。
ようやくチェックポイントを発見した頃にはもう日も暮れかけていたため、リザードマンの残党が潜んでいる可能性も考えた結果、俺たちは野宿ではなく近くの町に入って宿で一泊することにした。ルートからは少々外れることになるが、安全には代えられない。
ちなみに、その町の鍛冶屋で矢を補充しようとしたところ店主に売り切れだと告げられた。ここ最近魔物が増加していることよって騎士団から大口の発注が続き、供給が追いつかなくなっているのだという。
つまり、マナは未だにあの危険すぎる始原魔術以外の攻撃手段を持っていないのだ。実質何もできないに等しい。
「るるらるら~、たらりらーりら、ふんふんふー♪」
「……にしては、元気そうだな」
鉱山を滅茶苦茶にしたことで凹んでいたマナだったが、一夜明けてからはだいぶ持ち直し、今では御覧の通りだ。そこらに落ちていた枝で近くの藪をバシバシ叩きながらどんどん先に進んでいく。
「切り替えが早いのはいいことなんだけどな……」
失敗を後に引きずらないポジティブな性格、ということにしておこう。能天気だなんて、滅相もない。
逆にジャンヌは昨日の反省会を脳内で行っているのか、口数少なく思索の世界に没入していた。
「そんなに思い詰めなくても大丈夫だって。まだ他のチームより遅れてると決まったわけじゃないんだからさ」
ジャンヌの隣に並んで努めて気楽に声をかける。3度目の声かけで彼女はこちらに気付いてくれた。
「ごめんなさい。焦ってるというわけではないのだけど、どうすれば効率的に時間を短縮できるのかずっと考えていたの」
一般的にその精神状態を焦っていると言うのだ。
ジャンヌは真面目だが、真面目が過ぎて思考が空回りしては意味がない。道理でガウェインが心配するわけだ。
「バレッタって子にひと泡吹かせてやりたいのは俺も同じだよ。けど、無茶は禁物。昨日みたいなことがまた起きないとも限らないんだし、最低限の安全は確保していこう」
「そう、ね……。戦場では冷静にならないと、一瞬の油断が命取りになりかねない。分かってはいるのだけど」
ジャンヌは深呼吸をして気持ちを落ち着けると、ルンルン気分で前を歩くマナの姿に頬を緩めた。
「彼女が少しだけ羨ましいわ。天衣無縫というか、常に自然体な感じがするから」
「なら、ジャンヌもそうすればいいんじゃないか?」
「無理よ。厳格な家で育ったものだから、力の抜きどころが分からないの」
何事にも全力でぶつかるジャンヌらしい悩みだ。
そんな彼女だからこそ自分でも気付かないうちに色々と溜め込んでいって、ふとしたきっかけで爆発するのだろう。感情の移り変わりが激しいマナとは正反対だ。
「私もマナのような生き方ができたらいいのに……」
「あれは何も考えてないだけかもしれないけどな……」
クラス1の優等生から高評価を得た当人はというと、森の奥を見つめながら目をぱちくりさせていた。
珍しい虫か花でも見つけたのか、あるいはリザードマンか。しかし、そのどちらでもなかったようだ。
茂みの中から姿を現したのは、深緑の装いに身を包んだ銀髪の女性……樹海の入り口で出会ったマクベスの相棒、シクサだった。
シクサは無言だったが、若干困惑しているようにも見えた。道なき道を歩いていたら偶然知り合いと鉢合わせたのだから当然といえば当然か。困惑しているという意味では俺も同じようなものだったが。
(……まさか、こんなところでシクサに出会うなんてな)
ダンジョンの中で何かしらの目的の下に行動している彼らを発見し、その意図をこっそり調査する……というのが俺の想定していたパターンだっただけに、ただの道端で遭遇するなんて思ってもいなかった。
しかも、見たところ今の彼女は1人だけ、マクベスは別行動のようだ。正直なところ、俺はマクベスのことを気にするあまり彼女単体で現れた時の対応なんて考えていなかった。
マクベスのことを最も良く知るのは彼と行動を共にしているシクサ以外に存在しない。だからといって、ここで彼について根掘り葉掘り質問をしたところでスルーされてサヨウナラ、という展開以外見えてこない。
「その、こんなところで何してるんですか?」
考えた末に出たのは実に当たり障りのない台詞だった。
まあ、いきなり森から出てきたのだからこれぐらいの疑問を持つのは自然なことだろう。この程度では怪しまれたりはしないはずだ。
「あなたの質問に答える意味がない」
怪しまれはしなかったが、バッサリと切り捨てられた。マクベスが傍にいない時ならばもしや……と思ったが、シクサ自身も社交的なタイプではないようだ。
早くも会話は寸断、これにて御免かと思いきや、シクサの方から意外な提案を持ちかけてきた。
「でも、私もあなたに質問がある。だから取引をしましょう。お互いに1つずつ質問して1つずつ答える。それならいい」
願ってもないチャンスだった。シクサの真意は読めないが、俺なんかの持つ情報と引き換えにマクベスのことが分かるなら安いものだ。
暗い影を背負った英雄に寄り添い続ける謎の女性、シクサ。彼女はいったい、何を考えているのだろうか?




