7-15
今回は短いです。昨日の分が長めだったから許しておくれ…
**
同時刻、黒く塗られた教会の屋根に影が2つ。
小さい影は切妻屋根の頂上部に沿ってその身を横たえ、大きい影は北国の屋根特有の険しい傾斜をまるで無視するかのような気楽さで、斜面の上にゆったりと腰を下ろしていた。
『ね?彼って面白いでしょう?』
大きい影が愉快そうに笑う姿を、小さい影は何とも微妙な表情で見つめていた。
『いや、しかし……これは果たして冒険者に役立つ類の特殊性なのか?私には強迫観念に突き動かされているようにしか思えんが』
『動機なんて何だっていいのよ。重要なのは"他と違う"というただ1点。異質なニンゲンは、今までにない結果を導き出すものよ』
『なるほど。定石通りの冒険者に飽きたから、今度はキワモノに目を付けたというわけか。もう少し期待するに足る根拠があるのかと思っていただけに落胆もひとしおだな』
『言ってなさい』
相変わらず彼女は気紛れで非合理的だ。遅々として進展しない状況に疲れ、捨て鉢になっているのか、それとも深遠な意図が秘められているのか。どうせ前者だろうと小さい影は考えていた。
小さい影はめんどくさそうにあくびをすると、話題を変えた。
『それにしても"英雄"か。たかがニンゲン1人、何を企もうがダンジョン攻略の趨勢に影響を与えるとは思えんが……気になるな』
『困るわよね。やる気がないならせめて他人の足を引っ張る真似だけはしないでほしいわ』
『外野からヤジを飛ばすだけの我々が言えた義理ではないがな』
『私たちは誰にも聞こえない所で愚痴ってるだけだからいいのよ』
『生産性がないという意味では大差ないと思うが……。まあいい。それより"奴ら"が関係している可能性は?』
『どうかしらね。100年も地下でコソコソやってきた連中が今になって人前に姿を見せるなんて、考えにくいけれど……でも』
『でも?』
『"英雄"があなたや彼の論評通りのニンゲンだとすれば、"私なら"利用するわ。あの手の破滅主義者は手段を与えてそっと背中を一押ししてあげるだけで、あとは思惑通りに動いてくれるもの。使い勝手がいいのよ』
『君が言うと実に説得力があるな。……仕方あるまい。少しばかり動いてみるか』
『動く?あなたが?馬鹿な事は考えない方がいいわ。だってあなた弱いじゃない』
『君は鏡を見た方がいいな。もっとも映らないかもしれんが』
『映ろうと思えば可能よ。疲れるから滅多にやらないけど』
このままではいつものくだらないやりとりで時間を浪費してしまう。小さい影は話を先に進めるため、あえて自らの負けを受け入れた。
『何もダンジョンに入って魔物相手に大立ち回りしようなどとは考えていないさ。私には足がある。危険に遭遇しない程度に歩き回って調査を進めるだけだ』
『なら、構わないけど……アテはあるの?』
『以前、談話室であの少年が話していた場所だ。あれは確か……そう。"牙の山脈"だ。しばらくはあそこを中心に当たってみる』
『へぇ、学生寮にまで潜り込んでいたなんて、やるじゃない。オズ、あなた立派なスパイになれるわ』
『誰かの子飼いになるつもりはないな』
『あら、今だって私のペットみたいなものじゃない』
『どうやら君との関係を真剣に考え直す時が来たようだ』
オズと呼ばれた小さい影は屋根から地面に降り立つと、グラウンドの向こうに消えていった。
**
7章終了。




