表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ冒険学部へ  作者: 嶋森智也
第5章:クエスト「採石場の死闘!」
53/298

5-13

 岩陰から姿を現したコカトリスは、俺たちに向かって短く一鳴きすると進撃を開始した。

 太い枝を根元で結び合わせたような4本の指で足元に転がる魔物の残骸を容赦なく踏み砕きながら、一直線に突き進んでくる。

 俺はメリッサ先生から預かってきた呪符をジャンヌに手渡しながら、コカトリスの攻撃に備えて神経を張り詰めさせていた。


「3枚しかないから石化を防げるのは各自1回だけだ。注意してくれよ」

「大丈夫よ、こういうものを過信しすぎないように鍛えられているから。あくまで保険と考えているわ」

「1ミスしてもOKって意味では十分すぎるぐらいだね。……いや、やっぱりあと2、3枚欲しかったかな?」


 一応石化を治療する薬も持ってきてはいるのだが、そちらは効果が出るまで数分を要する。その間に攻撃を受ければ一巻の終わりだ。

 夜闇に紛れて奇襲する作戦も今となっては意味のないものだ。現在時刻はだいたい正午過ぎ、ほぼ真上から俺たちを見下ろす太陽が採石場を余すところなく照らしていた。


(さて、どう攻めるか……)


 俺たちは呪符のおかげでたった1回ではあるが無茶な攻め方が可能になっている。ジャンヌはあくまで保険と言っていたが、俺はこの保険を存分に活用するつもりだった。

 何といっても相手側は2回石化ブレスを命中させるだけで勝利が確定するのだ。長期戦になれば俺たちの方が不利になるのは明々白々だ。

 あえてブレスを誘発させ、呪符の効果でゴリ押ししつつカウンターを叩き込む。一撃必殺が理想だ。


「……来るわ」


 ジャンヌが警告を発した直後、コカトリスの頭がグッと前のめりになったかと思うと、その体が見る間に加速する。

 急激に回転数を増やした両脚が土煙を上げて迫る。あの中に巻き込まれれば人間など簡単に引き裂かれてしまうだろう。

 今脚部に手を出すのは自殺行為だ。狙うは頭か、最も柔らかそうな胴体か。どちらにせよ地上からでは届かない。

 突進を回避するためジャンヌは右、グロムは左に飛んだ。俺が選んだのはそのどちらでもない。上だ。

 足の魔力をほんの少しだけ高めて2メートルほど飛び上がった俺の眼前に見えたのは、地面とほぼ水平に首を曲げながら迫りくるコカトリスの頭だった。

 この速度だ、前に突き出た頭部の直撃を食らえばひとたまりもない。何しろあの小さな面積に衝突時の全エネルギーが掛かってくるのだから。

 だが、それは相手も同じこと。

 気功術で強化された俺の肉体がコカトリスの頭蓋骨に強度で勝れば、その時点で俺の勝ちだ。

 俺は空中で右手を大きく振りかぶると、奴の頭に最大パワーの攻撃をお見舞いしてやろうと魔力を高め──


「────なっ!?」


 そうして俺が今まさに殴りかかろうとした瞬間だった。コカトリスの頭が突如として俺の拳を回避するように持ち上がり、必殺の一撃がむなしく空を切る。

 こちらの思考を完全に読み切ったような動きに俺は動揺したが、実際のところコカトリスは俺の行動になど頓着していなかった。奴はただ、攻撃の"準備動作"を行っていたにすぎなかった。

 斜め上からコカトリスの嘴が槍のように突き出される。キツツキが幹を穿つが如く、突進の速度に嘴の加速を加えた神速の杭打ち動作(パイルバンカー)だ。

 俺は反射的に両腕を交差させて気功術を発動する。嘴は運良く交差させた部分で受け止められ、前に出していた左腕の骨が砕けるだけで済んだ(・・・・・・・・・)


「っ……、利き腕じゃないだけ、マシか……」


 コカトリスに文字通り突き飛ばされ、よろめきながら着地した俺は激痛に顔を歪ませる。我慢はできるが痛いものは痛い。

 左腕が前だったのはただの偶然だ。「怖いのは石化だけ」なんて自惚れもいいところだった。

 とはいえ、悪いことばかりでもない。コカトリスの運動エネルギーは先ほどの攻撃によってすべて消費されてしまったらしく、2本の脚はその動きを完全に停止していた。


「ようやく止まったわね。グロム、合わせて」

「了~解」


 左右に分かれて攻撃のタイミングを見計らっていたジャンヌとグロムが、ほぼ同時にそれぞれの武器を振り抜いた。

 2人の攻撃はコカトリスの無防備な横っ腹を狙ったものだった。鍛え抜かれた肉体から繰り出される斬撃は、並の魔物であればひとたまりもない。

 しかし、そこで俺が目にした光景は鮮血を飛び散らせて切り裂かれるコカトリスではなく、渇いた音を立てて弾かれる2人の武器だった。

 コカトリスの持つ緑色の翼が左右両面に展開し、鉄のカーテンのように攻撃を遮断してしまったのだ。


「くっ、さすがに硬い……!」

「ドラゴンの翼は伊達じゃないってことか。面倒だねえ」


 伝説の種族であるドラゴンの鱗は物理、魔法共に桁違いの防御力を誇り、生半可な手段では傷一つ付けることができないと言い伝えられている。

 コカトリスの翼がドラゴンと同一のものなのか、それとも見かけだけの紛い物なのかは知らないが、少なくとも今の俺たちが破壊するのは困難だろう。

 俺たち全員の攻撃を一通り凌ぎ切ったコカトリスはそれ見たことかと言わんばかりに一鳴きすると、自分から1番近い位置にいたグロムの方に向きを変えた。

 ゲップのような音がして、コカトリスの喉にポッコリとした瘤が出来上がる。斧槍を横向きに構えながら後退していたグロムが血相を変えた。


「あっ、ちょ、待っ──」


 次の瞬間、コカトリスの口から鼠色のブレスが噴射された。

 正確には何らかの粉末、灰に近いものが殺虫剤よろしくグロムに吹き付けられたのだ。

 石化のブレス。これこそがコカトリス最大の武器であり、最も警戒すべき攻撃。

 それをモロに受けたグロムはしかし、他の魔物たちのように石像と化すことはなかった。

 良く見ると、彼の鎧の下、首元の辺りから白い光が漏れ出ている。光は数秒間に渡って明滅するように輝き続けた後、ゆっくりと消えていった。


「し、死ぬかと思った……」

「呪符、ちゃんと起動したんだな。良かった……」


 メリッサ先生の腕を疑っていたわけではないが、実際に石化してみないと効果が確認できないのはやはり心臓に悪い。

 当のコカトリスは石化しなかったグロムを鳥類特有の薄気味悪いポーカーフェイスで見つめた後、何を思ったのかグロムを無視して今度は俺に狙いを定めてきた。

 奴の喉が再び膨張を始める。先ほどの様子を見る限り、この状態から発射に至るまでの時間は多く見積もっても1秒といったところだ。要するに一刻も早く逃げないとマズい。

 ブレスの射程がいまいち把握できていない現状で後ろに避けるのはリスクが高い。かといって横に避けるとグロムやジャンヌが巻き込まれる。

 長々と考え込んでいる時間はない。俺は思い切って前に逃げることにした。

 コカトリスがブレスを吐き出すその刹那、奴の股下に飛び込んだ俺は、脇目も降らずに腹の下を潜り抜けて、そのまま後ろへと突っ切った。

 さらに数歩進んで距離を開けてからコカトリスに向き直る。前線ではジャンヌとグロムが再び左右から斬り付けていたが、それも前回と同様にコカトリスの翼によって防がれていた。

 あの翼がある限り側面から胴体への攻撃は意味がない。前か後ろか、あるいは脚か。

 ジャンヌも同じ考えに至ったのか、突進やブレスに身を晒すリスクを犯してコカトリスの正面に移動していた。

 後方に大きくバックステップして嘴による刺突を回避したジャンヌは、すぐさま左手を前に出して魔術の詠唱を開始する。完璧なタイミングだ。


「『炎よ。天の御子よ。我が手に集いて敵を討て』!」


 ジャンヌが生み出した火球はプリムラのものよりも一回り小さめだったが、その速度は相当なものだった。

 防御も回避も間に合わない。少なからずダメージを与えられるはずだと俺は確信していた。

 ……だが、そこでコカトリスは思いがけない行動に出た。

 奴は短く息を吸うと、飛来する火球に向かって、まるで唾を吐くように、小規模なブレスを噴霧したのだ。

 赤々と燃え上がる火球が、コカトリスに着弾する手前で灰色の霧に呑み込まれる。霧を抜けた火球は、もはや火球と呼べる代物ではなかった。

 世にも珍しい"火球の石像(オブジェ)"は、自らに与えられた重みでみるみるうちに減速し、コカトリスまで到達することなく地面に墜落すると、バラバラに砕け散った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=822186933&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ