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負傷者なし、取り逃がした魔物なし。ややもたついたが、初戦はひとまず俺たちの勝利と言っても良かった。
辺り一面に転がっていた魔物の死体を1か所に集め終えた俺たちは、ジャンヌの魔術で魔物たちを火葬することにした。
依頼内容には含まれていなかったが、死体を放置すればまた他の魔物が寄ってくることもあるだろうし、坑夫たちが戻ってきた時に腐乱死体が散乱していたら、彼らも働く気をなくすかもしれない。
薄い黒煙を上げながら炭化していく死体を囲んでいる俺たちは、苦々しい気持ちで先ほどの戦闘を振り返っていた。
「いやあ、やっぱり頭数が揃ってると楽ちんだね。ボクたちって意外といいパーティになれそうって思わないかな?」
「現実逃避するのはやめよう、グロム。俺たちのチームワークはチームワークとも呼べないグダグダなものだったと受け入れるんだ」
「客観的に見ても、かなりみっともない戦いだったことは認めるわ。他人と合わせるのがこんなにも難しいだなんて思わなかった……」
俺たち2人に否定されて膝を丸めたグロムは、あまり食欲をそそられない臭いを放ちながら燻り続ける死体の隙間にもそもそと枯れ枝を差し込む作業を開始した。
煙はそれほど高くまで上がってはいないので、採石場にいる魔物たちに気付かれることはないだろうが、あまりゆっくりしている余裕もない。俺は気を取り直して建設的な議論を開始することにした。
「俺たちがパーティを組むのはこれがはじめてなんだし、阿吽の呼吸とまでは言わないけどさ、そういうのを抜きにしてもさっきのは酷すぎた。
とりあえず、お互い何ができるのか、どんなことが得意なのか情報を共有しておかないか?それだけでもだいぶ違うと思うんだ」
本来ならこの手の話はジャンヌが飛び出す前にやっておくべきだったのだが、それを口にしたところで仕方ない。俺たちに今必要なのは責任の擦り付け合いではなく相互理解なのだ。
「じゃあ、まずは俺から。見ての通り素手だけで戦う武闘家だよ。気功術ってやつのおかげで身体能力や防御力には自信があるけど、まだ修行中だから持久戦になると辛いかな」
「へえ、その気功術っていうのが強さの秘密だったのか。便利そうだし、ボクもそのうち学んでみようかな」
「オススメはできないけどな……」
戦士技能を修めているグロムなら大丈夫だと太鼓判を押せないのが格闘学科の怖いところである。戦士学科で立派に活躍している先輩たちのいくらかは格闘学科の授業に着いていけなかった者たちなのだから。
「次はボクかな。といってもほとんど見た目通りなんだけど」
焚火の前でイジケるのをやめたグロムが斧槍を支えにして立ち上がる。言うまでもなく彼は戦士だろう……そう思っていた俺は彼の思わぬ台詞に耳を疑った。
「ボクは魔法戦士。習得してるのは幻惑魔術さ。まあ、1種類しか使えないから魔法戦士を名乗っていいのか分からないんだけどね」
「幻惑……って、凄いじゃないか!どうして隠してたんだ?」
ジャンヌだけでなくグロムまで魔術が使えたとは。しかも幻惑魔術というとかなりの高等魔術だ。メリッサ先生が以前使っていた肉体を操るものや、精神に干渉する強力な魔術が揃っていると聞く。
使える魔術が1つだけとはいえ、メインの戦士技能と並行して魔術にまで手を伸ばしているだけでも気功術で手一杯の俺としては尊敬に値する。もしやグロムもジャンヌに比肩するレベルの秀才なのだろうか?
だが、俺の称賛に対してグロムは申し訳なさそうな顔で首を振った。
「大したものじゃないよ。実はさっきの戦闘でも使ってたんだけど、地味すぎて誰も気付かなかったっていうか……」
「……ええっと、どういうことだ?」
「ボクが使えるのはインスタントな狂化の魔術だけなんだよ。それに、これって単純な魔物にしか効かないからさ」
狂化の魔術というのは、対象の平常心を失わせる類の魔術である。
発動方法はいくつかあるらしいが、グロムは自分の声に魔力を込めて魔術の効果を拡散させる方法を取っていた。
これは魔術を直接命中させた時に比べると大きく効果は落ちるものの、声の届く範囲全てに効果を及ぼすことができるので、幻惑魔術にほとんど抵抗力を持たない雑魚だけに相手を絞るのであれば非常に効率的だ。
狂化によって敵の判断力を低下させ、興奮した敵が不用意に突っ込んできたところを攻撃範囲の広い斧槍で一掃するのがグロムの戦闘スタイルだった。
それを踏まえて彼の持つ斧槍を観察してみると、斧部分の刃が一般的なものよりも幅広になっており、突きよりも振り回すことを前提とした作りになっていることに気付かされた。
「わざわざ『魔術が使えます』なんて言ってこんなのしか出てこなかったら、何ていうか……カッコ悪いだろ?だからあんまり言いたくなかったんだ」
「戦術にまで組み込めているのだから、そう卑下することはないと思うのだけど」
グロムは苦笑していたが、俺もジャンヌと同じ意見だった。むしろ狂化によって敵の連携を阻害できるのなら、今回のクエストにはうってつけとも言える。
さて、最後はジャンヌだ。彼女は見たところ剣術と魔術を織り交ぜた機動戦が得意なようだが、それだけではなかろう。曰くありげな紋様の入った剣は、明らかに斬撃以外の用途を匂わせていた。
「私は剣を主体にしているけれど、基本的な黒魔術も使えるわ。それと……魔法剣ね」
「魔法剣……」
「名前の通りよ。剣に魔術を付与して強化するの。さっきは大した敵じゃなかったから、使わなかったけど」
ジャンヌが剣を抜いて俺とグロムの前に披露する。"子鬼の巣穴"でも見たことのあるジャンヌの剣は、刀身に楔のような形の文字が刻まれていた。
少なくともクリシュカで使用されている文字ではなかったが、文字一つ一つを認識できるぐらい間近で見ることができた俺にはその意味を理解することができた。
「『風が落ち葉を運ぶように、水面に落ちる波紋のように、命の血潮を行き渡らせたまえ』……命の血潮が魔力を表してるみたいだから、魔力を浸透させやすくするような付呪がされてるってことかな」
「え?ええ……そうらしいけど、良く読めるわね」
付呪とは付与魔術のことであり、有り体に言えば物に魔法を込めてマジックアイテムを作るための魔術だ。
その用途は多岐に渡り、炎の魔術を付与して保温性を持たせた水筒や、治癒の魔術を付与して傷の治りを早める包帯など様々だ。
マジックアイテムは市井の人々にとっても馴染み深い魔術の恩恵であり、一般的な魔術師の主な収入源でもある。もっとも、魔術においても魔物との実戦を重視しているヴィエッタ学園ではあまり盛んではない分野だが。
原理的には魔法剣も付与魔術を応用したものなのだろう。ならばあの剣はプリムラの杖と同じく魔法効果を増強するブーストアイテムといったところか。
などと、1人で納得している俺を2人は呆気にとられた様子で見つめていた。
「……付呪の効果が分かった魔術師は何人かいたけど、この剣に書かれている文字を解読できる人なんてはじめて見たわ。神聖歴以前の遺物だってことしか分からなかったのに」
「見たとこエルフ語に似てるけど……今じゃ使われてない、かなり古い魔術言語だね。学園長や死んだ爺様なら読めるかもしれないけど現代っ子のボクには無理かな。ソウタ君は意外とインテリだね」
「ん……まあ、たまたま資料室の本で似たような文字を見たから」
本当は例の異世界語翻訳機能が働いたからだというのは内緒だった。どうやらこの能力はこの世界に存在する言語なら大抵のものには効果を発揮するらしい。
……あるいは、俺を召喚した何者かがこの古い言語に慣れ親しんでいたからこそ、翻訳セットの付録として入れていたのかもしれない。
そちらについてはおいおい判明することになるだろう。今は仲間たちの特性を知ることができたのだから、俺はそれで良しとすることにした。
「そろそろ行こうか。採石場に着いたらまず敵の規模と編成を確かめて、作戦を決めて、それから全員で攻撃する。スタンドプレーはナシ。それでいいよな?」
「ええ、異論はないわ」
「今度こそ騎士としてカッコいいところを見せないとね」
今や黒い燃えカスとなって大幅に体積を減らした魔物たちに背を向けて、俺たちは採石場へと続く道を歩き始めた。




