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ようこそ冒険学部へ  作者: 嶋森智也
第3章:クエスト「学科を選択せよ!」
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3-2

ふぁ()ふぁほ(あの)ほうははん(ソウタさん)

「……ええっと、とりあえず飲み込んでから喋ってくれないか?」


 先ほどからカウンター席で1人もさもさと麦飯を食べていたエルフの女生徒が、プリムラたちと入れ替わるようなタイミングで俺のところにやってきた。名前は知らないが確か昨日教室でプリムラと話していた子だ。

 俺が食堂を出るまでに間に合わせようと大急ぎで詰め込んだのだろう、口をいっぱいに膨らませていた彼女はすべての麦飯を喉に流し込み終えるとようやく人心地ついた。


「ふう、ありがとうございます。その、急ぎの用でしたから、ちょっと焦っていたというか」

「それは別に気にしてないけど……もしかして、学科の話か?何か注意事項でもあるとか?」


 あれだけ急いでいたということは、今日でないと駄目な問題なのだろう。学科の受講に複雑な手続きが必要、とかだろうか。そんなものがあるのなら学部長が事前に言いそうなものだが……。

 だが、差し迫った様子の彼女から語られたのは注意事項などではなく"奇妙な噂話"だった。


「実はですね、この学園には"絶対に受講してはいけない学科"というものがあるらしいんです」

「絶対に受講してはいけない学科……?何だそりゃ」


 寝耳に水だった。学科として存在する以上は何かしら冒険に役立つ技術や知識を教えてくれるものだと思うのだが。

 「受講するだけ無駄」なら分かるが「受講してはいけない」とはどういう意味だろうか?戸惑う俺を置いてけぼりにしながら女生徒は神妙な顔で話を続ける。


「私も詳しいことは知らないんですけど、同じ学科の先輩たちが口を揃えて『あの学科だけはやめておけ』って言うんです。ですからきっととんでもないところなんですよ」

「よく分からないな……。受講した生徒が非業の死を遂げるとか、月の出ない夜に教室が現れるとか、その手の七不思議?」

「いえいえ、そういう怪談話ではなくてですね……」


 又聞きの情報はどうにも信憑性に欠けるので鵜呑みにしたくないのだが、そこまで強く止められるような学科なら話は別だ。

 俺は女生徒にその学科の詳細を尋ねようとしたのだが、ここでまたも邪魔が入った。今日はそういう日らしい。


「──探しましたよ、マナさん」

「ひっ……!」


 マナと呼ばれた女生徒の背後にゆらりと現れたのは、小さな丸眼鏡をかけてチェック柄のチョッキを華麗に着こなしている、スラッとした身なりの男性だった。法律の授業を担当するシアン先生だ。

 先生は表情筋を微笑の形に寸分違わず固定しながらマナの肩にがしっと手を置いた。壮絶な笑顔だった。どう見ても怒っている。


「マナさん、私は補習開始10分前には教室に集合しておくようにと、あれほど言い含めておいたはずなのですがねぇ……」

「違うんです先生これはですね、忘れてたわけじゃなくてですね、今から行くところだったっていうか、もうすでに気持ちは教室に向いていたというか、

 そもそもおかしいと思いませんか!?食い逃げの罰金がいくらだとかそんなの暗記する意味ありますか!?私将来食い逃げする予定なんてありませんよ!」


 どこかで聞いたような台詞だった。彼女もまたアキュートに準ずる成績なのか……。

 マナの発言はシアン先生の笑顔にヒビを入れることに成功した。失敗していた方が彼女のためだったのかもしれないが。

 教師にとって自分の教えている教科を無駄呼ばわりされること以上の侮辱はないのだ。異世界教育現場の崩壊を目の当たりにした俺は先生を刺激しないようにそっと席を立った。


「御託はいいですから、早く教室に行きなさい……!」

「はっはいぃっ!」


 教室に向けて飛んでいったマナを尻目に俺は学科棟に歩を進め──ることができなかった。

 なぜか今度は俺が捕まえられていた。マナの時ほど強い力ではなかったので、お叱りを受けるような内容ではない、と思う。

 シアン先生は大きく深呼吸をして心身ともにクールダウンしてからようやく本題に入った。


「ソウタ君、君もですよ。今日明日とは言いませんが、近いうちに補習を受けて進度を他の生徒たちに合わせておきなさい」

「分かりました。ただ、しばらくは学科の方を優先したいと思ってます。座学と違ってこちらは独力ではどうしようもないので」


 教科書さえあれば知識は覚えられるが、戦闘技術となればそうはいかない。シアン先生には悪いが勉強は後回しだ。


「そうですか……。まあ、致し方ありませんね。

 私の教える法律もそうですが、歴史の補習はできるだけ早く受けておくように。クリシュカの歩みを知ることはこの世界を知ることにも繋がります。

 自分のいた世界とのギャップを埋めておかないと、後々トラブルの原因になりますからね」


 シアン先生はすぐに俺の事情を理解してくれた。伊達に冒険学部の教師をやっていない。座学よりも学科での実技訓練の方がダンジョン内での生死に直結することを分かっているのだ。

 そうしてシアン先生から解放された俺は今度こそ学科棟に歩を進めた。

 マナの言っていた要注意学科のことは気になるが、そこまでヤバそうな学科なら一目見て回避できるだろうと俺は高をくくっていた。

 結論から言うと、俺は浅はかだった。


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