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ようこそ冒険学部へ  作者: 嶋森智也
第9章:クエスト「2学部連合、いざ地下鉱山へ!」
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「……で、これが依頼内容なんだが」


 午前の授業を済ませた俺はジャンヌ、ナギアと共に食堂の一角を陣取って依頼書を囲んでいた。

 珍しい組み合わせだが、これは俺が意図したものではない。他のみんなの都合が合わなかったのだ。

 アキュートは最近とみに増えてきた討伐クエストをはしごして忙しく動き回っており、相変わらずリンはどこにいるのか分からない。

 マナは連日の労働と子供の世話で死にそうな顔をしていたので声をかけるのが憚(はばか)られたし、プリムラはこれから秘密の調べ物とやらがあるらしい。

 残ったのはダンジョン探索にあまり熱を入れていないナギアと、兄絡みということでこちらを優先してくれたジャンヌの2人だけだった。


「アストラン家の跡継ぎ候補ねえ。たった1回話をしただけでいきなりコネを作っちゃうなんて、ソウタも案外抜け目ないね」


 一見やる気なさげなナギアだが、眼鏡越しの瞳は紙の上を間断なく行き来している。このクエストは彼のお眼鏡に適ったようだ。


「まあいいや。未来の権力者と繋がりを持っておくのも悪くないし、今回はソウタに協力してあげるよ」

「ナギアは上昇志向が強いんだな。もしかして、夢は宮廷魔術師とか?」

「しがらみが多そうな役職は好きじゃないかな。実家が商人だから、交友関係を広くしておくことの重要性が身に染みてるってだけ」


 なるほど、言われてみれば歯に布着せないタイプのナギアがお偉方の太鼓持ちみたいな真似をしたがるとは思えない。仮に仕えるとしても、その相手は少々の皮肉では機嫌を損ねない豪放な人物でなければ駄目だろう。


「それにしても、どうして兄様はソウタに直接依頼を出したのかしら。確かにソウタは1期生の中では実力のある方でしょうけど、普通こういった依頼は上級生が担当するものなのに」


 ジャンヌは文面に隠された意図を見つけ出そうと真剣な表情で依頼書に目を走らせていた。

 何を隠そう、俺も彼女と同じ疑問を抱いていた。

 というのも、この依頼はガウェインの個人的なものではなく、彼名義で騎士学部を代表して送られてきたものだったのだ。

 依頼内容は"牙の山脈"の麓(ふもと)に位置する国営鉱山の1つ"クリーク第一鉱山"の調査。

 "クリーク第一鉱山"はクリシュカでも最大規模の鉱山だが、つい先日鉱脈を掘り進めていた際に未知のダンジョンと坑道が偶然繋がってしまい、そこから魔物たちが這(は)い出てきたのだという。

 坑夫たちは無事に避難を終えたものの、ダンジョンの奥からは続々と魔物が出現し、このままでは鉱山を放棄する以外に道がなくなってしまう。

 そこで騎士学部の生徒たちと協力して可及的速やかに鉱山の偵察を行い、可能なら奥に広がっているダンジョンまで調査することで、数日後に行われる鉱山奪還作戦を間接的に支援してほしい……というのが今回の依頼だった。

 本来なら正規の騎士団を派遣して対処に当たらねばならないような重大事件だし、鉱山が直接魔物に制圧されるという状況なので、以前の採石場占拠事件よりも事態は数段逼迫(ひっぱく)している。

 しかし困ったことに、このところ相次いでいる魔物の被害報告によってピオネールの騎士団は大わらわであり、まとまった戦力を揃えるにはもうしばらくかかりそうなのだという。

 そこでお鉢が回ってきたのがヴィエッタ学園の騎士学部だ。

 軍人の卵として優れた資質を持つ彼らを騎士団の予備隊として運用することで、この危機を切り抜けようというのだ。ここまでならば理屈が通っている。

 せっかくの機会なので冒険者との連携にも慣れさせておきたい……そういった理由で騎士学部側が冒険学部に共同作戦を持ち掛けてきたのも、まあ分かる。


「だからって、何で俺なんだ……?」


 自分で言うのも何だが、俺は入学して間もない新人冒険者だ。気功術なんて珍しい技術を体得してはいるが、それを言うなら上級生のセイレンにお声がかかるべきだろう。

 唯一の心当たりといえば洗濯場での会話だが、あの時はジャンヌの身の上話を聞いていただけで、探索への心構えとか技術論をぶつけ合うことはなかったはずだ。


「人畜無害そうに見えたからじゃないの?ほら、冒険者って一般的に量産型アキュートみたいなイメージが付いてるから、育ちのいい人たちから見たらあんまりお近付きになりたい人種じゃないだろ?

 その点君なら問題ない。教養はあるし、最低限の礼儀は弁えてるし、噛み付いたりしそうにないしね」

「癖のない人材を求めてるなら尚更おかしいだろ。見てくれよ最後の注意書き」


 俺は依頼文の1番下に添えられていた但し書きを指し示した。そこに書かれているのは「可能な限り奇抜な人員を希望する」という一文。

 奇抜って何だ……?変人という意味なら俺も含めて冒険学部の大半の人間が当てはまるが。


「たぶん、一般的でない技術を習得した冒険者を求めているのね。冒険者の中には型に嵌(はま)らない戦い方をする者も多いから、そういった軍隊式の運用がし辛い者たちとの共闘経験を生徒に積ませたいんだと思う」

「だからってわざわざ"奇抜"なんて謎かけみたいな言い方をするのもおかしな話だと思うけどね。もしかして、君のお兄さんって変わり者?」

「他に比較対象を知らないから明言はできないわ。……まあ、悪戯好きではあったけれど」


 思い当たるところがあるのか、ジャンヌは言葉を濁していた。

 ともあれ、特殊な冒険者を要求されているのなら、騎士学部にもありそうな職種は避けた方が良さそうだ。


「基本職っていったら、戦士系全般に白魔術師、黒魔術師ってところか?」

「それに射手だね。あんまり個性が尖りすぎてると部隊編成の時に苦労するから、軍隊とか騎士団って兵士の汎用性を重視してるんだ」

「騎士の中には神聖魔法を習得している者も多いわ。僧侶の参加も控えるべきでしょうね」

「参ったな。結構縛りがきつい」


 素手で戦う俺やマイナーな星魔術を扱うナギアはギリギリセーフ。ジャンヌも魔法剣という稀少性の高い技能を持つので大丈夫だろう。

 ただ、それ以外となると途端に選択肢が狭くなってくる。冒険学部に学科は数あれど、俺の交友範囲にそれほど独創的な生徒は見当たらなかった。

 思いつく限りではマナの始原魔術だが、あんなものを地下で使えば大惨事間違いなしだ。


「グロムはどうかしら?幻惑魔術を使う戦士なんてそうそういないと思うのだけど」

「いや、グロムはやめた方がいいかな……」

「そうなの?良く分からないけれど、あなたがそう言うのなら……」


 釈然としない様子のジャンヌを何とか説き伏せて、俺は間接的にグロムの命を救った。

 選出基準には合格しているが、彼がガウェインと対面することになったらそれこそ探索どころではなくなってしまう。


「なら、錬金学科から人を呼ぶのは?情報のないダンジョンに入るのなら、薬や毒の知識に長けた者がいればいざという時に対応しやすいわ」

「魔物使い学科なんてどうかな?スライムでも連れて行ったらきっと大騒ぎになるよ」

「ナギア……趣旨変わってないか?」


 募集要件にぴったりの人物が思い浮かばないまま議論がどん詰まりに入っていく。

 ああでもないこうでもないと悩み続ける俺たちを救ったのは、歌うように言葉を紡ぐ女性の声だった。


「何かお忘れではありませんか?他に類を見ない先進的で先鋭的な学科がこの学園にはございますでしょう?

 皆々様の健やかなる冒険のお供に、そして2学部友好の架け橋に──メイド学科は如何(いかが)でしょう?」


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