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城壁の中に招き入れられた俺たちの前に学園長ビリオーズと3人の騎士学部生が並んでいた。
1人目はガウェイン。彼が今回の調査任務における責任者であり、俺たちの依頼主だ。
騎士学部は3年制なので現在2年生のガウェインより上がいるはずだが、その上級生たちを差し置いてガウェインが抜擢されたのは決して親の七光りが理由ではないだろう。
純白の全身鎧を装着し、左手には大型のカイトシールドという重装備。その立ち居振る舞いには一分の隙もなく、威風堂々とした佇まいを見せている。
腰に提げた剣の鞘は高級そうな金ぴかの意匠が施されており、微風になびく深紅のマントも含めて、まさにおとぎ話の中から飛び出してきたような騎士の中の騎士だった。
「冒険学部の諸君、騎士学部へようこそ。私がこの調査部隊の隊長を務めるガウェインだ」
威厳の中に少年らしさを少しだけ残した、良く通る声。大貴族の次期当主として、周囲からの重責に見事に応えた強者の姿がそこにあった。
「しばらくだね、ソウタ君。まずは私の急な願いを聞いてくれたことに感謝の言葉を贈ろう」
「冒険者がクエストを受けるのは当然のことだから、わざわざ礼を言われるようなことじゃないさ。
……それはそうと、部隊ってたったの3人なのか?さすがに少なすぎるような気がするんだが」
俺はてっきり数十人規模の小隊を率いて任務に当たるものだとばかり思っていたのだが、正門前の広場に集まっているのは3人だけ。学園長以外には大人の姿すら見えない。まさか、学園長御自ら出陣するのだろうか?
訝しむ俺たちの疑問に答えたのは学園長だった。
「諸君らに託されたのはあくまで騎士団の作戦を円滑に行うための事前調査、いわば斥候じゃよ。鉱山の魔物を全滅させろとは命令されておらん。
もっとも、アストラン家の若君は違った考えを持っておるようじゃがの」
「はい。我々の実力ならば鉱山の奪還も十分に可能と考えています」
さらりと言い切るガウェイン。自らが培ってきた力を過小評価しないその姿勢は兄妹揃って同じだった。
しかし調査だけとは、何とも中途半端なことをする。
騎士団、ひいてはピオネール領主は前回の一件から学生に頼りすぎないよう配慮しているのかもしれないが、それにしたって慎重すぎる。
案外、将軍の息子であるガウェインが指揮を執ると知って急遽調査だけに留めるよう要請したのかもしれない。
その辺の大人の事情は分からないし、決定してしまった以上は興味もない。
俺が心配しているのはここに集まった面子が上手くやっていけるのかという点であり、もっと具体的に言うと2人目の騎士学部生である彼女の存在だった。
「ガウェイン先輩!私は納得できません!どうして彼女たちの手を借りなければならないんですか!?」
おかっぱ頭の少女がヒステリックな叫び声を上げる。オリエンテーリングの時に挑戦状を叩き付けてきた女子生徒、バレッタだ。
あの時と同じく体格に見合わないゴツめの全身鎧に盾とメイスというバリバリの重装兵仕様のバレッタは、メイスを持つ右手を大きく振ってガウェインに抗議していた。
「バレッタ……お前ちゃんとミーティング聞いてたのか?冒険者との共同任務に慣れておくためって言ってただろ。これも訓練だと思えよ」
部隊の3人目と思われるスポーツ刈りの少年が猛るバレッタをどうどうと落ち着かせようとするが、その程度では彼女の憤懣を鎮めることはできなかった。
「そんなこと分かってるわよ!私は人選を問題にしているの!何なのよこのメンバーは!?」
バレッタは冒険学部生の方に顔を向けると、俺とジャンヌにメイスの先を突き付けた。
「先輩は前回のオリエンテーリングにおける彼女たちの成績をご存知ですか?最下位ですよ、最下位!とても任務の助けになるとは思えません!」
横目でジャンヌの様子を盗み見ると、ちょうど彼女もこちらに目を向けていたところだった。
ジャンヌは唇の動きだけで「大丈夫」と言うと笑みを見せた。心に余裕ができたお蔭か、今の彼女はちょっとやそっとの煽りでは動じなくなったようだ。
探索中に2人が険悪な雰囲気にならないか心配していただけに、この変化は喜ばしいものだった。まあ、向こうは今もってジャンヌを敵視しているのだが……。
「なるほど、バレッタ君は我が妹の実力を不安視していると」
まさに怒髪天といった風に興奮するバレッタをガウェインは愉快そうに眺めていた。いや、笑ってないで事態を収めてくれ。
「彼らのチームが最下位になった理由は聞いているだろう?学内行事の順位などという目先の物事に囚われず、人々のためにキマイラを倒した将来有望な冒険者……軍部はそう評価しているようだね。私も同意見だが、君は違うのかな?」
「そ、それは……」
ガウェインに笑顔で威圧され、バレッタの勢いが急速に落ちていく。
ここでキマイラの話が出てくるとは思わなかった。士官学校である騎士学部には軍や騎士団の関係者も出入りしているのだから、その辺りから噂が流れてきたのだろうか。
あの偶発的な戦闘がまるで勇敢な行為のように語られているのは複雑な気分だが、正直に話してわざわざ評価を下げることもないので、俺はこの功績を利用させてもらうことにした。
「……分かりました。とりあえず、この2人については不問としましょう」
俺とジャンヌは許された。しかし、"この2人については"ということは、まだ続きがあるのだろう。次はいったい誰がやり玉に挙げられるのか。
(十中八九あの2人だと思うけど……)
予想通りというかある意味下馬評通りというか、バレッタの不機嫌極まりない視線に刺されたのは彼女たちだった。
1人は白と黒を基調にしたシンプルなメイド服に身を包んだ桃色髪の女性。彼女はバレッタに対して余裕のある微笑を返すと優雅に腰を折ってお辞儀をした。
もう1人は下ろし立ての黒い燕尾服を着た灰色の髪の少年。小柄で幼げな顔立ちと緊張した表情のせいで、若干服に着られているような印象を周囲に与えていた。
「ですけど先輩、これだけは言わせてください。どうして……どうしてメイドと執事がここにいるんですか!?」
バレッタの金切り声が辺りにこだまする。ミスティア先輩は平常運転だったがユニはかなりビビっていた。
色々と考え抜いた末、厳密に言うとミスティア先輩のセールストークに根負けした俺たちが連れてきた"奇抜な人員"はメイド学科の2人だった。
冒険学部の中でも異端中の異端であるメイドを同伴すれば騎士学部の生徒たちにとって未だかつてない経験ができること請け合いだ。先方の希望に適う完璧な人選だった。
……メイド学科に疎い者からすると戦場を舐めているように見えるのではないかと気付いたのはついさっきのことだった。
「こんな格好でダンジョンをうろつくなんて非常識です!いいえ、それどころかクリシュカを守るために戦ってきた英霊たちに対する冒涜です!冒険学部はチンドン屋か何かですか!?」
「はっはっは、華やかでいいじゃないか」
「笑い事じゃありません!ガウェイン先輩はこんな連中が私……私たちより信頼できるっていうんですか!?」
人目を憚らずに喚き散らすバレッタの横をランニング中の生徒たちが一糸乱れぬ掛け声と共に通り過ぎていく。もしかして日常風景なのか、これ?
留まるところを知らない怒りのボルテージを柳のように受け流すガウェインと一顧だにせず訓練を続ける騎士学部生たち。ただ一人まともに反応しているのはうんざりした様子で頭を掻くスポーツ刈りの少年だけだった。
「あいつが静かになるまで暇だし、今の内に自己紹介でもしておこうぜ。俺はノヴだ。めんどくさい奴に絡まれて災難だな、お前らも」
「俺はソウタ。まぁ、個性的な人物にはみんな慣れてるから気にしてないよ。そのうち打ち解けるさ」
「だといいな。……はぁ」
こうして、先行き不安な2学部連合パーティが結成されたのだった。




