2030年11月。既存店のキャパがやばいwwwネイルの箱が安いからネイル屋が先行して拡大していくwww
二〇三〇年十一月。
博之の会社は、また少し妙な状態になっていた。
「ネイル、ちょっとキャパやばいです」
「美容院もです」
「スナックも一部かなり詰まってます」
「全部やん」
博之は報告を聞きながら頭をかいた。
既存店が崩れているわけではない。
むしろ逆だった。
茨木、高槻、千里山、江坂。
古い店ほど安定し、新しい店にも客が流れ込み、老人ホームへの訪問事業まで
じわじわ伸び続けている。
「全体で今月どんな感じ?」
「利益、九百万円前後ですね」
「……利益で?」
「はい」
博之は電卓を叩いた。
「単純に十二倍したら一億超えるやん」
「そうですね」
「怖っ」
「売上じゃなくて利益ですからね」
「余計怖いわ」
ただし、その九百万円を全部自由に使えるわけではない。
会社として管理部門も重くなってきている。
経理部長は給与五百万円に福利厚生などを合わせ、会社負担としては年間六百万円程度を見る。
さらに税理士。
「先生も、もう百五十万じゃ無理ですよね」
「さすがにこの店舗数は厳しいです」
「ほな二百万で。ちゃんと見てください」
「最初からちゃんと見てますよ」
将来的には、グロース市場への上場を本当に検討するなら、監査や内部管理もさらに必要になる。
「でも、それはまだええわ」
博之は手を振った。
「固定費ばっかり先に増えたら、俺また動かれへんようになる」
管理体制は必要。
しかし会社を守るための管理部門が、会社を動けなくするほど重くなっても困る。
「今年はこの辺で止めよ」
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そして、そう言った直後。
「六百万ぐらい残るんやろ?」
「その言い方、嫌な予感しますね」
「ネイル三箱作ろか」
「ほら!」
まず茨木。
先月、
「一地域二店舗ぐらいで止めたい」
と言ったばかりだった。
「早速破ってるじゃないですか」
「破ってへん。例外や」
「何が例外なんです?」
「断ってる客おるやん」
茨木では、予約を受け切れず断るケースが積み上がっていた。
新しい客を奪いに行くのではなく、既存店で拾えなくなった客だけを受ける。
「三号店いうても、溢れた分の受け皿や」
「都合いいなあ」
「経営は柔軟性や」
そして吹田方面。
千里山のネイルも、すでにかなり詰まってきている。
「JR吹田に一個」
「はい」
「あと北千里……は家賃高いから、山田ぐらいで一個」
「結局三店舗?」
「そう」
茨木。
JR吹田。
阪急山田。
ネイル三箱で、初期費用は合計二百万円程度を見込む。
「ネイル軽いんよな」
「箱が小さいですからね」
「美容院三つ作ったら何百万飛ぶねんって話や」
ネイルなら設備も比較的軽い。
三席程度置ければ十分。
「アンテナ刺す意味でもええやろ」
JR吹田は茨木からの動線。
山田は千里線北部。
そこから北千里方面の客も拾える。
「北千里そのものは?」
「家賃見ながらやな。山田で吸えるなら無理して行かん」
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「スナック、最近全然増やしてませんね」
誰かが言った。
「俺も思ってんねん」
「本業なんですよね?」
「本業や!」
「もう完全にネイル屋さんですよ」
「違う違う。ネイルは箱借りるんが軽いから増えてるだけ」
博之としては、ネイリストを無限に増やしたいわけでもなかった。
「今おるメンツで、もうちょい仕事分けられると思うねん」
茨木だけ。
高槻だけ。
千里山だけ。
そう固定する必要もない。
週のうち一日は別店舗。
訪問ネイルと店舗勤務を組み合わせる。
曜日ごとに地域を変える。
「仕事シェアする幅を広げたらええ」
「移動嫌な人もいますよ」
「そこは無理せんでええ。行ける人だけ」
人数を増やすより、今いる人が希望する範囲で仕事を取りやすくする。
それが博之のやり方だった。
「ただな」
博之は少し考えた。
「そろそろネイル全部見る人いるな」
「統括いますよ?」
「地域統括はおる。でも全体を見る人」
茨木。
高槻。
吹田。
江坂。
山田。
訪問事業。
これ以上増えれば、博之が直接ネイル統括全員と話すのも難しい。
「ネイル部長みたいなん作るか」
「部長?」
「社員で。年収五百万ぐらい」
「経理部長みたいに?」
「そう。ネイル全体の統括責任者」
人員配置。
店長育成。
統括同士の調整。
新店舗の立ち上げ。
料金や材料の共通ルール。
老人ホーム訪問との連携。
「そこまで任せられる人おったら、五百万出してもええやろ」
「また会社っぽくなりますね」
「俺が全部見れへんからしゃあない」
「社長、ほんま現場から離れていきますね」
「俺の仕事、新しい箱作ることやから」
「また三つ作る人が言ってる」
皆が笑った。
二〇三〇年十一月。
月の利益は九百万円。
年換算すれば一億円を超えるところまで来た。
だが博之が考えているのは、相変わらず大企業らしい話ではない。
三席の小さなネイルサロン。
溢れた客をどこへ逃がすか。
誰に仕事を分けるか。
そして、それをまとめる人にいくら払うか。
「ほんまネイル会社になってきたな」
博之は地図に三つ丸を付けながら呟いた。
「まあええか。客来てんねんから」
ほどほどを、ちゃんとやる。
その結果だけが、いつの間にかほどほどではなくなり始めていた。




