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2030年9月。店を作りたいんじゃない、客が入りすぎる。自転車操業の反対。いい循環だが金がでていくwww

 二〇三〇年九月。

 会社全体としては、相変わらず順調だった。

 茨木の既存店はもう、博之が毎日の数字を見る必要もない。

 店長と統括に任せ、大きなトラブルがなければそのまま回してもらう。

 そして高槻でも、同じ段階に入った店が出始めていた。

「高槻ネイル一号店、もう上限ですね」

「スナック一号店も?」

「だいたい上限です」

「ほな、もうええな」

 博之はあっさり言った。

「ええ、って?」

「ドル箱扱い。俺、もう見ん」

「言い方」

「いや、いい意味やで。今のままずっとやっといて」

 ネイル一号店は予約が詰まり、スナックも席数から考えればこれ以上大きく売上を伸ばすのは難しい。

 ならば無理に単価を上げたり、客を詰め込んだりする必要はない。

「上限来たら完成や」

「完成?」

「そう。次見る」

 問題は高槻の美容院だった。

「こっちも結構パンパンです」

「……また?」

「またです」

 博之はしばらく黙った。

「ほな二号店作るか」

「早いですね」

「いや、客入らへんかったら作らんよ」

 初期費用、二百万円。

 高槻美容二号店。

 既存店の客を無理に移すのではなく、予約が取れない人や新規問い合わせを二号店へ流す。

 訪問美容の拠点としても使える。

「もう店作りたいから作ってるんちゃうねん」

「最近それ言いますよね」

「ほんまやもん。客入りすぎんねん」

・・・・・・・・・・・・・・・

 九月は、それ以外にも金が出た。

「資本金、三百万増やす」

「百万円から四百万円ですね」

「うん。さすがに売上三億何千万いう会社が資本金百万も変やろ」

 さらに、年末より少し早いが交流会と金一封の予算も組むことにした。

「去年みたいにやろか」

「金一封?」

「それと交流会。合わせて百万見とく」

「結構使いますね」

「百人超えてるからな」

 来たくない人は来なくていい。

 参加を強制しない。

 ただ、普段顔を合わせない人同士が一度ぐらい話す機会は作る。

 そして参加するしないに関係なく、小さな金一封は渡す。

「そこまでやったら手元どうなります?」

「百二十万ぐらい」

「またカッツカツやないですか」

「税金二千万は別に避けてる」

「そこ触ったら怒りますからね」

「分かっとる」

 美容院二百万円。

 増資三百万円。

 交流会と金一封百万円。

 金は確かに減る。

 だが、全部必要だと思って使っている。

「なんか変な会社やな」

「何がです?」

「自転車操業の反対みたいになってる」

「反対?」

「金ないから店作るんちゃうねん。客入りすぎるから店作って、また金なくなる」

「ああ」

「なんやこれ」

 周囲が笑った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「でも、集客ほんま強くなってますよ」

 ネイル統括が言った。

「YouTubeだけちゃうん?」

「もう違います」

 もちろん博之のYouTube登録者一万五千人も入口にはなっている。

 しかし、今一番大きいのはGoogleレビューだった。

「一店舗目って、レビュー二十件三十件貯めるだけでも大変なんですよ」

「せやな」

「でも今、複数店舗あるじゃないですか」

 茨木。

 高槻。

 千里山。

 江坂。

 店ごとにレビューが積み上がる。

 系列店として調べる人もいる。

「『ここの系列なら大丈夫かな』ってなるんです」

「店が強くなったんやな」

「そうです」

 その言葉で、博之は少し考え込んだ。

「それ、スタッフにも言うといた方がええな」

「何をです?」

「自分が急に強なったと思ったらあかんって」

 一店舗で百人の客を担当する。

 リピートも取れる。

 指名される。

 そうすると、

「私、独立しても百人来るんちゃう?」

 と思う人も出る。

「でも全部その子についてる客かって言われたら違うやろ」

「店舗のレビューから来た人もいますしね」

「YouTubeもある。紹介もある。訪問から来た人もおる」

 入口は会社が作っている

 その入口から入った客を、スタッフが継続客にしている。

「どっちも大事やねん」

 だから、スタッフの実力を否定するつもりはない。

「自信持つんはええよ」

 ただし現状認識は必要だ。

「独立した瞬間、看板もレビューも集客もゼロに近くなる可能性ある。

 そこ分かった上で独立するなら全然ええ」

「うちに残るなら?」

「店長とか統括で伸びてもろたらええ」

 店長手当。

 統括手当。

 複数店舗の管理。

 新人教育。

 訪問部門との調整。

「一人で店持たんでも、うちの中で上がる道は一応作っとるからな」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「しかし金配ってますね、社長」

「配ってへんわ」

「箱作って、人雇って、金一封やって、増資して」

「会社に戻してるだけや」

「だから手元百二十万になるんですよ」

「毎月また利益出るやろ」

「その発想が怖い」

「危険ない範囲でやるって」

 博之は地図を見た。

 茨木は固まった。

 高槻もかなり形になった。

 吹田、千里線、江坂。

 さらに北大阪、豊中方面。

「まだ北摂、伸びしろあるしな」

「また箱増やす気ですよね」

「客来たらな」

「条件付きなんですね」

「当たり前や」

 博之は笑った。

 二〇三〇年九月。

 店を作るために客を探していた時期は、いつの間にか終わっていた。

 今は逆だった。

 客が増える。

 店が詰まる。

 だから次の箱を置く。

 そしてまた人を分け、仕事を分ける。

「ほんま、自転車操業の反対やな」

 博之はもう一度そう呟きながら、高槻の地図に美容院二号店の丸を付けた。

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