↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
64/69

2030年8月。売上三億五千万円規模と、残金百万円。いつもまにかでかくなっていたwww

 二〇三〇年八月。

 月次の数字を見ていた博之は、途中で手を止めた。

「……これ、合ってる?」

「何がです?」

「売上」

 昔からある茨木界隈の店舗だけでも、月の売上はざっくり一千四百万円ほどある。

 最近の博之は、既存店については店長と統括にほとんど任せているため、細かな売上まで

 毎月じっくり見ることはなくなっていた。

 そこへ高槻。

 千里山。

 江坂。

 老人ホームへの訪問ネイル、美容。

 新しい美容院やネイルサロン。

 それらを全部合わせてみる。

「……月三千万ぐらいあるぞ」

「ありますね」

「これ単純に年換算したら三億五千万とか三億六千万になるやん」

「そうですね」

「俺、そんなやったつもりないねんけど」

「それぐらいは把握しといてくださいよ、社長」

「箱ちょこちょこ置いてただけやで?」

「その“ちょこちょこ”が何店舗あると思ってるんですか」

 言われてみればそうだった。

 一店舗数十万円。

 一事業数百万円。

 それを何年も積み重ねてきた結果、全体では自分の感覚よりはるかに大きくなっていた。

・・・・・・・・・・・・・・・

 税理士の先生にも、その数字を見てもらった。

「先生、これ、でかくなりすぎてへん?」

「まあ、売上三億円台まで来ましたからね」

「なんかある?」

 税理士は少し考えてから言った。

「将来的には、上場という選択肢もなくはないですよ」

「上場?」

「スタンダード市場はまだ全然先です。でも、TOKYO PRO Marketみたいな市場なら、

 会社の規模だけで最初から対象外という感じではありません」

「マジで?」

「ただし」

「はい、来た」

「今のままでは無理です」

「でしょうね」

 経理。

 内部管理。

 監査。

 契約書。

 店舗ごとの数字。

 会社の金と博之個人の金。

 株式や持株関係の整理。

 今までのような、

「なんとなくExcelで見てます」

 では済まない。

「めんどくさっ」

「上場するってそういうことです」

「今はええわ」

「今すぐする必要はないです。ただ、将来選べるようにはしておいた方がいいですね」

「なるほどなあ」

 博之は腕を組んだ。

「ほな、まず経理のおっちゃんやな」

 現在、経理担当には年間百万円ほどの報酬を出している。

「百五十万に上げるわ」

「それぐらいは出してあげてください」

「年末に調整して計上する」

 後日、本人に話すと、

「やっとですか」

 と言われた。

「いやいや、最初こんな仕事多くなると思ってへんかったんやって」

「どんだけ大変やと思ってるんですか」

「細切れで仕事渡してるつもりやった」

「会社が細切れじゃないですから!」

 周囲が笑った。

 税理士からは、

「将来的には経理責任者みたいな位置にしてもいいかもしれませんね」

 とも言われた。

 さらに会社を育てるなら、統括や幹部、長く働いてくれる人たちに株を持ってもらう方法もある。

「従業員に株?」

「それも選択肢です。資本金も今は百万円ですから、将来どこかで資本政策を考えることに

 なるかもしれません」

「なんか急に会社っぽい話になってきたな」

「株式会社ですから」

「そうやった」

・・・・・・・・・・・・・・・・

 とはいえ、博之が一番気になるのは、やはり現金だった。

「今月、もう一千万よけます」

 経理担当が言った。

「税金?」

「はい。これで税金用に二千万確保できます」

「二千万……」

「使わないでくださいね」

「分かってる」

 さらにセーフティ共済についても、博之の管理上は月二十万円、年間二百四十万円分を別枠にした。

「これでだいたい怖いもん避けた?」

「かなり」

「で、自由に使える金は?」

「百万円ぐらいです」

「……え?」

「百万円」

「三億五千万売ってる会社の社長が?」

「美容院作って、ネイル作って、税金二千万よけて、共済もよけたら、そりゃそうなります」

「俺、貧乏やん」

「会社は儲かってますよ」

「手元百万円やぞ」

「毎月、今のペースなら利益七百万円ぐらい出てますから」

「それ聞いたら急に安心した」

「だからまた店作るんでしょ」

「……まあな」

「ほら」

 博之が次に見ているのは、やはり北大阪と吹田だった。

「需要あるって分かってるところは厚くしたい」

「高槻は?」

「高槻はちょっと待つ」

 高槻ネイル一号店はすでにパンパン。

 二号店は三百人ほど受けられる体制に対して、現在百四十人ほど。

「二号店が二百、二百五十ってなってきたら、三号店考える」

「島本方面の訪問の反応も見ながら?」

「そうそう」

 箱を先に置く必要はない。

 老人ホーム営業で需要を見る。

 既存店が埋まる。

 人も増える。

 そこで初めて次を出す。

「何か月か見よ」

「珍しく待つんですね」

「俺も成長してんねん」

「自由資金百万円しかないからでは?」

「それもある」

 博之は笑った。

 売上は年換算三億五千万円。

 利益も月七百万円前後。

 上場という言葉まで出始めた。

 その一方で、税金や共済を先に避ければ、自由に動かせる金は百万円。

「なんか会社でかいんか小さいんか、よう分からんな」

「そういう時期なんじゃないですか」

「まあええわ」

 博之は帳面を閉じた。

 上場はまだ先。

 資本金を増やすのも先。

 今は、税金を確保して、経理を強くして、今ある店を育てる。

 そして空いた金ができれば、また手の届く場所に小さな箱を置く。

「結局そこに戻るんですね」

「ほどほどを、ちゃんとやるんや」

 二〇三〇年八月。

 三億円企業になっても、博之が考えていることは、相変わらず次の五十万円の使い道だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。