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2030年5月。今月は新店舗を増やさずに小規模共済84万と積立NISA120万の金を別口に分ける。新店舗出店の感じはぷんぷんするwww

 二〇三〇年五月。

 四月に思い切って出した、千里山のネイルサロンと高槻の美容院。

 初月の数字は、やはり厳しかった。

「まあ、そらそうやわな」

 博之は月次表を見ながら呟いた。

 千里山は家賃十二万円。

 高槻の美容院は十五万円。

 人を先に配置していることもあり、開店直後は固定費に客数が追いつかない。

 とはいえ、五月に入ると少しずつ赤字幅は縮まっていた。

「高槻美容、訪問の仕事も回せるようになってますよ」

「それがでかいな」

 老人ホーム訪問営業部のおじさんたちが、相変わらず地道に施設を回っている。

 そこで取ってきた高槻の美容案件は、高槻店の美容師へ。

 吹田方面のネイル案件なら、千里山店へ。

 実店舗の予約表に空白があっても、訪問の仕事を混ぜればスタッフの仕事量を作れる。

「店だけ見たら赤でも、地域全体で見たらちょっと違うんよな」

「開けた意味はありましたね」

「うん。あとは丁寧に埋めるだけや」

 Googleレビュー。

 再来店。

 紹介。

 訪問先の家族。

 施設職員。

 既存店からの案内。

 一気に満員にする必要はない。

 他の既存店舗はすでに安定して利益を出している。

「今月は何もせん」

 博之は宣言した。

「ほんまですか?」

「ほんまや」

「先月二店舗出した人が言っても信用できないですけど」

「今月は金貯める月」

 法人化してから、博之は金の分け方を以前より意識するようになっていた。

 会社の金。

 自分の金。

 税金用。

 将来用。

 何かあった時の予備。

「俺の方の小規模共済とか積立の分、合わせて二百万ぐらい、先に別で避けとくわ」

「また貯めるんです?」

「怖いやん」

 博之の脳裏には、あのExcelがあった。

 二千万円以上あると思っていた数字が、税金や過去の資金流出を整理した結果、

 一気に百万円台まで落ちた事件である。

「また三年後に『実は二千万足りませんでした』とか言われたら、俺泣くで」

「今回は経理の人いますから大丈夫ですよ」

「それでも分ける」

 使っていい金。

 使わない金。

 会社を守る金。

 自分の将来の金。

 最初から分ける。

「そんな貯めてどうするんですか?」

 女性スタッフの一人が笑った。

「彼女もいないのに」

「彼女関係ないやろ!」

「誰に残すんです?」

「俺一人の問題ちゃうねん」

 博之は少し真面目な顔になった。

「今、直接間接合わせたら、うちの関係筋百人以上おるやろ」

 スナック。

 ネイル。

 美容。

 清掃。

 営業。

 訪問。

 経理。

 週に数日しか働かない人まで含めれば、かなりの人数になる。

「会社に何かあって、明日から給料出ませんってなったら困るやろ」

「ほんと自分より人ですね」

「いやいや、そんなん格好ええ話ちゃう」

 博之は首を振った。

「ここまで広げてもうた責任はあるやろ」

 自分で店を増やした。

 仕事を渡した。

 それを当てにして生活する人まで出てきた。

「明日潰れました、知らん、では済まんやん」

 だから現金は残す。

 共済も積む。

 投資もする。

 税金も別にする。

「前よりだいぶ経営者っぽくなりましたね」

「怖がってるだけや」

・・・・・・・・・・・・・

「じゃあ、しばらく新店舗なしですね?」

「まあまあまあ……」

「その言い方怪しい」

 博之はネイル部門の数字を開いた。

「高槻のネイル、一号店何人?」

「今月二百超えてます」

「やっぱりな」

 三席あるとはいえ、二百人を超えてくると、曜日によってはかなり詰まる。

 しかも伸び方がまだ止まっていない。

 Googleレビューも増えている。

 訪問ネイルから店を知る家族もいる。

「これ三百近く行ったら、またパンパンになるぞ」

「まだ余力ありますよ」

「あるうちに次考えた方がええ」

「さっき今月何もしないって」

「今月はせえへん」

「来月は?」

「知らん」

「絶対やるやん」

 博之は笑った。

「高槻はネイルもう一軒で終わりにしたいねん」

「終わるんですか?」

「高槻ではな」

「その言い方も怪しいです」

 高槻に二店舗あれば、客を分散できる。

 訪問案件のスタッフ配置にも余裕が出る。

 そこまで作れば、高槻のネイルは一旦完成。

「その次は吹田やな」

「ほら終わってない」

「吹田は別地域や」

 千里山にはすでに一本置いた。

 次に見るなら山田。

 あるいはJR吹田側。

「でも、そこは横目で見るだけ」

「横目で見て、いつも契約するんですよ」

「ええ物件あったらしゃあないやろ」

 統括たちが笑う。

 五月は、新規出店をしない。

 これは本当だった。

 今ある店を育てる。

 金を分ける。

 現金を戻す。

 それが今月の仕事。

 ただし、博之の頭の中ではすでに、高槻の地図に二つ目の丸が浮かび始めていた。

「まあ、二百人超えは見過ごせんからな」

「また箱増えるじゃないですか」

「まだ探すだけや」

「その台詞、何回目です?」

 博之は答えず、帳面を閉じた。

 二〇三〇年五月。

 会社の金を守ろうと決めたその月にも。

 次の五十万円の使い道だけは、しっかり頭の中で育ち始めていた。

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