2030年3月。高槻を横目に吹田にアンテナを張る。北千里線の住宅街にターゲットを絞る。千里山にネイル1軒
第〇話 次は千里線へ
二〇三〇年三月。
高槻に出したネイルサロンも、少しずつ客が増えていた。
茨木の二店舗も相変わらず忙しい。
美容院についても、一号店、二号店とも予約が詰まり気味である。
「そろそろ、また次見なあかんな」
博之は地図を広げた。
茨木。
高槻。
そして、その下にある吹田。
「吹田ですか?」
「吹田いうても、JR吹田一本で考えんでもええと思うねん」
博之が指でなぞったのは、阪急千里線だった。
千里山。
南千里。
北千里。
「この辺、住宅街強いやろ」
「家賃高くないです?」
「高いやろな。でもネイルも美容も、夜のスナックとは客層ちゃうしな」
住宅地。
学生。
子育て世代。
比較的所得に余裕のある世帯。
ネイル一回八千円前後。
あるいは爪のケアだけなら、もう少し安いメニューも作れる。
「うち何店舗かあるから、いきなり知らん店よりは入りやすいやろ」
統括たちもうなずいた。
「淡路より千里線の方が、美容系は合いそうな気はしますね」
「やろ?」
「淡路は飲食とかスナックならありかもしれないですけど」
「全部同じ街で同じ商売する必要ないしな」
スナックなら阪急高槻市。
ネイルや美容なら千里線。
街によって置くものを変える。
「ほな、吹田方面もう一人増やそか」
「また外回り?」
「そう」
営業のおじさんを一人、新しく採ることにした。
これまでと同じく、いきなり重たい働き方にはしない。
短時間。
施設への営業。
物件探し。
地域情報の収集。
「車どうします?」
「カーシェアでええやろ」
「会社で車買わないんです?」
「まだいらん」
駐車場。
保険。
車検。
維持費。
そこまで固定費を抱える必要はない。
「必要な時だけカーシェア。経費で使って」
「歩きでも?」
「全然ええ。むしろ歩いた方が箱見つかるやろ」
古い美容院。
二階の小さなテナント。
閉まりかけた商店。
不動産屋の貼り紙。
そういうものは、車で通り過ぎるより歩いた方が拾える。
「あと老人ホームも回って」
「またネイルと美容ですか?」
「そう。箱作る前に需要取る」
高槻でうまくいった方法を、そのまま吹田でも試す。
施設へ訪問する。
ネイルをする。
美容をする。
家族や職員に店を知ってもらう。
その地域で客が作れそうなら、最後に箱を置く。
「人、客、箱やな」
「最近ほんまそれですね」
数週間後。
外回りから連絡が入った。
『千里山の方で小さい箱ありました』
「いくら?」
『家賃はそこそこですけど、三席いけそうです』
「見に行く」
博之はネイル統括と現地へ向かった。
駅から少し歩く。
大通りの一等地ではない。
古さもある。
しかし三席を置くには十分だった。
「これ、いけそう?」
「いけますね」
「初期費用どれぐらい?」
「内装と備品で五十万ぐらい見れば」
「ほな、ありやな」
「また決めるんですか?」
「ネイルはもう型あるからな」
高槻でゼロから始めた経験もある。
Googleレビューの集め方も分かってきた。
スタッフ募集をすれば、応募も来る。
「まず三席。無理せず始めよ」
吹田・千里線方面の最初の一本。
いきなり美容院は作らない。
美容院なら、また百五十万円前後が必要になる。
「美容院は高槻で先に考えたい」
「高槻、訪問美容も増えてますもんね」
「そう。高槻に美容の箱置けたら、施設訪問もそっから出せる」
だから順番を決めた。
まず千里山にネイル。
高槻ではスナックとネイルを育てる。
その次に高槻美容院。
訪問美容を高槻拠点へ移す。
「一気に全部やらへん」
「オーナー、最近慎重ですね」
「Excelで二千万消えた男やぞ」
「またその話」
「一生言うわ」
外回りの配置も少し変える。
高槻がある程度一巡したら、経験者一人を吹田方面へ。
新しく入ったおじさんと二人で、千里線沿線を回る。
高槻には一人残し、既存施設のフォローや新しい物件情報を拾ってもらう。
「地域ごとに担当できてきましたね」
「俺が全部歩かんでよくなったの、めっちゃ楽やわ」
以前なら、博之自身が不動産屋へ行き、店を見て、客を集めていた。
今は違う。
外回りが情報を拾う。
統括が人を見る。
店長が現場を回す。
博之は、その情報をつないで次の箱を決める。
「会社っぽいやん」
「株式会社ですから」
「あ、そうやった」
二〇三〇年三月。
博之たちは、高槻の次に、阪急千里線へ小さな根を伸ばし始めた。
大きな店はいらない。
派手な出店もいらない。
まず五十万円の小箱。
三席のネイルサロン。
そこからまた、人と客をじっくり増やしていけばいい。
「千里山で百人来たら、その次考えよ」
博之はそう言って、また一つ地図に丸をつけた。




