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2029年11月。50万使い高槻視察を重ねる中で阪急高槻市でのスナックは行けるとみる。JR側は美容か。女性陣にも視察が必要や

 二〇二九年十一月。

 高槻の街を実際に見てみよう。

 そういう名目で、博之は外回りをしているおじさんたち数人を連れて、夜の阪急高槻市駅周辺へ出た。

「今日は俺のおごりな」

「マジっすか」

「視察やからな」

「いやあ、楽しみっすわ」

 普段から博之のスナックにはよく来る面々だった。

 しかし意外にも、茨木であれ高槻であれ、よその夜の店を何軒も回ることは少ない。

「いつもの店があると、わざわざ他行かんもんな」

「そうなんすよ。オーナーのとこ安いし」

「そこ大事やな」

 まずは、高槻でも比較的大きなキャバクラへ入った。

 店内は綺麗。

 女性も確かに華やかだった。

「かわいいな」

「かわいいっすね」

 ただ、一時間ほど過ごした頃。

 博之とおじさんたちの感想は、妙なところで一致した。

「……高いな」

「高いっす」

「しかも、そんな喋られへんな」

 女性は綺麗だった。

 そこは八十点ぐらい。

 だが、料金を考えると頻繁に来る場所ではない。

「俺、スナックでダラダラ喋る方が好きやわ」

「俺もっす」

「お前ら普段うちで飲みすぎて、感覚おかしなってない?」

「それはあります」

 次に、小さなスナックを何軒か回った。

 こちらはキャバクラより安い。

 雰囲気もまったりしている。

 ただ、博之は自分が思っていた以上に細かいところを見てしまった。

 女性スタッフの愛想。

 会話の回し方。

 ドリンクの作り方。

 客との距離。

 店内の清潔感。

「うーん」

「どうです?」

「四十五点から五十点ぐらいかな」

「厳しっ」

「いや、悪い店ではないねん」

 ただ、自分の店と比べてしまう。

「うちの子の方がええな」

「それはオーナー補正ちゃいます?」

「それもあるかもしれん」

 だが考えてみれば、博之の店では時給や手当を削りすぎないようにしている。

 ネイル経験があればネイルの仕事へ。

 美容師免許があれば美容院へ。

 夜の仕事だけに依存しなくてもいいように、別の仕事も渡している。

「女の子からしたら、安心感あるんかな」

 今日はスナック。

 別の日はネイル。

 昼は美容。

 それぞれ少しずつ収入を持てる。

「だから余裕あるんちゃいます?」

 おじさんの一人が言った。

「今日売上作らな死ぬ、みたいなんが薄いから」

「ああ、それあるかもしれんな」

 博之自身、これまでそこを強みとして深く考えたことはなかった。

 ただ仕事を切り分けて渡していただけだった。

 それが結果的に、接客にも影響しているのかもしれない。

「一回、女の子らにも聞かなあかんな」

・・・・・・・・・・

 夜の高槻を歩きながら、博之は街そのものも見ていた。

 阪急高槻市側。

 夜の店がある。

 飲食店もある。

 人が歩いている。

「ここならスナックいけそうやな」

「俺もそう思います」

「家賃次第やけどな」

 少なくとも、茨木で作ってきた六席、八席程度の小さなスナックを置く余地はありそうだった。

 一方、JR高槻駅側へ行くと、少し印象が違った。

「こっちはちゃうな」

 商業施設。

 大きなマンション。

 駅前の整った街並み。

 人は多い。

 購買力もありそうだ。

 しかし、小さなスナックを入れるには家賃や客の流れが合わない。

「スナックは阪急側やな」

「ネイルは?」

「むしろJR側ありやと思う」

 美容院も同じ。

 単価をある程度取れるサービスなら、JR高槻側の客層とは相性がいいかもしれない。

「ただ家賃高いわ」

「そこですね」

「戦うかどうかは三角やな」

 高槻ネイル一号店はすでに動いている。

 次にすぐ美容院まで置くかと言われれば、まだ分からない。

 訪問美容とネイルで地域の反応を見ながら考えればいい。

・・・・・・・・・・・・・

 それにしても。

 今回の視察で、博之は別のことも考え始めていた。

「男だけ五十万使うんも変やな」

「何の話です?」

「視察費」

 男性陣には、高槻や茨木の飲食店、夜の店を見てもらう。

 なら女性陣にも何かあっていい。

「別に女の子に夜の店行けとは言わんけどな」

 ランチ。

 カフェ。

 美容店。

 ネイル。

 商業施設。

 高槻や茨木で遊びながら、何が流行っているかを見る。

「女性陣にも五十万ぐらい、なんか使ってもええかもな」

「遊び代ですか?」

「視察費や!」

「オーナー、自分らが飲み歩いたから急に言い出したでしょ」

「それもある」

 でも、実際に外へ出てみないと分からないことは多かった。

 自分の店がうまくいっている。

 それだけでは、自分たちの位置が分からない。

 他店を見る。

 客として金を払う。

 良かったところを持ち帰る。

 微妙だったところも持ち帰る。

「茨木も、もっと他の店行かなあかんな」

「地元こそ知らないですもんね」

「付き合いもあるしな」

 自分たちだけで客を囲うのではなく、近所にも金を落とす。

 飲食店ともつながる。

 その方が長く商売できる。

 そして高槻だけでなく、吹田や淡路へ横に広げる選択肢もある。

「別に高槻一本で行かなあかん理由もないしな」

 博之はそう言った。

 高槻で勝負する。

 吹田へ行く。

 淡路を見る。

 茨木でもう少し深く根を張る。

 どれでもいい。

「まあ、まずは見て回ろ」

「また飲むんです?」

「あくまで市場調査です」

「仕事を遊びに変えてますやん」

「違います」

 博之は真顔で否定した。

「遊びを仕事に近づけてるだけや」

「もっと悪い気がする」

 夜の高槻で、おじさんたちの笑い声が響いた。

 少なくとも一つだけ分かった。

 阪急高槻市。

 ここなら、小さなスナックを一本置く勝算はありそうだった。

 ただし、急がない。

 まずは飲む。

 見る。

 聞く。

 そして女の子たちにも、同じ街を別の目で見てもらう。

 博之の高槻攻略は、ようやく「店を出す前に街を知る」という段階へ入っていた。

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