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2029年10月。介護施設訪問ネイルと美容院が順調。おっちゃんが高槻のネイルの箱も探してくれる。

 二〇二九年十月。

 茨木の既存店については、大きな問題もなく回っていた。

 新しく作ったスナック四号店や美容院二号店も、まだ以前からある店ほどの

 利益は出ていないものの、赤字幅は少しずつ縮小している。

「まあ、じわじわやな」

 博之としては、それで十分だった。

 いきなり満席。

 いきなり黒字。

 そんなものを期待しているわけではない。

 来てくれた客がもう一回来る。

 Googleレビューが一件増える。

 紹介が一人増える。

 それを繰り返せばいい。

 一方、思った以上に育ち始めていたのが、老人ホームへの訪問ネイル・美容だった。

「高槻、また一件決まりました」

 外回り担当のおじさんが報告する。

「ええやん」

「ネイルです。最初十人ぐらいで」

「十分十分」

 茨木から始めた介護施設へのローラー営業は、今では高槻へ広がっている。

 外回り担当も三人になった。

 週二日程度。

 契約ノルマなし。

 ただし回った施設と反応は日報に書く。

 その緩い営業が、意外と機能していた。

「訪問部、今どんな感じ?」

「営業三人分の給与、かなり吸収できるようになってます」

「おお」

「全部引いて大儲けではないですけど」

「それでええねん」

 三人のおじさんに仕事がある。

 ネイリストにも美容師にも仕事が回る。

 それで収支がほぼ合う。

「元々そこ狙いやからな」

 そんなある日。

 高槻担当のおっちゃんが、別の話を持ってきた。

「オーナー、高槻でネイルできそうな箱ありましたよ」

「いくら?」

「七万です」

「ほう」

 駅から超至近というわけではない。

 少し古い。

 だが小さなネイルサロンとして使うには悪くない。

「見に行こか」

 数日後。

 博之はネイル二号店の店長や統括候補と一緒に高槻へ向かった。

「狭いですけど、二、三人ならいけそうですね」

「家賃七万なら十分やろ」

 茨木のネイル二号店は、三人同時に入れるよう少し広めの箱を取った。

 理論上は月三百人を超える客にも対応できる。

 しかし今や、利用客は月二百四十人ほど。

「まだ余裕あるように見えるけどな」

「でも最近増え方早いですよ」

「レビューも溜まってきたもんな」

 価格も比較的抑えている。

 口コミも増えている。

 このままなら、一年後には再び茨木の二店舗が詰まり始める可能性もある。

「ほな、高槻に流すのもありか」

 博之が言った。

「茨木の客で、高槻の方が近い人もおるやろ?」

「いますよ」

「新規も高槻で拾える」

 そして何より。

 高槻では、すでに訪問ネイルの仕事が発生し始めている。

「高槻の施設に行くネイリスト、こっちから派遣したらええやん」

「ああ、それ便利ですね」

「店舗と訪問を一緒にする」

 高槻ネイル店。

 そこを拠点にして、老人ホームへの訪問も行う。

 茨木から毎回人を送り込むより効率がいい。

「これ、単なる三号店ちゃうな」

「高槻の拠点ですね」

「そうそう」

 そこで博之は統括の話もした。

「高槻見てくれる人、統括手当五万出すで」

「私やりたいです」

 一人の女性がすぐ手を挙げた。

「早いな」

「高槻ちょっと興味あります」

「ほんまにできる?」

「やります」

 店長手当とは別に、統括として月五万円。

 採用。

 人の配置。

 訪問ネイルとの調整。

 茨木との応援。

 その辺まで見てもらう。

「ほな、一人は経験ある子を置こう」

 統括候補一人。

 信頼できる既存スタッフ一人。

 さらに、

「その子と働きたいです」

 という若いネイリストも加わった。

「なんか勝手にチームできたな」

「オーナーが作ったんですよ」

「俺、箱用意しただけやで」

 初期費用は、ざっくり五十万円。

 大規模な工事はしない。

 必要な備品だけ揃える。

「五十万ならやろか」

「赤字でも?」

「しばらくはええよ」

 茨木なら既存店と比べてしまう。

 しかし高槻は白地だ。

 ゼロから客を積み上げる地域。

「最初三十人でも四十人でもええ」

「茨木から流します?」

「希望する人だけな。無理やり移さん」

 訪問ネイルの利用者家族。

 YouTube。

 Google。

 紹介。

 高槻のスタッフ自身のつながり。

 入口はいくつもある。

「高槻で百人いったら成功ぐらいの気持ちでやろ」

「ゆっくりですね」

「最初から二百人取るつもりでやったらしんどいやろ」

 ここでも無理はしない。

 店舗スタッフにも。

 統括にも。

 博之自身にも。

 そして、訪問事業についても方針が決まった。

「高槻の施設案件は、できるだけ高槻店から出す」

「ネイルだけ?」

「美容はまだ茨木からやな。美容院ないし」

 将来、高槻に美容院までできれば、そこも地域内で回せる。

「まずネイル」

「その次スナックですか?」

「それは物件次第」

 博之は笑った。

「高槻まで一気に征服しようとしたら怒られるからな」

「誰にです?」

「知らんけど」

 十月。

 五十万円を投入し、高槻ネイル一号店を作ることが決まった。

 茨木で育てた三軒目のネイルサロン。

 だが博之にとっては、単なる三号店ではなかった。

 訪問営業のおじさんたちが先に歩き。

 介護施設との仕事が生まれ。

 その後に人が集まり。

 最後に箱を置いた。

「これ、いつもの順番やな」

 人。

 客。

 そして箱。

 高槻への最初の一本が、ようやく地面に刺さろうとしていた。

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