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2029年1月。統括手当と、ネイル二号店。阪急茨木駅に月8万、3席作れそうな店を見つける

 二〇二九年一月。

「統括手当、月五万にしよか」

 博之は年明け早々、新しく作る役職の金額を決めた。

 これまで店長手当は月三万円。

 店長をしながら複数店舗を見る統括になれば、それに五万円を加える。

「つまり店長兼統括なら、手当だけで八万円な」

 まず置くのは二人。

 スナック部門に一人。

 ネイル部門に一人。

 博之がその内容を店長やスタッフが入っている連絡網へ流したところ、予想以上に反応があった。

『統括やりたいです』

『私も興味あります』

『ネイルの方、立候補していいですか?』

「めっちゃ来るやん」

 博之はスマホを見ながら笑った。

 五万円という金額は、やはり小さくない。

 店長手当と合わせれば毎月八万円上乗せされる。

 ただし、博之としては手を挙げた順番で決めるつもりはなかった。

「いやいや、これは人気投票ちゃうからな」

 店を回せる。

 新人の面倒を見られる。

 問題が起きた時に話を聞ける。

 採用にも関われる。

 そして博之へ何でも丸投げしない。

「ちゃんと面談する。統括に向いてるか見てからや」

「厳しいですね」

「五万余分に払うねんから、そら見るやろ」

 将来的には、この統括あたりから社員登用することも考えていた。

「会社にするなら、こういう子から正社員にしていくんかもしれんな」

 もっとも、それは税理士とも相談してからだ。

 今はまだ仕事を細かく切り分け、バイトや委託、手当という形で回している。

「とりあえず統括制度だけ今月から始めよ」

 ネイルの統括については、比較的早く候補が決まった。

 そして、その女性と一緒に博之が次に向かったのが、阪急茨木市側だった。

「ここか」

「駅からもそんな遠くないですね」

 見つかったのは、月八万円の小さなテナント。

 中に入って採寸してみる。

「三席いけそう?」

「いけると思います」

「三席あったら十分やな」

 豪華ではない。

 むしろいつもの博之らしく、少し古い。

 だが水回りも使えそうで、大掛かりな工事は必要なさそうだった。

「内装どれぐらい?」

「四十万ぐらい見たら形になると思いますけど、余裕見るなら五十万ですかね」

「家賃八万やろ?」

「はい」

「ほな、五十万見とこか」

 以前なら、ここからさらに何週間も悩んでいただろう。

 だが、今はすでに客がいる。

 既存のネイルサロンは月二百人を超え始めていた。

「もう今の箱に詰め込むより、分けた方がええわ」

「私もそう思います」

「ほな、ここにしよ」

「決めるんですね」

「高槻行く前に、まず茨木固めよ」

 高槻進出は消えたわけではない。

 むしろ次の目標だった。

 ただ、現在の客をきちんと受け入れられない状態で、外へ広げる必要もない。

「一号店と二号店で客を分ける。そこで運営の型作って、その次が高槻や」

 ネイル統括もうなずいた。

「二号店できたら、働きたい子も集まりやすいと思います」

「そうなん?」

「月二百人以上集客できてるって分かったら、ネイリスト側からしたら大きいですよ」

 技術はある。

 だが客を持っていない。

 独立するほどの資金もない。

 そんな女性にとって、客がすでにいる店は魅力的だった。

「じゃあ、人も募集しよ」

「一気に増やしすぎない方がいいですよ」

「分かってる。客を分けながらやな」

 新しい店は三席。

 一号店と二号店で予約を振り分ける。

 そして二号店には、二号店としての客も育てる。

「Googleの口コミも一から貯めなあかんな」

「そうですね」

「二号店オープンですってちゃんと告知して、最初は千円引きぐらいやる?」

「ありだと思います」

「口コミのキャンペーンもなんか考える?」

「そこはやり方確認しながらですね」

「ほな、現場で考えて」

 オープン直後は多少利益を落としてでも、新しい店へ足を運んでもらう。

 一度来てもらえば、そこから先はネイリストの仕事だ。

「一回来てもらうところまでは、こっちで頑張る」

「リピーターは私たちですね」

「そういうこと」

 博之が集客する。

 統括が人と店舗を管理する。

 店長が現場を回す。

 ネイリストが客を再来店させる。

 少しずつ役割が分かれ始めていた。

「なんか会社っぽなってきたな」

「統括まで作ったら、だいぶ会社ですよ」

「まだ株式会社ちゃうけどな」

 まずは茨木。

 ネイル二号店。

 三席。

 家賃八万円。

 初期費用は五十万円ほど。

 すでにいる二百人超の客を二つの箱へ分けながら、新しい客も積み上げていく。

「ここ埋めたら、次は高槻や」

「いよいよですね」

「まだや。まずここ」

 二〇二九年一月。

 高槻へ伸びる前に、博之はもう一本、茨木に根を張ることにした。

 派手な進出ではない。

 だが、二号店を任せられる人まで育ち始めた。

 店が増えるだけではない。

 その店を任せる人間も、少しずつ増えていた。

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