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2029年1月。博之45才。家が会議室になっている。近々ではネイルサロンの箱とスナックの箱を探す

 二〇二九年一月。

 博之、四十五歳。

「というわけで、今年は箱を増やします」

 年明け早々、博之の二LDKには店長たちが集まっていた。

 スナック、ネイル、美容院。

 テーブルの上にはペットボトルの茶と菓子、それから各店舗の数字を書いた紙が並んでいる。

「まずネイルな。もう今の店、パンパンやろ?」

「結構きついです」

「予約ずらしてもらうことも増えてます」

「ほな速攻で二号店探そ」

 候補は二つ。

 茨木でもう一軒。

 あるいは高槻へ初進出。

「優先順位は茨木やな。今の客を逃がさんためにも、近くにもう一箱作る方が先」

「高槻は?」

「並行して探す。ええ居抜きとか小さい箱出たら押さえるかもしれん」

 つまり、茨木二号店を本命。

 高槻一号店を次の一手とする。

「ネイルは店だけ増やしても、俺が全部見てたら死ぬからな」

 そこで新しい役職を作る。

「統括、一人置こうと思う」

「店長の上ですか?」

「そう。各店舗に店長がおって、その上で二店舗とか三店舗まとめて見る人」

 採用。

 人員配置。

 新人の相談。

 欠勤時の調整。

 店舗同士の応援。

 その辺を博之ではなく、統括に任せる。

「当然、統括手当も出す」

「いくら?」

「そこはこれからや。仕事増えるのに肩書きだけ偉くして終わり、は一番嫌やから」

 美容院も、二店舗目が見えてくれば同じ仕組みにする。

 スナックについても三店舗が安定してきた。

「阪急茨木市に四号店か、阪急高槻市に一号店やな」

「また茨木優先?」

「今んところな。JR二軒、阪急二軒にしたら、茨木の形はだいぶ完成するやろ」

 そこから高槻へ出る。

 ただし、いい物件が先に高槻で出れば順番は変えてもいい。

「箱に合わせるんやなくて、人と客と物件見ながらやな」

 そして人材についても、方針ははっきりしていた。

「ネイルとか美容って、資格とか技術持ってても集客できへん子、結構おるやろ?」

「多いですよ」

「そこを拾いたいねん」

 自分一人で百人の客を持ってこられるなら、独立すればいい。

 しかし技術はある。

 接客もできる。

 それでもゼロから集客して、家賃を払い、広告を出し、予約管理まで全部やるのはしんどい。

「ほな、うちでええやん」

 博之はそう考えていた。

「月二十人でも三十人でも担当して、小遣いよりちょっと多いぐらい稼いで、

 気楽に続けたい人もおるやろ」

「修行場所みたいな感じですね」

「修行でもええし、ずっとおってもええ。別に全員独立せなあかんわけちゃうし」

 もちろん、スナックで働いている女性がネイル経験者だったり、美容師免許を持っていたりすれば、

 そちらを優先する。

 すでに関係ができている人へ、別の仕事を渡す。

 それが博之のやり方だった。

「清掃も今年もうちょい増やしたいけど、それは後や。まず箱やな」

 そこで一人の店長が部屋を見回した。

「ところでオーナー」

「何?」

「なんで毎回ここで会議してるんですか?」

「知らんがな」

「完全に集会所ですよね」

「俺の家やぞ」

 二LDKに引っ越した結果、以前のワンルームより人を呼べるようになった。

 それが裏目に出た。

「オフィス借りてくださいよ」

「嫌や」

「即答」

「また固定費増えるやんけ」

「でも五店舗とか六店舗になってきてますよ」

「まだ正社員、一人もおらんねんぞ」

 博之は笑った。

「今の俺、仕事を切って貼って、切って貼ってして、みんなにバラバラ撒いてるだけや」

 店長手当。

 時給。

 清掃。

 一日店長。

 美容。

 ネイル。

 専門清掃。

 経理。

 いろんな仕事を小さく切り分けて、それぞれに渡している。

「会社みたいで会社ちゃうねんな」

「じゃあ株式会社にします?」

「それも今年、税理士さんと話さなあかんと思ってる」

 事業規模は大きくなった。

 店舗も増えた。

 今後、きちんと人を雇い、統括まで置くなら、そろそろ法人という箱も必要になるかもしれない。

「会社にして、ちゃんと雇用して、役割決めたら、いよいよ会社っぽくなるな」

「社長ですね」

「嫌やなあ、その響き」

「なんでですか」

「俺、もっと遊ぶ予定やってん」

 一同が笑った。

「会社辞めて自由になる予定やったんやぞ。平日にふらふらして、旅行して、女の子と遊んで、

 彼女でもできたらええなあと」

「結果どうです?」

「仕事しかしてへん」

「彼女は?」

「おらん」

「旅行は?」

「店見に高槻行くぐらいや」

「仕事やん」

「そうやねん!」

 博之は頭を抱えた。

「自由になるために会社辞めたのに、なんで俺、自分で仕事増やしてんねん」

「でも仕事あるのありがたいじゃないですか。個人事業主として」

「それはそうやけどな」

「足りない分は梅田で遊んできてください」

「何が足りない分や」

「女の子成分です」

「雑な処方箋やな」

「北新地でもコンカフェでも好きなところ行ったらいいじゃないですか」

「俺の恋愛を金で解決すな」

 また笑いが起きた。

 結局、その日の会議で決まったのは三つ。

 茨木のネイル二号店を最優先で探す。

 阪急茨木市の四号スナックも並行して探す。

 そして、ネイル部門に初めて統括を置く。

 高槻については、その次。

 だが、もう視界には入っている。

「まあ、一個ずつやな」

 博之は資料をまとめた。

 茨木で根を張る。

 そこから高槻へ。

 人を集め、仕事を小さく切って渡し、必要になったら箱を作る。

 会社にするかどうかは、その先で税理士と考える。

「で、会議終わったから帰ってくれる?」

「えー」

「ここ俺ん家やぞ!」

 二〇二九年。

 博之の家は、年明け早々から、やっぱり半分事務所になっていた。

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