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2028年12月末日。来年の野望。年末のお礼を渡しながら語る。スナックとネイルサロンは考えているがその他は未定www

 二〇二八年十二月末。

「これ、まだ渡してない子おったっけ?」

 博之は、小さなポチ袋を何枚も並べながら、一人ずつ名前を確認していた。

 中身は千円。

 去年と同じである。

「今年もありがとうございました、ということで」

「また千円?」

「また千円や」

「増えてないんですね」

「人数増えてんねんぞ。そこ考えてくれ」

 スナックの女性スタッフ。

 一日店長。

 ネイル。

 美容。

 店長たち。

 全員が一度に集まることはないので、顔を合わせた順番に渡していった。

「これで渡してないやつおらんよな?」

「たぶん大丈夫です」

「たぶんが怖いねん」

「名簿作ったらいいじゃないですか」

「そういうの税理士さんとか店長に任せたいねん」

「お年玉ぐらい自分で管理してください」

 笑われながらも、博之は一人ずつ手渡していった。

 千円など、大きな金ではない。

 それでも去年、

「毎年これぐらいはできたらええな」

 と思って始めたことだった。

 今年も同じように配れる。

 それだけで、何となく嬉しかった。

「今年もなんとか終われそうやな」

「順調でしたよね」

「まあなあ」

 三軒のスナックは、大きく崩れなかった。

 ネイルも育った。

 美容院も固定店舗になった。

 清掃の仕事も増えた。

 店長も増えた。

「結構やってますよ、オーナー」

「そうなんかな」

「去年よりめっちゃ増えてるじゃないですか」

「でもなあ」

 博之は少し首をかしげた。

「もっとなんかできたんちゃうかな、とか思わんこともないねん」

「十分でしょ」

「そう?」

「じゃあ来年、何するんですか?」

「それなんよな」

 博之は焼酎を一口飲んだ。

「阪急茨木市側に、もう一軒スナックはやりたい」

「四号店ですね」

「そう。JR側二軒、阪急側二軒にしたい」

 これは以前から考えていた。

 茨木の中で二つずつ。

 人も酒も客も、近いところで回せる。

「あとネイルやな」

「二号店?」

「そろそろ客多いからな」

 今のネイルサロンは、かなり予約が埋まるようになっていた。

 ただ、次も茨木に出すのか。

 それとも高槻へ行くのか。

「そこはまだ分からん」

「高槻行くんですか?」

「いつかは行きたい」

「急に広がるなあ」

「茨木だけで一生やるんも違うやろ」

 ただし、博之自身もまだ明確な道筋を持っているわけではなかった。

「スナックとネイルは、やったことの焼き直しやからな」

 一号店から二号店。

 二号店から三号店。

 ネイルも、一度仕組みを作ってしまえば次は多少楽になる。

「問題はその先や」

「その先?」

「清掃とか。あと、お客さんで仕事あんまりない人に、なんか渡したいねん」

 日常清掃。

 買い出し。

 閉店作業。

 すでに細かい仕事はいくつか作っている。

 だが、それだけではない。

「もっと何かできる気するねんけど、何したらええか分からん」

「オーナーでも分からんことあるんですね」

「分からんことだらけや」

 弁当。

 たこ焼き。

 清掃部の拡張。

 もしかすれば、今後出会う誰かの技能から別の商売が生まれるかもしれない。

「結局、人見てからやな」

「何できる人がおるか?」

「そうそう。俺が先に業種決めてもしゃあない」

 美容もネイルも、最初からやりたかったわけではない。

 働いていた女性の中に経験者がいた。

 客を集めたら、仕事になった。

 それだけだった。

「じゃあ来年も、人集めるところからですね」

「たぶんな」

「おぼろげですけど、スナックとネイルは決まってるんですね」

「まあ、そこはな」

 博之は笑った。

「問題は、茨木からどう外に出るかや」

 高槻。

 吹田。

 その先には長岡天神や桂。

 JR京都線と阪急京都線。

 これまで何度も頭の中では描いてきた。

「まず茨木起点やな」

「いよいよ野望が始まりますね」

「野望?」

「オーナーが沿線を攻め込んでいくんですよ」

「戦国大名ちゃうねんから」

「でも似たようなもんじゃないですか。茨木固めて、高槻取って、吹田取って」

「取る言うな」

 店の中で笑いが起きた。

「まあ、うまいこと回ったらな」

「十分回ってますよ」

「調子乗ったらあかんねん」

 一軒ずつ。

 一人ずつ。

 一人の客を取る。

 一人の働く場所を作る。

 それを積み重ねるしかない。

「来年もぼちぼちやな」

「彼女も?」

「……それは全然ぼちぼち進んでへんな」

「婚活パーティー行ったらどうです?」

「嫌や」

「なんで?」

「行きすぎた」

「行きすぎた?」

「もう散々行った。全然あかん」

「店は増えるのに彼女は増えませんね」

「彼女は一人でええねん!」

「一人もいないですけど」

「うるさいわ」

 年末の店に、また笑い声が響いた。

 仕事は増えた。

 店も増えた。

 関わる人も増えた。

 それでも博之の私生活だけは、あまり変わっていない。

「まあ、来年考えるわ」

「何を?」

「全部や。店も仕事も彼女も」

「彼女は後回しになりそうですね」

「否定できへんな」

 二〇二八年。

 大きな事故もなく、一年を終えることができた。

 そして次は、二〇二九年。

 茨木から、少しだけ外へ。

 博之の小さな野望は、まだ輪郭だけだったが、確かに動き始めていた。

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