2028年12月。美容院とネイルサロンのはしご割を行う。自分の金や税理士費用など必要な分は少しづつ残す。
二〇二八年十二月。
「今年も、なんとか終われそうやな」
博之は、一号店のカウンターでそんなことを呟いていた。
スナック三店舗については、相変わらずだった。
一号店。
二号店。
そして阪急茨木市側の三号店。
それぞれに常連客がつき、店長や女性スタッフが店を回している。
もちろん、小さなトラブルはある。
酔っ払い。
シフト変更。
急な欠勤。
客同士のちょっとした言い合い。
それでも、
「まあ、警察沙汰とか、金抜いて飛ぶとか、そういうのなかったら十分や」
というのが博之の感覚だった。
「このまま普通に年越してくれたら、それでええわ」
そして今年大きく育ったのが、美容関係だった。
まずネイル。
美容院と相談して始めた「はしご割り」も、思ったより反応が良かった。
「五百円引きじゃ弱いですよ」
という現場の意見を聞き、
「ほな千円にする?」
ということで、双方で千円引き。
美容院を利用した客がネイルへ行けば千円引き。
ネイルから美容院へ行っても千円引き。
「結構引くなあ」
「でも、その方が行ってみようってなりますよ」
「まあ、客一人増えるならええか」
利益率だけを考えれば、当然その分は減る。
しかし、グループ全体で見れば、一人の客が二つの店を使ってくれる。
「片方しか来てへん人が、もう一個来てくれたら十分やな」
十二月。
ネイルサロンの利用者は月百九十人ほどまで増えていた。
「百九十?」
「はい」
「もう箱パンパンちゃう?」
二席だけの小さなネイルサロン。
さすがに限界が見え始めていた。
「二百ぐらいで一回頭打ちやな」
「予約取れない時間出てきてます」
「まあ、無理に詰め込まんでええよ」
客数だけを追いかけて、働く女性たちを疲弊させるつもりはない。
まず百九十人に安定して通ってもらう。
もし本当に二百人を超えて予約を断るようになれば、その時に二号店を考えればいい。
「ネイルは美容院より箱安いからな」
家賃五万、六万円程度の小さな場所なら、もう一店舗を作ることも難しくない。
「でも来年考えよ。今すぐ増やさんでええ」
一方、美容院。
こちらは月百五人ほど。
固定店舗を作ったばかりなので、まだ焦る必要はない。
「美容はじっくりや」
百五十万円ほど出した初期投資も、少しずつ回収していけばいい。
店があり。
美容師が働き。
客が次の予約を入れて帰ってくれる。
それだけでも、シェアサロン時代から考えれば大きな前進だった。
そして年末。
博之は、商売以外の金についても整理していた。
「稼いだら全部店に突っ込む、いうのも違うしな」
小規模企業共済。
年間八十四万円。
経営セーフティ共済。
今年は年間二十四万円。
そしてNISA。
「二百四十万入れよ」
店を増やすための現金は別に残す。
そのうえで、今すぐ使わない金は少しずつ将来へ回す。
「店だけ残って俺の金ゼロでした、は嫌やからな」
税理士との年間契約も七十万円。
これはもう、博之にとって必要経費だった。
「高いけどなあ」
以前なら七十万円と聞いただけで、自分で全部やろうとしただろう。
だが今では、
「俺が確定申告で二か月死ぬよりええ」
と思える。
税金。
帳簿。
経費。
店舗別の収支。
その辺は税理士へ渡す。
ネイルはネイル店長。
美容は美容店長。
スナックは各店長。
日常清掃についても、月十万円ほどの枠を作り、二人のおじさんに仕事を分けている。
さらに数か月ごとの専門清掃は、以前から付き合いのある常連の業者へ。
「なんか金出ていくところ、めっちゃ増えたな」
博之は笑った。
ただ、不思議なことに。
年始より、手元の金は増えていた。
毎月入ってくる金も増えた。
そして何より、博之一人の収入だけではなく、そこから何人もの人へ小さな給与や
仕事が流れるようになった。
「二年前なんか、スナック一軒やったんやけどな」
一号店。
二号店。
三号店。
ネイルサロン。
美容院。
清掃部。
税理士。
店長たち。
気づけば、博之一人では数えるのも面倒なほど、いろいろなものがつながっていた。
それでも博之自身には、大企業を作っている感覚はなかった。
「まあ、来年もぼちぼちやろ」
ネイルの二号店を作るのか。
阪急茨木市に四号スナックを作るのか。
それとも清掃や弁当のような、別の仕事を増やすのか。
まだ決めなくていい。
「まず年越そ」
博之は店の中を見回した。
客が笑っている。
女性スタッフが働いている。
少し離れた場所では、ネイルの予約が入り、美容院にも次月の予約が入っている。
金を稼ぐ。
人に渡す。
少し残す。
そして将来の自分にも回す。
二〇二八年。
博之はようやく、店だけではなく、自分の生活と資産まで含めて、小さな経済圏を回し始めていた。
「まあ、今年もようやった方ちゃう?」
誰に言うでもなく、そう呟く。
そのまま大きなトラブルさえ起きなければ。
今年も、悪くない年越しになりそうだった。




