2028年11月。JR茨木と阪急茨木市の間に美容院をオープンさせる。古い、小綺麗にはしたがwww薬剤とかはいいのつかってるんでwww
二〇二八年十一月。
ついに、美容院がオープンした。
JR茨木と阪急茨木市のちょうど間ぐらい。
二席だけの、小さな美容院。
元々あった美容室の居抜きをそのまま活用したので、外観は正直なところかなり古い。
「うわ、思ってたより年季入ってるね」
初日に来てくれた常連客からも、早速そんなことを言われた。
「そうなんですよ」
博之も笑った。
「外はまあまあボロいです」
「中は?」
「中は清掃入れて、最低限小綺麗にはしました」
「最低限なんや」
「建物自体は古いんで、それはもう勘弁してください」
壁も床も新品ではない。
設備も最新型ではない。
しかし、清掃だけはかなりしっかり入れた。
壊れているところは直し、椅子や備品も必要なものは揃えた。
「その代わり、薬剤とかはちゃんとしたやつ使ってますから」
「そこ大事やね」
「あと値段も、そんなぼったくりちゃうと思います」
「自分でぼったくり言うな」
「場所に金掛けるより、薬剤と人に金掛けたいんですよ」
そこから先は、美容師たちの腕次第である。
「俺、髪切れへんからな」
「知ってます」
「店と客の入口までは用意した。あとは女の子たち頑張ってください」
美容師たちは少し緊張しながらも、どこか楽しそうだった。
シェアサロン時代とは違う。
今日はここ。
次回は別の場所。
そんな説明をする必要がない。
「やっぱ店あるだけでいいですね」
女性客の一人が鏡越しに言った。
「そうなん?」
「足がこっち向くもん。ここ来ればいいって分かるから」
「それは大きいな」
「ネイルもやってるんでしょ?」
「やってますよ」
「そっちも今度行こうかな」
「それ、めっちゃ嬉しいっすわ」
博之は素直に喜んだ。
そこで別の客が言った。
「美容院とネイル両方行ったら、なんかサービスとかないの?」
「……それ、ありやな」
「同じところがやってるんでしょ?」
「同じグループみたいなもんです」
「じゃあ、はしご割引とか」
「それ面白いですね」
博之はすぐ、美容店長とネイル店長に話を振った。
「これ、ちょっと考えてみて」
「両方使ってくれたら割引?」
「そう。千円引きまでやるかは分からんけど、五百円とか、ちょっとしたサービスとか」
「それならいけそうですね」
「美容からネイル。ネイルから美容。相互に客流せたらええやん」
値引きすれば、一人当たりの利益は少し減る。
だが、今は両方とも一定数の客がついている。
片方しか使っていなかった客が、もう片方にも来てくれるなら、全体では売上が増える。
「その辺は二人で打ち合わせして」
「オーナー決めないんです?」
「現場で決めた方がええやろ。俺、美容もネイルもできへんから」
「最近ほんま任せるようになりましたね」
「全部俺が決めてたら死ぬって分かったからな」
美容院について、博之の当面の目標は単純だった。
「まず百五十万回収したい」
初期投資として出した金である。
「それ回収できたら、まず御の字や」
「何か月ぐらいで?」
「分からん。半年でも一年でもええ」
一気に儲けようとは思わない。
美容師たちに仕事が渡る。
客が満足する。
店が赤字にならない。
そのうえで少しずつ初期投資を回収する。
「そこから先はじっくりやな」
「了解です」
スナック三店舗の方も、大きな問題はなかった。
一号店と二号店は、JR茨木側の常連客を中心に安定している。
三号店も阪急茨木市側で少しずつ客が固まってきた。
「三号店も、そろそろ一人立ちできるな」
博之自身が毎回前に出なくても、営業できるところまで来ている。
そうなれば、頭に浮かぶのは次だった。
「四号店か……」
阪急茨木市側にもう一軒。
JR二軒。
阪急二軒。
そこまで行けば、茨木の中でかなり綺麗に形ができる。
だが、博之はすぐに物件を探し始めることはしなかった。
「まあ、年末に一回整理しよ」
今年もいろいろ増えた。
三号店。
ネイル。
美容院。
清掃の仕事。
店長たち。
税理士。
住む家まで変わった。
「さすがに一回、何やってるか自分でも整理せな分からんようになってきたな」
「今さらですか?」
「今さらや」
美容院では、今日も二つの椅子に客が座っている。
外は古い。
中も新品ではない。
それでも、美容師たちは楽しそうに働いていた。
「まあ、これでええか」
博之は店の入口から中を見て、少しだけ笑った。
派手ではない。
最新でもない。
だが、人が働いて、客が来て、次の予約が入っている。
まずは一人。
そしてもう一人。
その人が、また来てくれる店にする。
「今年残り二か月、ぼちぼちやろか」
二〇二八年十一月。
新しい美容院は、古い箱の中で静かに動き始めていた。




