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2028年9月。自前の店舗の清掃部設立と美容院探し。客のおじさん達に月10万円分の仕事を回す。

 二〇二八年九月。

「ちょっと新しい仕事、作ろうかなと思ってんねん」

 博之は、一号店のカウンターで常連たちにそんな話をしていた。

「また店?」

「いや、今回は店ちゃう。清掃」

「清掃?」

「そう。今も三か月に一回ぐらい、ちゃんとした清掃は常連のおっちゃんに頼んでるやん」

 スナック三店舗については、定期的に専門的な清掃を入れている。

 床も壁も、普段触らない場所までしっかりやってもらう仕事だ。

 ただ、今回博之が考えているのは、それとは別だった。

「普段の掃除やな」

 掃除機をかける。

 床を拭く。

 トイレを掃除する。

 ゴミをまとめる。

 備品を補充する。

 酒や消耗品の買い出しを少し手伝う。

「黒服の手伝いと清掃の間ぐらい」

「ああ、なるほど」

「壁のヤニ全部落とせとか、厨房分解せえとか、そんなプロみたいなこと求めへん」

 対象はスナック三軒とネイルサロン。

「一箇所二時間ぐらいで、順番に回ってもらったらええかなと思ってる」

 予算は月十万円。

 時給千五百円程度。

 月に六十時間少しの仕事になる。

 一人に全部やらせてもいい。

 ただ、博之としては二人ほどで分けてもらった方がいいと思っていた。

「月五万ずつぐらい?」

「そんな感じ。毎月きっちり五万とは限らんけど、枠として十万用意する」

「なんで二人なん?」

「その方が休めるやろ」

 一人に責任を集中させたくなかった。

 週五日働ける人間を探しているわけでもない。

「俺としてはな、仕事今あんまりないとか、本業しんどくて休んでるとか、そういうおっちゃんに

 やってほしいねん」

「また客に仕事振るんか」

「ええやん」

 博之は笑った。

「二時間だけならできる人おるやろ」

 朝から八時間働くのは無理でも、午後に二時間掃除するならできる。

 週五日は厳しくても、週一、二回なら動ける。

 そういう人に仕事を小さく切って渡す。

「生活の足しにしてもらってもええし、その金でまた飲みに来てもらってもええ」

「結局戻ってくるんかい」

「戻ってこんでもええわ」

 そんなことを話していると、

「俺やろかな」

 と、一人が手を挙げた。

「え?」

「週一ぐらいやったらいけるで」

 すると別の席からも、

「俺もそれぐらいやったらできる」

 と声が上がった。

「お前ら意外と食いつくな」

「二時間ぐらいやろ?」

「そう。トイレ掃除嫌じゃなかったら」

「仕事やったらやるわ」

「サボったら切るで」

「そこはちゃんとする」

 思った以上に反応は良かった。

「ほな、とりあえず2.3人で試してみよか」

 店ごとに曜日を分ける。

 一号店。

 二号店。

 三号店。

 ネイルサロン。

 掃除だけでなく、足りない備品があれば買ってくる。

 重たい物を動かす。

 簡単な片付けもする。

「なんかメンヘラオジサン清掃部やな」

「名前ださ」

「ほっとけ」

 月十万円分。

 大きな雇用ではない。

 それでも雇われるオジサン達にとっては、毎月数万円の仕事になる。

「まあ、一回やってみよ」

 合わなければやめればいい。

 続けられそうなら、そのまま続ければいい。

 店舗が増えれば、仕事も増える。

「四号店できたら、清掃枠も増やせるかもしれんしな」

「オーナー、店増やしてや」

「清掃のために店出すんちゃうわ」

 そんな話で笑った。

 ただ、九月の博之にはもう一つ大きな課題があった。

 美容院である。

 シェアサロンを使って続けてきた美容部門は、月八十五人ほどまで客が増えていた。

 売上は七十六万円前後。

「そろそろシェアでやるの、きつくなってきたな」

 美容担当の女性たちからも同じ声が出ていた。

「場所押さえるのが大変です」

「予約ずらしてもらうこと増えてます」

「店長も言うてたな」

 ならば、そろそろ固定店舗を持つ。

 ただし、新品の美容室をゼロから作る気はない。

「居抜きやな」

 条件はいつもの博之らしかった。

 茨木市内。

 できればJR茨木と阪急茨木市の間。

 駅から多少歩いてもいい。

 築年数も気にしない。

 ただし、美容室として使える設備が残っていること。

「シャンプー台残ってて、椅子二つぐらいあって、水回り生きてたら最高やな」

「そんな都合いいのあります?」

「探したらなんか出るやろ」

 管理人。

 不動産屋。

 常連。

 美容スタッフ。

 知り合い。

 博之は片っ端から声を掛け始めた。

「潰れた美容室とかない?」

「言い方悪いですよ」

「閉店予定でもええわ」

「それもまあまあ悪いです」

「居抜き探してんねんからしゃあないやろ」

 新しい箱を作ってから客を集めるのではない。

 客はもういる。

 美容師もいる。

 店長もいる。

 足りないのは箱だけだった。

「八十五人おるなら、もう一回ちゃんと計算してもええやろ」

 今月から清掃の仕事も二人に分ける。

 美容は固定店舗を探す。

 三号店は引き続き育てる。

 四号店はまだ急がない。

「なんか、ちょっとずつ形になってきたな」

 博之はそう呟いた。

 スナックから始めたはずなのに、今では清掃の仕事まで生まれ、美容院の物件まで探している。

「俺、何屋なんやろな」

 常連が笑った。

「仕事作る屋ちゃう?」

「それが一番近いかもしれんな」

 九月。

 博之は二人のおっちゃんに掃除の仕事を渡しながら、次の小さな箱を探し始めた。

 今度は、酒を出す店ではなく。

 髪を切る店だった。

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