2028年6月。ネイルと美容院は予約対応で博之パンクwww店長手当渡すし対応よろしく。
二〇二八年六月。
一号店と二号店については、特に大きな変化はなかった。
売上も客数も安定。
スタッフの入れ替わりは多少あるものの、今では博之が毎日顔を出さなくても普通に営業できる。
「変わらんって、ありがたいことなんやな」
最近の博之は、そんなことを思うようになっていた。
一方、阪急茨木市側の三号店。
こちらは一日店長をやってくれる女性が一人増えた。
その女性にも少しずつ客が付き始め、店の売上も伸びてきている。
「ええやん。三号店もようやく形になってきたな」
問題は別のところにあった。
ネイルサロン。
そしてシェアサロンで続けている美容部門である。
ネイルは月八十五人。
美容は月六十人。
気がつけば、博之が一人で予約の連絡を見て、誰が何日に出るか確認して、
客とスタッフの時間を合わせるには、完全に無理のある人数になっていた。
「無理や」
ある日、博之はネイル担当と美容担当の女性たちを呼んだ。
「俺もう管理できへん」
「急ですね」
「いや、ほんまに。予約のLINE返して、誰空いてるか聞いて、店のシフト見て、
三号店も行って……これやってたら他のこと何もできん」
そこで博之が用意したのが、月三万円の店長手当だった。
「ネイル一人、美容一人。月三万ずつ追加するから、取りまとめお願いできへん?」
「え、店長にしてくれるんですか?」
「する」
「ほんまに?」
「だって二人ずつおるやろ。どっちか一人がまとめ役おらんと、俺が全部間に入ることになるやん」
ネイル担当の一人が少し嬉しそうに笑った。
「店長手当三万円?」
「三万円。今の給料に上乗せ」
「結構大きいですよ」
「その代わり、予約とシフトと、材料足らんとか、その辺まとめて」
「分かりました」
美容側にも同じ条件を出した。
「美容はまだ店ないから、店長っていうのも変やけどな」
「シェアサロン店長?」
「それでええやん」
「ださ」
「三万円つくぞ」
「店長でお願いします」
「現金やなあ」
こうして、ネイル店長と美容部門店長が一人ずつ生まれた。
月六万円の追加人件費。
しかし博之としては、それで自分の時間が買えるなら安いと思っていた。
「あと、予約システム必要やったら調べてみて」
「入れるんですか?」
「分からん。クラウドで月何千円とか何万円とか、初期設定込みで何十万とか、色々あるやろ」
まずは今の八十五人と六十人を、人力で回せるところまで回してみる。
無理ならシステムを入れる。
「俺が決めるより、実際使う君らが見た方がええやろ」
「そこまで任せるんですね」
「もう任せんと無理やねん」
ネイルについては、まだ伸びしろもある。
「なんか見た感じ、一人でネイル専業やるなら月百人ぐらいやる人もおるらしいやん」
「まあ、働き方次第ですね」
「うちは二席あるから、単純に言えば二百人ぐらいが箱の上限なんかなと思ってる」
「でも私らネイルだけ週五でやるわけじゃないですからね」
「そう。そこなんよ」
博之は、ネイルサロンを繁盛店にして、二人のネイリストに毎日施術させたいわけではない。
スナックでも働く。
ネイルもする。
人によっては別の仕事もする。
「新しく女の子雇って、その子もネイルできるんやったら三人、四人で八十五人とか
百人を分けたらええねん」
「一人当たり二十人、三十人とか?」
「そうそう。それでちょっと収入増えたらええやん」
だから、仮にネイル客が二百人になったとしても、すぐ二号ネイル店を出すとは限らない。
「茨木でネイルばっかりバンバカ出してもしゃあないからな」
「そこはオーナー意外と冷静ですよね」
「俺、ネイル王になりたいわけちゃうから」
一方、美容は六十人まで増えていたものの、固定店舗化はまだ考えていない。
「美容院は設備が重いからなあ」
「シャンプー台とか要りますからね」
「もうしばらくシェアでええと思う」
まずは客数を増やす。
そして美容担当者の稼働日を増やす。
箱を持つのは、その後だ。
「でもほんま、オーナーが人集めてくれるから助かってますよ」
「そうなん?」
「ネイルもGoogleレビュー結構増えてますし。ホットペッパー使ってないのに
八十五人来てるんですよ」
「俺もようやってる?」
「そこはめっちゃ感謝してます」
博之は少し考えた。
「じゃあ、感謝してるんやったら、もうちょっと俺に好意持ってくれてもええんちゃう?」
「それ言い出したらオーナー終わりですよ」
「なんでや」
「ビジネス終わります」
「そんな即答せんでも」
「女の子に仕事振った見返りに好意求め始めたら終わりです」
「……はい」
「北新地とか梅田で遊んできてください」
「最近全然行けてへんねん」
「行きつけのコンカフェあったんでしょ?」
「あったなあ」
「そっちでちやほやされてきてください」
「じゃあ久しぶりに行こかな……」
博之は少しだけしょんぼりした。
六月。
三号店は少しずつ育っている。
ネイルは八十五人。
美容は六十人。
そして、博之の下に二人の店長が増えた。
人を増やせば、仕事が増える。
仕事が増えれば、管理も増える。
なら、その管理もまた誰かの仕事にすればいい。
「俺が全部やる必要ないんやな」
ようやく博之は、そのことを覚え始めていた。
自分がやるのは、客を集めること。
人を見つけること。
次の仕事を作ること。
そして、たまには梅田に遊びに行くこと。
「それも仕事やな」
「違います」
ネイル店長に即座に否定された。




