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2028年3月。メンヘラオジサン。ネイルサロンを作る。収支はオジサンの取り分0ならトントンだが集客課題ありありwww

 二〇二八年三月。

「終わった……」

 博之は、一号店のカウンターに突っ伏していた。

 確定申告である。

 二月から領収書と売上記録に追い回され、常連の一人にも手伝ってもらいながら、

 なんとか期限までに青色申告を終えることができた。

「もう来年これ一人では無理やな」

 博之は、手伝ってくれた常連のおじさんに十五万円を渡した。

「はい、これ」

「え、こんなに?」

「結構やってもろたから。ちょっとした臨時ボーナスやと思ってください」

「いやいや、時給計算より多いですよ」

「ええねん。ここで飲んでもらってもええし、普通に生活の足しにしてもらってもええし」

「ありがとうございます」

「またお願いすると思うんで」

「全然やりますよ」

「ぶっちゃけ、あると思うんすよ」

 今年はまだ個人事業。

 だが、このまま店が増えれば、いずれ法人化も考えることになる。

「税理士先生に最後は投げると思うんですけど、全部丸投げって多分無理やと思うんですよね。

 こっちで帳簿ある程度作って、先生に確認してもらう形にしたいんで」

「間に入る感じ?」

「そうです。会社にバレへん程度か、副業申請でいけるレベルか分からんですけど、

 また頼みたいっすわ」

「了解っす」

 こうして、清掃、締め作業に続いて、経理にも一つ小さな仕事ができた。

 そして三月。

 もう一つの新しい仕事場も動き出した。

 ネイルサロンである。

 駅から近い。

 ただし古い。

 二階。

 間取りも妙にいびつ。

 家賃七万円。

 決して誰もが欲しがる物件ではなかったが、二人同時に施術できるだけの場所は作った。

「まあ、箱があるだけで全然違いますね」

 女性スタッフの一人が言った。

「シェアサロンの時より友達に言いやすいです」

「『ここでやってます』って言えるもんな」

 三月の来客は四十人ほどだった。

 シェアサロン時代から、だいたい月五人ずつ増えてきている。

「四十人来たら結構ええんちゃう?」

「数字だけ聞いたらね」

 だが帳簿を見ると、そう簡単ではなかった。

 売上。

 女の子二人の給料。

 材料費。

 家賃七万円。

 光熱費や消耗品などの雑費。

 少しだけ雑務を手伝ってくれる人への支払い。

 そして博之の取り分十万円。

 全部引くと、約七万円の赤字だった。

「七万赤やな」

「でもオーナーの十万円抜いたら、ほぼトントンじゃないですか?」

「なんで俺の給料抜くねん」

「いや、そうですけど」

「それやったら俺が箱用意した意味ないやろ」

 初期費用も四十万円ほど出している。

「俺の十万ゼロ、初期費用も回収できません、やったら慈善事業やん」

「確かに」

「仕事は渡したいけど、俺も飯食うからな」

 博之は電卓を置いた。

「ということで、七万円をどう消すかや」

 女性二人も椅子に座った。

「今までは土日中心でしたよね」

「そうやな」

「箱できたんやったら、平日の夜とかも予約受けられますよ」

「ああ、それはありやな」

 シェアサロン時代は営業日をまとめる必要があった。

 だが今は、いつでも使える場所がある。

「じゃあ平日でも予約入ったら開けるようにしよか」

「できます」

「あとGoogleレビューな」

「それは欲しいです」

 来てくれた客に無理強いはしない。

 ただ、満足してくれた人には、

「よかったら口コミお願いします」

 と一言声を掛ける。

「ホットペッパービューティーとかは?」

「俺も分からん」

「オーナー美容業界ほんま分からないですよね」

「せやから君らがおんねん」

 掲載料を払って新規客を買う方法もある。

 ただ、今すぐそこに金を使うより、まずはGoogleとSNS。

「若干赤やから、初回ちょっと安くするとかもありやろ」

「それは私たちで考えていいです?」

「考えて」

「いいんですか?」

「ここ、メンヘラオジサンネイル部やから」

「何その部活」

「俺、ネイルできへんもん。施術のことはそっちで決めてくれ」

 博之が欲しいのは、ネイル業界で天下を取ることではない。

 赤字を出さず。

 少し利益を残し。

 そこにいる女性たちへ仕事が回ればいい。

「阪急茨木市の三号店でも今、女の子探してるからな。もしネイル経験ある子おったら、

 こっちにも入ってもらえるか考えるわ」

「また人集めてくれるんですか?」

「おったらな」

「それ、めっちゃ楽ですよ」

「何が?」

「オーナーが客も人も集めてくれるから」

「なんか俺だけ働いてへん?」

「ネイルやる側からしたら一番大変なの集客ですもん」

 女性は笑った。

「独立って、技術より客集める方がしんどいんですよ」

「まあ、それは分かる」

 博之自身、YouTubeや小説を何年も積み上げてきた。

 人を集める難しさは知っている。

「俺もSNSで、この店できましたって喋っとくわ」

「お願いします」

「でも君らもやってよ」

「はいはい」

「友達とか昔のお客さんとかにも声掛けて。俺だけで全部四十人、五十人連れてくるの無理やからな」

「分かりました」

「三人で七万円消そう」

「なんか目標が地味ですね」

「地味でええねん」

 月四十人。

 まだ赤字。

 だが、店そのものが成立していないわけではない。

 あと少し客が増えればいい。

 平日の予約を取る。

 口コミを増やす。

 スタッフ自身もSNSを使う。

 新しいネイル経験者が入れば、また違う客層が付くかもしれない。

「まあ、一個ずつやな」

 そう言いながら、博之は店内を見回した。

 古い二階の、小さなネイルサロン。

 まだ儲かってはいない。

 だが、女性二人がここで仕事をしている。

「とりあえず、四十人から五十人目指そか」

「はい」

「五十いったらまた計算しよう」

 メンヘラおじさんのネイル部。

 初月は七万円の赤字。

 それでも、撤退するにはまだ早かった。

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