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2028年2月。スナック。ネイルサロン2つの箱が決まる。ネイルサロンは3月。茨木市駅スナックは4月開店予定

 二〇二八年二月。

「もう嫌や、確定申告」

 博之は一号店のカウンターに、領収書の束を積み上げていた。

 去年は店が二軒。

 ランチにスナック。

 ネイルと美容師のシェア営業。

 YouTubeに小説。

 そこへ人件費や清掃費、共済まで加わっている。

「これ一人でやる量ちゃうやろ」

 結局、以前から声を掛けていた常連の中から、経理関係の仕事をしたことがある一人に

 頼むことにした。

「時給二千円出すから、できるところだけやってくれへん?」

「二千円ならやりますよ」

「ほんま?」

「ただし税金の判断とかは無理ですよ」

「そんなん求めてへん。入力と整理だけでええ」

 人海戦術というほど人数を増やすこともできない。

 一人に絞って、売上や領収書を整理してもらう。

 博之自身も横で確認するが、店にも顔を出さなければならない。

「これ何費です?」

「知らん」

「知らんじゃ困るんですけど」

「二か月前の俺に聞いてくれ」

「ちゃんと記録してください」

「はい……」

 社長というより、怒られる側だった。

 そんな確定申告との格闘の一方で、物件探しには動きがあった。

 まず見つかったのは、ネイル用の小さな物件だった。

 駅からは近い。

 だが、

 築年数は古い。

 間取りは妙にいびつ。

 そして二階。

「三拍子揃ってんな」

 家賃は月七万円。

 博之は、今シェアサロンで施術している女性たちと一緒に内覧へ行った。

「どう?」

「うーん……」

 女の子も室内をぐるぐる歩く。

「形は変ですね」

「せやろ」

「古いですね」

「せやろ」

「二階ですね」

「全部悪口やん」

 しかし、窓から外を見た女の子が言った。

「でも駅から近いんですよね」

「そこなんよな」

 今ではネイルの客も月三十人ほどまで増えていた。

 まだシェアサロンでも十分回せる。

 ただ、毎回場所を予約して、道具を持ち込み、終われば片付ける。

 それを続ける手間も出てきていた。

「固定の場所あった方が、私たちも人に言いやすいですよ」

「そうなん?」

「今は『この日にこのシェアサロンで』って言わないといけないじゃないですか。

 でも店があれば、『ここでやってます』って言えるから」

「なるほどな」

「オーナーが今ほとんど集客してくれてますけど、私たちも友達とか昔のお客さんに声掛けやすいです」

 博之はもう一度室内を見回した。

「じゃあ、一回やるか」

「え?」

「契約して、あかんかったらやめよう」

 最初から絶対成功すると考える必要はない。

「半年とか一年やってあかんかったら撤退。シェアに戻ったらええだけや」

「それぐらいならやりたいです」

 初期費用。

 机や椅子。

 照明。

 収納。

 施術に必要な機材や備品。

 最低限きれいにする費用。

「結局四十万ぐらいはいくかなあ」

「そのぐらいはかかりそうですね」

「最悪あかんかったら、ここ倉庫にするか」

「やめてください」

「スナックの酒とか置けるで」

「倉庫にさせないように私たち頑張りますから」

「頼もしいな」

 そんな話をしながら、ネイルの箱は決まった。

 三月から試験的に始める。

 平日の予約だけでなく、土日もシフトを組み、スナック勤務と合わせながら

 少しずつ仕事を分けていく。

「ただな」

「はい」

「売上と経費だけは絶対残してくれよ」

「オーナーが一番苦手なやつですね」

「今まさに苦しんでるからな」

 帳簿を手伝ってくれている常連からも、

「ネイル始めるなら、売上と使った金は最初からちゃんとまとめときなよ」

 と言われた。

「レシートは袋に突っ込むだけとかやめてください」

「分かりました……」

 そして、もう一つ。

 阪急茨木市側の三号店候補も見つかった。

 駅から徒歩十分ほど。

 築年数は古い。

 席数は六席。

 条件を満たせば喫煙可能な形で使える。

 家賃六万円。

 博之は資料を見て笑った。

「見事なまでに俺が探してたやつやな」

 不動産屋は逆に苦笑していた。

「でも、ここ結構厳しいですよ。駅前ってわけでもないですし」

「徒歩十分やろ?」

「そうですけど、今まで誰も決めてなくて」

「六席?」

「六席です」

「家賃六万?」

「六万です」

「ちょうどええやん」

「集客大丈夫ですか?」

「そこは俺がやるから」

 不動産屋は少し考えてから言った。

「正直、貸主さんも空けとくよりはって感じなんで、五万円まで交渉できるかもしれませんよ」

「ほな五万なら決めます」

「早いですね」

「俺、綺麗な駅前店舗探してへんから」

 六席。

 古い。

 家賃五万円。

 博之にとっては、むしろ理想に近かった。

「内装もそんな触らんでええし。汚いところだけちゃんと掃除して、壊れてるところ直したら十分や」

 こうして二月のうちに、二つの箱がほぼ決まった。

 ネイルサロンは三月。

 阪急茨木市側の三号店は、営業に必要な手続きや準備を進めながら、四月開業を目標にする。

 当然、人も必要になる。

「また女の子探さなあかんな」

 その中にネイル経験者がいれば、なおいい。

 スナックで働いてもらいながら、ネイルの仕事も渡せる。

 別にネイル一本で食べてもらわなくていい。

 週一日スナック。

 月に何件かネイル。

 空いた日に別の仕事。

 そんな形でいい。

「また変なん増えましたね」

 常連が笑う。

「二月だけで店二つ決めたからな」

「社長っぽい」

「俺まだ確定申告で泣いてる個人事業主やぞ」

 カウンターの端には、まだ整理されていない領収書の束が残っていた。

 その横には、ネイルサロンの契約書。

 さらにその横には、三号店の物件資料。

「……やること増えすぎちゃう?」

「自分で増やしてますやん」

「それはそう」

 博之は笑った。

 まず三月、ネイルの小箱。

 そして四月、阪急茨木市の三号店。

「まあ、一個ずつやな」

 そう言いながら、博之はまた領収書の束に手を伸ばした。

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