2028年1月。スナック3軒目の箱とネイルサロンの箱を茨木周辺、阪急茨木で探す。
二〇二八年一月。
「そろそろ三軒目やな」
年が明けてしばらく経った頃、博之はそんなことを考えていた。
一号店と二号店は、大きく崩れることもなく回っている。
もちろん女の子が一人辞めたり、シフトの穴が開いたりということはある。
それでも、店そのものが止まるほどではない。
ならば次は、以前から考えていた阪急茨木市側だった。
「まずスナック一軒。あと、ネイルの小さい箱やな」
ネイルについては、別に立派な店舗を作るつもりはなかった。
四坪程度でもいい。
施術スペースが取れて、トイレがあって、最低限きれいにできればいい。
今もシェアサロンを使って、ネイルと美容の仕事を女性たちに回している。
ただ、ネイルの客が月四十人前後まで増えてくるなら、そろそろ固定の箱を持ってもいい。
とはいえ、博之としては順番があった。
「先にスナックやな」
阪急茨木市側に三号店を作る。
そこでまた何人か女性を採用する。
その中に、
「昔ネイルやってました」
「資格はないけど、店で働いてました」
「美容師やってました」
という女性がいれば、その人たちにも仕事を回す。
そして、博之のSNSや店の客、女性スタッフたちの知り合いから予約を集める。
人と客が揃ってから、箱を持つ。
「店作ってからネイリスト募集するんちゃうねん。人がおって、客がおって、その後に箱や」
博之は、今の二店舗を管理している管理人にも話をしに行った。
「またなんかやるん?」
「阪急茨木市の方に一軒出そうかなと思ってまして」
「まだ増やすんかい」
「今の二軒がまあまあ回ってるんで」
「で、次もスナック?」
「まずは。あとネイル」
「は?」
管理人が怪訝な顔をした。
「今、シェアサロン借りて、ネイルとか美容師できる女の子に仕事回してるんですよ」
「また変なことしてんなあ」
「変ですか?」
「スナックの次がネイルって、普通つながらんやろ」
「でも人はつながってるんですよ」
博之は説明した。
スナックで働いている女性の中には、美容関係の仕事をしたことがある人がいる。
腕がなくなったわけではない。
ただ、店を自分で出す金がなかったり、自分で客を集められなかったりして、
その仕事から離れている。
「女の子ら、技術はあるんですよ。でも客集めるの苦手なんですよね」
「それをお前が集めると」
「そうです。俺のYouTubeとか、店のお客さんとか、知り合いとかで」
「奇っ怪な商売の仕方やな」
「でも漏れ少ないでしょ」
先に店を作って、客が来るのを祈るわけではない。
先に客をある程度集める。
仕事をしたい女性も確認する。
それから家賃五万円、六万円程度の小箱を借りる。
「広告費もそんなかからんと思うんですよ。俺が客連れてくるんで」
「そこがお前の強いところなんやろな」
「メンヘラオジサンの強みです」
「自分で言うな」
管理人は笑った。
「まあ、女の子らも頼りにしてんちゃうか?」
「頼りにするぐらいやったら、誰か恋人になってほしいですけどね」
「それ言うたら終わりや」
「なんでですか」
「仕事とそれ混ぜたらあかん。この業界で一番言うたらあかんやつや」
「……はい」
「ちゃんと外で遊んできなさい」
「はい……」
博之は少しシュンとなった。
「まあ物件は見といたるわ」
「ありがとうございます」
「一月やろ? むしろ今ぐらいの方がおもろいの出るかもしれんで」
「そうなんです?」
「三月末とか四月は人も動くけど、借りる人も多いやろ。今残ってるやつは、
ずっと決まってへん物件もある」
「ああ」
「スナックなんか開いては閉め、ネイルも開いては閉めや。美容室なんかもっと初期投資かかるからな」
「美容室は後です。あれは設備が重いんで」
「ネイルなら箱あったら何とかなるやろ」
「そうなんですよ」
椅子や机、照明、道具など、もちろん金はかかる。
それでも美容室のようにシャンプー台や大掛かりな給排水設備まで必要になるわけではない。
「だからまずネイル。美容はもっと人数増えてからシェアの日数増やします」
「それがええやろな」
その日から、博之は不動産屋を何軒か回り始めた。
条件は明確だった。
阪急茨木市駅から歩ける範囲。
六席から十席程度の小さなスナックができること。
できれば前も飲食店かスナックだった居抜き。
そして、条件を満たすなら喫煙可能な店として使える物件。
「家賃、やっぱ高いなあ」
JR茨木側とは少し感覚が違った。
駅に近づけば近づくほど、当然ながら金額は上がっていく。
六万円で見つかれば安い。
八万円、九万円。
場所によっては十万円を超える。
「十万払うなら、もうちょい席ほしいなあ」
博之は物件資料をめくりながら唸った。
だが、焦るつもりはなかった。
管理人からも、
「何個か空いてるところあるから見とくわ」
と言われている。
不動産屋にも条件を伝えた。
「六席ぐらいでもいいです。でかい店はいらないんで」
「小さい方がいいんですか?」
「人いっぱい入ったら俺が疲れるんで」
不動産屋が少し困った顔をした。
「普通、逆じゃないですか?」
「うちは普通じゃないんです」
三号店。
その先に、小さなネイルの箱。
さらに人が増えれば、また別の仕事。
博之の頭の中では、少しずつ形ができてきていた。
大きな店はいらない。
六席でもいい。
四坪でもいい。
人が働けて、客が少し集まって、赤字にならなければいい。
「まあ、ええの出るまで探そか」
阪急茨木市の物件資料を鞄に入れ、博之はまた次の不動産屋へ向かった。
今年最初の仕事は、どうやら新しい箱探しになりそうだった。




