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2028年1月。店の女の子がやめたが3号店に向けて大目に雇っていたので穴はなし。確定申告手伝う人と税理士入れるかどうか

 二〇二八年一月。

「あけましておめでとうございます」

 年が明けても、一号店も二号店も大きくは変わらなかった。

 年末にもらった千円入りのポチ袋を、

「ちゃんとビールになりました」

「私はコンビニスイーツに消えました」

 などと報告してくる女性スタッフたちもいて、博之としては、

「好きに使え言うたやろ」

 と笑っていた。

 ただし、年明け早々、一人の女性スタッフが辞めることになった。

「すいません。ちょっと本業の方が忙しくなって」

「ええよ、ええよ」

 以前なら一人抜けただけでも慌てたかもしれない。

 だが、阪急茨木市側への三号店を見据えて、少しずつ採用人数を増やしていたこともあり、

 今回は何とかなる範囲だった。

「無理して残ってもらってもしんどいやろ。また暇になったら飲みに来て」

「ありがとうございます」

 そんな感じで送り出した。

 人は入る。

 人は辞める。

 店を続けていれば、それは仕方がない。

「一人辞めても店止まらんかったら、まあ、ちょっとは成長したんちゃうか」

 そんなことを言いながら、一月の営業も淡々と始まった。

 ただ、博之には別の宿題があった。

「帳簿やなあ」

 年が変われば、確定申告が近づいてくる。

 去年は二店舗。

 スナック。

 昼営業。

 ネイル。

 美容師のシェア営業。

 YouTube。

 小説。

 人件費。

 清掃費。

 共済。

 領収書の束を見ているだけで、眠たくなってくる。

「これ、全部俺がやるん?」

 青色申告そのものは、今年も自分でやるつもりだった。

 だが、日々の入力まで全部抱えるのはそろそろ限界だった。

 ある夜、一号店で常連客にそんな話をした。

「誰かおらんかな。簿記できる人」

「経理?」

「そう。税金判断してくれとかちゃうで。売上とレシートを会計ソフトに入れて、

 店別に分けてくれる人」

「月なんぼ?」

「二万か三万ぐらいかなあ」

 週に何日も働く必要はない。

 領収書を整理して、銀行明細と突き合わせて、決めた科目に入力する。

 分からないものだけ博之に戻す。

「簿記二級持ってて、昔経理してましたとか、税理士事務所で入力作業してましたとか、

 そういうおっちゃんおらんかなと思って」

「また常連から仕事作ろうとしてるやん」

「別にええやろ」

 博之は焼酎を飲みながら笑った。

「で、税理士は?」

「今年はまだ頼まんつもり」

「全部自分で?」

「申告はな。一応、俺もその辺の資格持ってるし、青色申告ぐらいは頑張る」

 だが、会社を作る段階になれば話は別だった。

「阪急側に店二つできて、ネイルの箱まで持ったら、さすがに税理士さん頼むかな。年間五十万とか」

「記帳まで全部投げたら?」

「七十万ぐらい?」

「そのぐらい見といた方が楽ちゃう?」

 博之は少し考えた。

「でもなあ」

「何?」

「それやったら、五十万で税理士さんにチェックと決算頼んで、残り二十万ぐらいを、

 うちの常連で帳簿できる人に払った方がよくない?」

 すると横で飲んでいた別の常連が笑った。

「それでええんちゃう?」

「やっぱり?」

「税理士先生に領収書一枚ずつ入力してもらう必要ないやろ。入力できる人に仕事切って渡して、

 最後だけ先生に見てもらう」

「なるほどなあ」

「お前いつも言うてるやん。仕事を細かく切れって」

「ああ」

 清掃。

 閉店作業。

 ネイル。

 美容。

 できる人に、できる範囲だけ渡す。

 経理も同じだった。

「税理士さんに全部七十万払うより、税理士さん五十万。帳簿のおっちゃん二十万。

 その方がお前のやり方やん」

「確かにな」

 博之は妙に納得した。

「で、こっちで入力した数字を先生に見てもらって、『これ違いますよ』『ここ直してください』って

 やってもらうと」

「そうそう」

「それやったら、帳簿のおっちゃんも仕事になるな」

「めちゃめちゃ社長みたいなこと考えてますやん」

 別の客が笑った。

「ほんまやで。業務分解して、外注先決めて、専門家との役割分担までして」

「いやいや」

 博之は手を振った。

「俺、ただの窓際サラリーマンやったで」

「もう辞めて一年経ってますやん」

「会社では何も任せてもらえへんかったからな」

「今めっちゃ人に仕事任せてるやん」

「人生わからんな」

 店の中で笑いが起きた。

 会社員時代。

 自分には人を動かす仕事など向いていないと思っていた。

 役職もなかった。

 部下もいなかった。

 評価されている感覚もほとんどなかった。

 それが今では、女性スタッフのシフトを考え、清掃仕事を常連に渡し、美容師とネイルの

 仕事を分け、今度は経理まで切り分けようとしている。

「社長いうてもな」

 博之はグラスを置いた。

「俺が全部できんから、人に頼んでるだけやで」

「それが社長ちゃうん?」

「知らん」

 また笑われた。

 結局その日は、

「簿記できる人おったら紹介して」

 と常連たちに頼んで終わった。

 税理士はまだ先。

 まずは帳簿を触れる人を一人。

 月二万か三万円。

 年間なら二十万から三十万円。

 大きな仕事ではない。

 だが、その人にとっては、毎月少しだけ入ってくる仕事になる。

「まあ、それでええか」

 一月。

 一人辞めた。

 それでも店は止まらなかった。

 そして、また一つ新しい仕事が生まれようとしていた。

 博之自身は、相変わらず自分を社長だとは思っていなかった。

 ただ、気づけばやっていることだけは、少しずつ社長らしくなっていた。

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