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2027年12月末。年末の挨拶と来年の野望。阪急茨木市への出店とネイルサロンについて

 二〇二七年十二月末。

 一号店も二号店も、今年最後の営業日が近づいていた。

 博之は、店に来てくれた女性スタッフや一日店長の女性たちに、小さなポチ袋を渡していた。

「はい、これ」

「なんですか?」

「千円」

「いや、見たら分かりますけど」

「今年もありがとうございました、ということで」

 中に入っているのは千円札一枚だけだった。

 ボーナスと呼ぶほどのものではない。

「お年玉というか、年末ビールでも一本買って、ゆっくり飲んでください」

「千円なん?」

「人数おんねんぞ。全員に一万円配ってたら俺が年越されへんわ」

 そう言うと笑われた。

 それでも博之としては、本当に感謝していた。

「いや、でもほんま、ありがたいっすわ。俺一人やったら絶対この店回ってないから」

 一号店も二号店も、今では女性スタッフがいなければ成立しない。

 一日店長の日もある。

 平日の夜を任せる日もある。

 昼営業を手伝ってくれる子もいる。

 いつの間にか、博之一人の店ではなくなっていた。

 全員が同じ日に集まることはない。

 それでも年末、何人かが一号店に集まった夜、博之は来年の話を少しだけした。

「来年な。別にいきなりでっかくする気はないんやけど」

「また店出すんですか?」

「出せたらな。阪急茨木市の方に」

 今ある二店舗はJR茨木側。

 次は阪急茨木市側に一店舗。

 できれば、その後もう一店舗。

「二軒ずつ?」

「その方が楽なんよ。人も回せるし、酒とか備品も回せるし。なんかあったら近い店から

 助けに行けるし」

 その先には、高槻も考えていた。

 JR高槻と阪急高槻市。

 さらに長岡天神。

 桂や洛西口、桂川。

 逆方向なら吹田や新大阪。

「まあ、JR京都線と阪急京都線沿いを、ちょこちょこやれたらおもろいかなと思ってる」

「チェーン店やん」

「そんな大層なもんちゃう。六席とか十席のスナックをちょこちょこ置くだけや」

 博之は笑った。

 ただ、スナックだけを増やしたいわけでもなかった。

「それより先に、ネイルの方かな」

 今はシェアサロンを借りて、ネイルが月二十人。

 美容も月二十人程度。

 まだ固定店舗を持つほどではない。

「ネイルが月四十人ぐらいまで来たら、小さい箱借りてもええかなと思ってる」

「ネイルサロン作るんですか?」

「作るいうても、家賃五万とか六万ぐらいのちっちゃいやつやで」

 そこで博之は、少しだけ真面目な顔になった。

「ただ、俺はネイル屋やりたいわけちゃうねん」

「知ってます」

「なんやねん」

「オーナー、ネイルのこと全然分かってないじゃないですか」

「せやからや」

 笑いが起きる。

「俺がやりたいんは、ここで働いてくれてる子に仕事増やしたいだけや。昔ネイルやってたとか、

 美容師やってたとか、そういう子がおるんやったら、スナックだけじゃなくてそっちの

 仕事も渡せたらええなと思ってる」

 阪急茨木市側の店を出す時も、何人か新しく女性を探すことになる。

 その中にネイル経験者が二人、三人いればちょうどいい。

「最初のお客さんは俺のSNSとか、この店のお客さんとか、みんなの知り合いとかで集める。で、それをみんなで分け分けしたらええ」

「でもプロのネイリストさん入ってきたらどうするんです?」

「そこは最初だけ、今ここで働いてくれてる子を優先したい」

 博之ははっきり言った。

「ネイルサロン作るために人を集めたいんちゃうからな。先に人がおって、

 その人らに仕事作るために箱作るんやから」

「最初ってめっちゃ大事ですからね」

 一人の女性が言った。

「最初にお客さん付かないと、そのまま辞めちゃう子多いですし」

「せやろ。だから最初はこっちから渡したい」

 もちろん、ずっと特別扱いするわけではない。

「でも、プロパーで入ってくれた子に指名ついたら、それはその子に渡すで。

 『この人にやってほしい』って客が言うてるのに、そこ曲げるのはおかしいから」

「そこは公平なんですね」

「そこまで俺の独裁にしたらあかんやろ」

「でも最初だけ仕事くれるの、めっちゃありがたいですよ」

 そう言われて、博之は少し照れた。

「まあな。その代わりネイル増えたら、こっちの出勤減るかもしれんやろ?」

「ああ」

「そしたらまた女の子探さなあかんな」

 仕事を一つ作る。

 すると別の場所に穴が開く。

 その穴を埋めるために、また別の人を雇う。

「なんか、ずっと人探してそうですね」

「ほんまそれ」

 博之は焼酎を飲みながら笑った。

「でもまあ、主体はここの二軒や」

 一号店と二号店。

 この二店舗が安定して回ることが、すべての土台だった。

「ここ崩してまで次やる気はない」

「経営基盤ですね」

「なんかその言い方、偉そうやな」

「社長っぽい」

「まだ個人事業主や」

 博之は笑った。

「俺が飯食えたら、それでええねんけどな」

 それでも今では、この店で給与をもらう人がいる。

 ここへ飲みに来ることを楽しみにしている人もいる。

 週一日だけ働く人もいる。

 一日店長を楽しみにしている女性もいる。

「せやから、ここは崩したくないんよ」

 大きな会社を作りたいわけではない。

 一気に十店舗出したいわけでもない。

 今ある店を守りながら、一つずつ仕事を増やす。

 ネイルが四十人になれば、小さな箱を一つ。

 阪急茨木市で人が集まれば、三号店を一つ。

 それが安定したら、もう一つ。

「まあ、ちっちゃくコツコツやな」

「オーナーらしいですね」

「無理したら絶対しんどくなるからな」

 そして店を閉める時間になった。

 女性たちはコートを着て、小さな千円入りのポチ袋を鞄に入れた。

「じゃあ、今年もありがとうございました」

「こちらこそ」

「来年もよろしくお願いします」

「無理せん程度にな」

 博之は店の入口まで見送った。

「ほな、良いお年を」

「良いお年をー」

 扉が閉まる。

 静かになった六席の店を見ながら、博之は一人でつぶやいた。

「来年も、まあ、ぼちぼちやな」

 大きくなくていい。

 潰れなければいい。

 そこに来る人が少し楽しくて、働く人に少し仕事が増える。

 その積み重ねで十分だった。

 二〇二七年は、そんな小さな店の灯りとともに、静かに終わろうとしていた。

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