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2027年11月。スナック2軒はこの辺が完成形。博之の報酬月10万をアップする。清掃12万常連さんに依頼。ネイルと美容院も客ボチボチあつまる

 二〇二七年十一月。

 一号店については、相変わらず大きな問題もなく回っていた。

 女性スタッフが店に立ち、一日店長が月に何度か入り、昼には予約があればランチを出す。

 博之が毎日顔を出さなくても、店そのものが動く。

「一号店は、もうこれでええな」

 売上をさらに伸ばす方法がないわけではない。

 高い酒を置く。

 料金を上げる。

 営業時間を延ばす。

 けれど、そこまでやるつもりはなかった。

 二号店についても、ようやく似たようなところまで来つつあった。

 二店舗を合わせた売上は、だいたい月百八十万円ほど。

 博之は帳簿を見ながら、

「この辺が、今の形では限界かな」

 と考えていた。

 悪い意味ではない。

 十席程度の小さな店と六席程度の店を、無理のない営業時間で回している。

 女性スタッフにも給料を払い、一日店長にも報酬を払い、裏方を手伝う常連にも金を払っている。

 そのうえで利益が残っている。

「なら、あとはこれを丁寧に続けることやな」

 そこで十一月から、博之自身の給与を見直すことにした。

 これまでは月十万円。

 会社を辞めた直後は、店がどこまで続くか分からなかったため、自分の取り分をかなり抑えていた。

 だが、二店舗がここまで回るようになった。

「さすがに、もう二十万ぐらい取ってもええやろ」

 自分の給与を十万円から二十万円へ上げた。

 当然、その分だけ店に残る利益は減る。

 それでも十分な利益は残った。

「俺も経営して、人集めて、客集めて、なんやかんややってるからな。これぐらいはもろても

 罰当たらんやろ」

 常連に話すと、

「今まで十万しか取ってへんかったん?」

 と逆に驚かれた。

「いや、最初怖いやん」

「急に店なくなるかもしれんし?」

「そうそう」

 そして、利益が出ているからこそ、博之は再び店の清掃を入れることにした。

 三か月ほど前にも、清掃関係の仕事をしている常連へ、二店舗まとめて十二万円の仕事を渡した。

「またお願いしてええ?」

「ほんまに?」

「三か月経ったし、ちゃんと一回きれいにしたい」

 今回も十二万円。

 男は嬉しそうだった。

「俺、この店飲みに来てるだけやったのに、今年二十四万も仕事もろてるで」

「ええやん。ノリノリなうちに稼いどけ」

「何やそれ」

 博之は笑った。

「備品買ったら金は物に変わるけど、清掃頼んだら店もきれいになって、

 おっちゃんにも仕事渡せるやろ」

 博之の中では、清掃という仕事が少しずつ気になる存在になっていた。

 今は外注という形で、常連の経験者へ頼んでいる。

 しかし、店が増えれば清掃回数も増える。

「これ、いつか内製化してもええかもしれんな」

「内製化?」

「うちで清掃する人雇うってこと」

 二店舗で、一回十二万円。

 三か月に一回程度なら、年間で何度か仕事が生まれる。

 そして博之には、阪急茨木市駅側にも二店舗ほど作ってみたいという構想がある。

「四店舗になったらさ、同じペースで掃除するだけでも結構仕事になるやろ」

 単純に店が倍になれば、清掃対象も倍になる。

 そこへ将来ネイルサロンや美容関係の小箱まで加われば、さらに仕事が増える。

「おそうじ本舗みたいなフランチャイズ入ったら、新しい客取りに行かなあかんやん」

「まあな」

「でも俺らの場合、自分の店増やしたら、その分だけ掃除する場所勝手に増えるやろ」

 最初から外の客を取りにいかなくてもいい。

 自分たちの店舗清掃だけで、最低限の仕事量を作る。

 それが安定してから、近所の飲食店や知り合いの店の清掃を受ければいい。

「一人に全部やらせたらしんどいけど、週二、三で二人か三人に分けたらできるかもしれんな」

 まさに、博之がずっと考えてきた働き方だった。

 週五日、八時間働けなくてもいい。

 二時間だけ。

 三時間だけ。

 清掃が必要な日だけ来る。

 それを何人かで分ける。

「氷河期のおっさんらに、そういう仕事渡せたらええんやけどな」

 もちろん、まだ構想にすぎない。

 博之自身、清掃会社を今すぐ作るつもりはなかった。

「まず茨木やな」

 そう言って、自分で話を戻した。

 飯屋を高速回転させるような商売も考えたことはある。

 客をどんどん入れ替え、厨房の動線を最適化して、回転率を上げる。

 利益だけなら、そういう店の方が大きくなる可能性もある。

 けれど博之には、どうにも合わなかった。

「俺ら、そんな忙しい店やったら続かんやろ」

「絶対しんどい」

「やろ?」

 ホットクックでカレーや肉じゃがを作る。

 昼は少人数。

 夜はスナックで、客とだらだら話す。

「このぐらいの緩さで金回す方がええわ」

 その一方で、シェアネイルと美容師の実験はさらに伸びていた。

 九月は十人。

 十月は二十人。

 十一月には、合わせて三十人ほどの予約が入るようになった。

 月の土日は八日ほど。

 一日あたりにすれば、三人から四人程度。

 施術する女性たちにとっては、かなり仕事らしい形になってきた。

「最近忙しいですね」

「客増えたな」

「一日一人だけの時と全然違います」

 博之は、予約数が増えたのに合わせ、女性側への還元も少し増やした。

 まだ完全な歩合制ではない。

 ただ、リピート客や指名が入り始めている女性には、指名分や追加分を少し厚めに返す。

「自分についてきた客なら、その分は君の取り分増やした方がええやろ」

「ありがとうございます」

 逆に、博之自身の利益は、客数が増えたほどには伸びなかった。

 場所代も余裕を持って計上する。

 材料費も少し高めに見る。

 女性の取り分も増やす。

「俺の取り分だけ倍になったら、なんか違うやろ」

 月三十人も来るようになれば、そろそろシェアサロンを借り続けるのが本当に効率的なのか、

 考える段階に入りつつある。

 ただ、まだ焦らない。

「年末まで見よか」

 博之は言った。

「この三十人が続くんか、それとも今だけなんか。それ見てから箱考えたらええ」

 スナック二店舗。

 ネイルと美容師のシェア営業。

 常連への清掃仕事。

 少しずつではあるが、仕事の種類が増えていた。

 博之自身の給与も、ようやく二十万円になった。

 それでも、まだ余裕はある。

「なんか会社っぽくなってきたな」

 常連の一人が言った。

「会社嫌いや言うて辞めたのにな」

「自分で会社みたいなん作ってるやん」

「せやな」

 博之は少し笑った。

「まあでも、俺が嫌いやった会社と同じにせんかったらええんちゃう?」

 二〇二七年十一月。

 売上をさらに追いかけるより、今ある利益をどう人へ回すか。

 その方が、博之には面白くなり始めていた。

 次に増やすのは、店なのか。

 美容の箱なのか。

 それとも、清掃の仕事なのか。

「まあ、まず茨木やな」

 博之はそう言いながら、常連へ渡す清掃代十二万円を、今月の経費として帳簿に書き込んだ。

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