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2027年10月。スナック順調。種まきもぼいぼち。YouTubeが9000人まで伸びでる。珍獣みたいに見られてるwww

 二〇二七年十月。

 朝晩の空気が少し冷たくなり始めた頃。

 博之は相変わらず、YouTubeに動画を上げ続けていた。

 特別な企画を考えるわけではない。

 店であったこと。

 客に言われたこと。

 二号店の売上がどうだったとか、女の子の一日店長が思ったより売れたとか、

 常連のおじさんに清掃の仕事を頼んだとか。

 そんなことを、スマートフォンの前でだらだら喋る。

「どうも、メンヘラオジサンです」

 から始まって、十五分、二十分。

 話が脱線することも多い。

 気が向けば夜にライブ配信もする。

 会社員だった頃と違い、退職してからは発言について細かく気にする必要もなくなった。

 そのせいなのか、動画そのものも以前より楽しそうに見えるらしい。

「なんか最近、登録者増えてんな」

 気づけば登録者は九千人ほどになっていた。

 会社を辞めた頃は五千人前後だった。

 別に大きなバズが何度もあったわけではない。

 ただ、店を一軒始めたと思ったら二軒になり、常連客へ仕事を渡し始め、

 美容師やネイルの仕事まで回し始めた。

 動画を見ている側からすれば、

「このおっさん、次何するんやろ」

 という感じなのかもしれなかった。

 コメントにも、

『国づくり進んでますね』

『ただのスナック経営やのに話だけ壮大なの草』

『また変なこと始めてる』

 などと書かれる。

「いや、国なんか作ってへんし」

 博之は動画で笑った。

「六席と十席のスナックやってるだけやで」

 それでも視聴者は面白がっていた。

 会社を辞めた四十代のメンヘラオジサンが、茨木の路地裏で小さな店を増やし、女の子を雇い、

 おじさんにも仕事を渡し、その様子を毎日のように喋っている。

 少なくとも、よくある成功者の経営Vlogとは違った。

「珍獣みたいに見られてるんちゃうかな」

 博之自身もそう思っていた。

 登録者が増えるにつれて、問い合わせも少しずつ増えてきた。

『一回飲みに行ってみたいです』

『仕事の相談してもいいですか』

『こういう仕事できますけど、何かありませんか』

『大阪行く時、店寄ってもいいですか』

 別に全部に対応できるわけではない。

 それでも、人と話が集まってくること自体が面白かった。

 博之としては、女性スタッフにもSNSを使ってほしいと思っていた。

「暇な時でええから、店の宣伝ぐらいしてよ」

 とは言っている。

 しかし、博之ほど延々と動画を出せる人間はいなかった。

「そんな力ある子おらんよな」

 そもそも、自分で何千人、何万人も集められる女性なら、わざわざ博之の小さなスナックで

 アルバイトを続ける必要もない。

 梅田や北新地へ行くなり、自分で商売を始めるなりできる。

「発信力ある子雇ったら雇ったで、いつ飛んでいくか分からんしな」

 人を育てたい。

 だが、育ちすぎれば独立する。

 それも商売なのだろうと、博之は思っていた。

 そんな中、九月から試しているシェアネイルと美容師の仕事も、少しずつ伸びていた。

 九月は、ネイル五人、美容師五人。

 合わせて十人だった。

 十月は、その倍ほど。

 合わせて二十人近くの予約が入った。

「ほんまに増えたな」

 博之が言うと、美容師経験のある女性が笑った。

「先月、一日一人だけの日あったじゃないですか」

「あったな」

「あれ、シェアサロンわざわざ取ってもらって、一人だけ切って終わりやったから、

 ちょっと申し訳なかったんですよ」

「別に赤字ちゃうかったらええよ」

「でも今月、一日二人とか入ってるから、ようやく仕事してる感じします」

 ネイル側も似たようなものだった。

 予約が一人だけの日より、二人、三人と続けて施術できる方が効率もいい。

 女性たち自身も、久しぶりに本職の感覚が戻ってきたようだった。

「オーナー、ちゃんと来月も客集めてくださいね」

「嫌な呼ばれ方やな」

「だってオーナーやん」

「期待しすぎんといてや」

 そう言いながら、博之も悪い気はしなかった。

 まだ客の多くは、女性個人についているわけではない。

 博之のSNSや店のつながりから来ている。

 だから給与は、まだ基本的に時給制。

 ただ、同じ女性を二度、三度と希望する客が出始めれば、そのうち指名料や歩合も考えればいい。

「自分で客つくようになったら、その分はちゃんと返すからな」

「お願いします」

 十月のシェアネイルと美容師の売上をまとめると、九月のおよそ倍。

 場所代や材料費、女性への給与を払ったあと、博之側にも七万円前後が残った。

 七万円。

 金額だけ見れば、スナック一軒の売上には遠く及ばない。

 それでも、博之には妙な満足感があった。

 自分はネイルができない。

 髪も切れない。

 シェアサロンで働いているわけでもない。

 ただ、人を集めただけだった。

 その結果、女性たちが本来持っていた技術をもう一度使い、給料を受け取っている。

「なんか、これでええ気するな」

 自分の取り分が七万円だったことより、

「また美容師できて嬉しいです」

「ネイルの仕事、やっぱ好きかも」

 と言っている方が、博之には印象に残った。

 夜になればスナックが開く。

 昼には予約があればランチを出す。

 週末になれば一日店長が客を呼ぶ。

 別の場所では、ネイルや美容師が仕事をする。

 そして、それを博之が動画で喋る。

 その動画を見た誰かが、また店に来る。

 仕事の話を持ってくる。

「ぐるぐるしてんな」

 十月の終わり。

 博之は二号店のソファーに寝転がりながら、スマートフォンの登録者数を見た。

 九千人。

 あと千人で、一万人。

「まあ、年末までに行ったらおもろいな」

 無理に狙うつもりはない。

 動画も今まで通り。

 店も今まで通り。

 ネイルも美容も、予約が入った分だけ。

 ただ、人が増えれば、また何か面白い話が入ってくるかもしれない。

「これやりたいです」

「こういう仕事できます」

「こんな物件空いてます」

 そんな話を、一つずつ拾っていけばいい。

 二〇二七年十月。

 季節が少しずつ冬へ向かう中、博之の周りには、店とも会社とも少し違う、

 小さな人の流れができ始めていた。

 本人は相変わらず、ソファーで寝転びながら動画を撮っているだけだった。

「まあ、ゆるゆるやりますわ」

 その適当さまで含めて、人はこのメンヘラオジサンの続きを見たがっていた。

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