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2027年9月。スナックは順調。種まきのネイルサロンと美容院の結果。客は俺が集める。仕事は君らがやればええ

 二〇二七年九月。

 一号店については、もう大きく形を変える必要はなかった。

 昼の予約営業。

 夜のスナック。

 月に何度か入る一日店長。

 女性スタッフにもそれぞれ客がつき、博之がいなくても普通に店を回せる日が増えている。

「一号店は、もう順調に回す。それに尽きるな」

 ただし、一つだけ気をつけなければならないことがあった。

 人である。

 女性スタッフの中には学生もいる。

 本業を持ちながら働いている者もいる。

 就職が決まったり、生活が変わったりすれば、突然シフトに入れなくなることもある。

「この店だけやったら今の人数でも回るけど、三号店考えるなら、ちょっと余分に人おった方がええな」

 博之は新しい女性スタッフも少しずつ募集することにした。

 一方、二号店もゆっくりと育っていた。

 最初は酒の値段や延長の確認で戸惑っていた女の子たちも、今では自分で客を呼び、

 常連と話しながら店を回せるようになってきた。

 一日店長もそれぞれ頑張っている。

 売上が立った分は、人件費にも少し厚めに回した。

「店に残すんも大事やけど、売った人に返さんと続かんからな」

 そんな九月。

 博之が一番気にしていたのは、スナックではない新しい実験だった。

 ネイルと美容師。

 店を持つのではなく、シェアサロンを借り、予約が入った時だけ営業する。

 八月に女性店員たちへ話し、九月分として試しに募集をかけてみた。

「ネイルやりたい人います?」

「土日限定で美容師経験者が施術します」

 YouTube。

 SNS。

 一号店と二号店の常連。

 さらに女性スタッフ同士の知り合い。

 博之の店には、通常の店員が七人。

 一日店長をしている女性が三人。

 合わせれば、女性だけでも十人ほどの人間関係がある。

「一人一人が一人連れてきたら十人やからな」

 実際、思ったより簡単に人数は集まった。

 ネイル、五人。

 美容師、五人。

 合計十人。

「ほんまに集まったな」

 博之自身が一番驚いていた。

 月末に数字をまとめた。

 売上は合計八万五千円。

 施術を担当した女性への給与は、時給千五百円で合計二万二千五百円。

 シェアサロンの場所代が一万七千二百五十円。

 材料費が八千五百円。

 差し引き、博之側に残ったのは三万六千七百五十円だった。

「三万六千七百五十円か」

「結構残りましたね」

「まあな。でも今は俺が客集めてるからな」

 博之は、まだ歩合制にはしなかった。

 今回来た客の多くは、

「この美容師さんに切ってほしい」

「このネイリストにお願いしたい」

 と個人を指名して来たわけではない。

 博之の店やSNSを見て、

「博之のところでやってるなら、一回行ってみよう」

 という客だった。

「まだ君ら個人に客ついてるというより、俺の箱に客ついてる状態やから、とりあえず時給な」

「それで全然ありがたいです」

「ただし、指名が増えてきたら話変えるで」

 同じ客が二回目、三回目と来る。

 そして、

「あの子にまたやってほしい」

 と言うようになれば、それは女性自身についた客である。

「そうなったら指名料つけたり、歩合考えたりしたらええ」

 博之自身も、三万六千円をずっと取り続けることにこだわってはいなかった。

「俺なんかSNSで声かけて、予約まとめてるだけやからな」

「それが一番大変なんですけど」

 美容師経験のある女性が言った。

「いや、ほんまに客集めるんめっちゃ大変なんですよ」

「そうなん?」

「技術あっても、お客さんおらんかったら仕事にならんし」

 ネイルを担当した女性も頷いた。

「私も本業もう諦めなあかんかなって思ってました」

「なんで?」

「客取れへんから。店辞めたら、自分についてきてくれる人なんてほとんどおらんし」

 それでも今回、久しぶりに施術した。

「やっぱりこれ好きやなって思いました」

「ほう」

「腕もなまらんで済むし。こうやって月何人かでも仕事回してもらえたら、めっちゃありがたいです」

 博之は少し考えた。

「まあ、十人ぐらいやったらこのままでええよな」

 問題は、その先だった。

 ネイルだけで月二十人。

 美容師も二十人。

 さらに別の女性が、

「私もできます」

 と言い始めれば、シェアサロンを毎回借りる方が面倒になる。

「そこまでいったら、小さい箱借りた方がええかもしれんな」

「ネイルサロン作るんですか?」

「需要あったらな」

 最初から店を作るのではない。

 客が増えてから箱を作る。

「十人しかおらんのに家賃払って店作るんはアホやろ。でも二十人、三十人って毎月来るなら、

 その時考えたらええ」

 女性たちは笑った。

「オーナー、お願いしますね」

「嫌なこと言うなや」

「人集めてくださいよ」

「期待せんといてや」

 博之はそう言いながらも、少し面白くなっていた。

 自分は美容師ではない。

 ネイルもできない。

 料理だって、ホットクック頼みである。

 だが、人を集めることは少しできる。

 店を作る。

 SNSで発信する。

 そこで、

「これできます」

「この仕事やりたいです」

 と言う人が現れたら、客を探してみる。

「なんか活動広げてたら、情報って勝手に入ってくるんよな」

「情報?」

「この子、美容師できますとか。この人、清掃できますとか。あの物件空いたらしいとか。

 これやりたいとか」

 全部を拾う必要はない。

 できそうなものだけ、試してみる。

 客が来なければやめればいい。

 来るなら続ければいい。

「俺が全部考えて会社作るんじゃなくて、入ってきた話をつないで回したらええんちゃうかな」

 二〇二七年九月。

 ネイル五人。

 美容師五人。

 月商八万五千円。

 博之の取り分、三万六千七百五十円。

 小さな実験にすぎない。

 だが、それは博之にとって大きな意味を持っていた。

 スナック以外でも、

 人を集めて、仕事のできる人につなげれば、売上は生まれる。

 その仕組みが、初めて数字になった。

「まあ、ゆるゆるやろか」

 博之は笑った。

 急いで美容院を作る必要もない。

 ネイルサロンを借りる必要もない。

 まずは十人。

 それが二十人になれば、次を考える。

 博之の仕事は、少しずつ「自分で働くこと」から、「人と仕事をつなぐこと」へ変わり始めていた。

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