2027年8月。次の種まき。ネイル、美容院勤務経験ある子にお客さん斡旋して仕事にできないか。阪急茨木駅でもスナックできないか。
二〇二七年八月。
一号店はほぼ完成形まで来た。
二号店も、まだ伸びしろはあるものの、昼の予約営業が少しずつ定着し、
夜の女性スタッフにも客がつき始めている。
二店舗ともすぐに潰れるような状態ではなくなった。
そこで博之は、次に何をするかを少しずつ考え始めていた。
ある日の営業後。
博之は女性スタッフたちとカウンターに座り、酒を飲みながら話をした。
「ちょっと次の実験したいんやけど」
「また店増やすんですか?」
「それも考えてる。でも、その前に君らの昔の仕事使えへんかなと思って」
「昔の仕事?」
「美容師とかネイルとかできる子おるやろ」
店で働いている女性や、知り合いの女性の中には、美容師免許を持っている者や、
以前ネイルを仕事にしていた者がいた。
ただ、今はその仕事だけでは生活していなかった。
「美容師とかネイルって、結局客取るん大変なんやろ?」
「大変ですよ」
「店変わったら、また一からになるし」
「ネイルもSNSでずっと集客せなあかんしね」
「そこだけ俺がやったらどうなん?」
女の子たちが博之を見る。
「どういうこと?」
「店持つんやなくて、最初はシェアサロン借りたらええやん」
予約が入った時間だけ場所を借りる。
美容師なら、美容師向けのシェアサロン。
ネイルなら、施術スペースのあるレンタルサロン。
いきなり家賃を払い、設備を買い、毎日店を開ける必要はない。
「まず来月、月五人ずつぐらいやってみいひん?」
「五人?」
「そう。美容師五人。ネイル五人」
合計十人。
博之がYouTubeやSNSで告知し、スナックの客や知り合いにも声をかける。
「髪切りたい人おったら紹介してください」
「ネイルやりたい人います?」
そんな軽いところから始める。
「別に土日全部埋めんでええねん。予約五人入ったら、その五人だけやったらええ」
最初の一か月は、とにかく実験だった。
実際に何人集まるのか。
いくらで予約が入るのか。
場所代はいくらかかるのか。
材料費はいくら必要か。
女の子へ時給を払ったあと、いくら残るのか。
「ざっくり計算したら、俺のところにも月四万ぐらい残るかなと思ってる」
「結構残るんですね」
「まあ四万から、うまくいけばもうちょい。ただ、そこ取りすぎるつもりないで」
客が増えて、毎月十人、二十人となってくれば、女の子側への取り分を増やす。
「俺が場所作って客集めるけど、実際に施術するん君らやからな」
「そこちゃんとしてくれるならありがたい」
「最初は時給ベースで見る。安定してきたら歩合増やしたらええと思ってる」
博之としても、それで十分だった。
自分のところに月四万円残る。
女の子にも新しい収入ができる。
しかも固定店舗を持たないので、大きな赤字になる可能性は低い。
「これうまくいったら、いつか小さい店借りてもええしな」
「ネイルの店?」
「そう。美容室でもええ。でも、それは客できてからでええやろ」
箱を先に作るのではない。
客を先に作る。
働く人を先に作る。
それから店を作る。
「その方が怖くないな」
美容師経験のある女性が頷いた。
「正直、お客さん集めてくれるなら助かる」
「そこだけは俺の仕事にしたらええねん」
博之自身、料理がうまいわけでもない。
美容もネイルもできない。
しかし、人を集めることだけは、少しずつできるようになっていた。
YouTube。
小説。
スナック。
そこで知り合った人たち。
「俺が人集めて、できる人が仕事する。それでええんちゃうかな」
そして、もう一つ。
博之は別の構想も話した。
「あと、三号店考えてんねん」
「やっぱり増やすんや」
「阪急の茨木市駅側」
現在の二店舗はJR茨木駅側にある。
ならば、次は阪急茨木市駅側に小さな拠点を作る。
「一号店ぐらいの小さいのでええねん。六席ぐらい」
昼はカレー。
あるいは肉じゃが。
夜はスナック。
最初は一号店と同じ形をコピーする。
「いきなり十席とかいらん。小さい箱でええ」
「また女の子入れるん?」
「もちろん。育ってきた子に任せてもええし、新しい子入れてもええ」
博之が考えていたのは、二店舗一組のような形だった。
JR茨木側に二店舗。
阪急茨木市駅側にも、まず一店舗。
その店が育ったら、近くにもう一店舗。
「一軒だけやと何かあった時しんどいやろ。でも二軒近くにあったら、人も客も回せる」
「今と同じ感じ?」
「そうそう」
一号店と二号店の間でやっていることを、阪急側でも再現する。
スタッフが足りなければ応援を出す。
客が暇そうなら別の店を案内する。
昼営業も、予約が入った店だけ開ける。
「最終的にJR側二軒、阪急側二軒とかになったら、茨木の中で結構回せるやろ」
「博之さん、ほんまに国作り始めてるやん」
「まだ四軒もないわ」
店内に笑いが起きた。
だが、博之自身は少し本気だった。
スナックを増やす。
その店で女性を雇う。
裏方には常連のおじさんを少しずつ使う。
美容師やネイルの経験者がいれば、シェアサロンで仕事を作る。
そこに博之のSNSから客を送る。
小さな仕事を一つずつ増やす。
「まあ、全部一気にやったら失敗するからな」
博之はグラスを置いた。
「来月はまず五人ずつや」
美容師、五人。
ネイル、五人。
「それで客来るんか、金残るんか、君らも楽しくできるんか。それ見てから考えよう」
「じゃあ、やってみよか」
一人の女性が言った。
「客集めてくれるなら、私もやってみたい」
「私も五人ぐらいならいけそう」
「よし」
博之はスマートフォンを取り出した。
「じゃあ九月分、募集だけ出してみるわ」
二〇二七年八月。
二店舗のスナックから始まった博之の仕事づくりは、初めて飲食以外へ足を伸ばそうとしていた。
まだ美容室もない。
ネイルサロンもない。
阪急茨木市駅側の三号店もない。
あるのは、働ける人と、少しだけ集められる客だけ。
「まあ、五人集めるところからやな」
大きな店を作る前に、小さな需要を確かめる。
博之の次の実験は、またそこから始まろうとしていた。




