2027年5月。メンヘラオジサンの隠れ家2号店。課題山積利益3万円wwwランチの営業を模索中。
二〇二七年五月。
四月いっぱいを使って準備していた二号店が、ようやく営業を始めた。
一号店と同じ雑居ビル。
一階下にある、十席ほどの少し広い店。
昼は、ホットクック二台を使って作るカレー五食と肉じゃが五食。
夜は一号店と同じようなスナック営業。
一号店から二号店へ流れてくれた客には、はしご割りも用意した。
「まあ、一号店と同じぐらいはいけるんちゃうかな」
博之は、少しだけ楽観していた。
一号店にはすでに客がいる。
SNSにも見てくれている人がいる。
女性スタッフも何人か育ってきた。
今度はゼロからの開業ではない。
ところが、実際に一か月やってみると、二号店は一号店ほど簡単にはいかなかった。
一号店の方は、もうかなり安定していた。
博之が毎日顔を出さなくても、女性スタッフ二人を中心に営業できる。
常連客も料金体系を理解しており、自分たちで勝手に楽しんでくれる。
締め作業を手伝ってくれる客もいる。
「こっちは、もう俺がおらんでもだいぶいけるな」
半年以上かかったが、一号店はようやく自立し始めていた。
ただし、平日の昼営業までは手が回っていない。
一方、二号店はそうはいかなかった。
はしご割りの効果もあり、一号店で飲んでいた客が、
「下も見に行くか」
と遊びに来てくれることはあった。
しかし千円を割り引く分、当然ながら客単価は下がる。
新規客だけで二号店が埋まっているわけでもない。
さらに、新しく入った女性スタッフも、まだ仕事に慣れていなかった。
「これ、延長どうするんでしたっけ?」
「このお酒、値段いくらでした?」
「今日、急にシフト入れなくなったんですけど……」
そんな連絡が、ちょこちょこ入る。
「まあ、最初はこんなもんか」
博之も、一号店の最初を思い出せば強くは言えなかった。
一号店だって、半年かけて今の形になったのである。
新人を入れれば、教える時間も必要になる。
シフトがうまく埋まらない日もある。
売上があっても、人件費が余計にかかる。
五月末。
博之は二号店の帳簿をまとめた。
売上、およそ七十万円。
そこから酒や食材の原価、月八万円の家賃、光熱費、消耗品、女性スタッフへの
給与などを引いていく。
最後に残った利益は、
三万円。
「三万か」
博之は数字を見つめた。
一号店と比べれば、かなり少ない。
初期投資の三十五万円を回収することまで考えれば、まだまだ先は長い。
だが、博之はそれほど落ち込まなかった。
「まあ、赤字ちゃうしな」
そもそも、二号店の初月はトントンなら十分だと思っていた。
スタッフも育成中。
客もまだ一号店から流れてくる人が中心。
そんな状況で七十万円の売上が立ち、最後に三万円でも残った。
「二軒目も、ちゃんと商売にはなった。それでええか」
まず、一か月営業できた。
家賃を払えた。
従業員にも給料を払えた。
借金をして穴埋めする必要もなかった。
それを喜ぶことにした。
もちろん、課題は山ほどある。
一つ目は、人だった。
女性スタッフのシフトを安定させる必要がある。
一号店のように、博之がいなくても二人、三人で回せる状態にしなければならない。
さらに、スタッフ自身にも少しずつファンを作ってもらいたい。
「博之がおるから行く店」だけでは、二軒以上には広げられない。
「○○ちゃんがおるから二号店行くわ」
そう言われるスタッフを増やす必要があった。
二つ目は、客単価。
はしご割りは新しい店を知ってもらうには役立ったが、ずっと千円引きを続ければ利益を削る。
「これは、そのうち五百円ぐらいにしてもええかな」
二号店そのものに客がつけば、割引の役割も小さくできる。
そして三つ目が、昼だった。
ホットクックで作るカレー五食と肉じゃが五食。
仕込み自体は難しくない。
問題は、昼に客をどう呼ぶかだった。
「味だけで行列作る店ちゃうからな」
博之は最初から、有名カレー店を目指しているわけではない。
むしろ売りたいのは、場所だった。
茨木の街中で、昼に少し座れる。
人の多い喫茶店に入らなくてもいい。
一号店なら禁煙でゆっくりできる。
二号店なら、条件に合う客はタバコを吸いながら過ごせる。
そして、予約しておけばカレーか肉じゃがが食べられる。
「飯屋というより、昼の隠れ家やな」
無理に毎日二店舗とも開ける必要もない。
予約が入った日に、一号店か二号店のどちらかを開ける。
禁煙がいい人なら一号店。
喫煙できる場所を希望する人なら二号店。
SNSで、
『今日の昼、カレーあります』
『肉じゃが三食残ってます』
『昼からゆっくりしたい方、連絡ください』
ぐらいの軽い告知を出す。
店の前にも、小さな看板を置けばいい。
「Googleのレビューも、ちょっとずつ集めた方がええな」
SNSだけでは、博之を知らない地元客には届かない。
普通に検索して、
「茨木 ランチ」
「茨木 昼飲み」
「茨木 喫煙」
などで見つけてもらえるようになれば、少しずつ新しい客も入るかもしれない。
味で人を引っ張ってくる名店になる必要はない。
安く飯が食えて、座れて、だらだらできる。
少し人には言いにくい悩みがあれば、話も聞いてもらえる。
そんな隠れ家でいい。
「二号店で三万残ったんやったら、まず合格にしとこ」
博之は帳簿を閉じた。
一号店の成功を、そのままコピーすれば二号店もうまくいく。
そんなに簡単ではなかった。
だが、それも一つ勉強だった。
一号店は自立し始めた。
二号店も赤字にはならなかった。
次は、人を育てる。
客を育てる。
昼の使い方を考える。
二〇二七年五月。
博之の二号店は、月商七十万円、利益三万円。
数字だけ見れば、まだ頼りない。
それでも二つ目の小さな箱は、どうにか自分の足で立ち始めていた。
「まあ、一歩ずつやな」
博之は誰もいない十席の店で、ソファーに寝転びながらスマートフォンを開いた。
明日の昼の告知を、一本だけ出してみることにした。




