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2027年4月。2号店の発表と表目標と裏目標。なんか、国づくりみたいやな

二〇二七年四月。

 二号店をやると決めた博之は、まず一号店で働いている女の子たちに、その話をすることにした。

「ということで、下の階でもう一軒やることになりました」

「ほんまに二号店やるんですか?」

「やる。せっかく向こうから話来たし、同じビルやから何かあってもすぐ行けるしな」

 二号店は一号店より少し広く、席数は十席ほど。

 家賃は月八万円。

 清掃や備品、調理器具などを含め、初期費用は三十五万円ほどに抑える予定だった。

「もし友達とかで、ちょっと働いてみたいって子おったら紹介してよ」

「何人ぐらい?」

「二人か三人ぐらいかな。俺も募集かけるけど、最初から人数入れすぎても仕事ないからな」

 二号店で博之が一番試してみたかったのは、昼営業だった。

 一号店では土日の昼だけ、五食限定でカレーを出している。

 だが、二号店は十席ある。

「せっかく十席あるから、昼飯も十食やってみようと思ってんねん」

「カレー十食?」

「いや。カレー五食と肉じゃが五食」

「二種類作るん?」

「作るいうても、両方ホットクックや」

 博之は笑った。

 二号店では、ホットクックを二台使うつもりだった。

 一台には、カレー五食分。

 もう一台には、肉じゃが五食分。

 材料を決められた量だけ切り、調味料と一緒に入れる。

 あとは基本的に機械に任せる。

「朝から料理人みたいに鍋の前でずっと立つ必要ないやろ」

「まあ、ホットクックなら楽そう」

「そうやねん。そこが大事やねん」

 博之は、料理そのものを商売の中心にしたいわけではなかった。

 味を極限まで追求して、有名店を作りたいわけでもない。

 誰が担当しても、ある程度同じものが作れる。

 体調が多少悪い日でも、仕込みができる。

 料理経験がほとんどないスタッフでも、手順さえ覚えれば任せられる。

 その方が、この店には向いている。

「カレー五食分の材料入れてスイッチ押す。肉じゃがも五食分入れてスイッチ押す。

 ご飯炊く。ほぼそれだけや」

「それなら私でもできそう」

「それを狙ってんねん」

 値段は、どちらもご飯付きで八百円。

 コーヒーかお茶を二百円で付ければ、千円になる。

 客が来たら、

「カレーと肉じゃが、どちらにします?」

 と聞くだけ。

 カレー五食、肉じゃが五食。

 合計十食限定。

 カレーが先に売り切れれば、その後は肉じゃがだけ。

 肉じゃがが先になくなれば、カレーだけになる。

「十食全部売れても飯だけやったら八千円やろ?」

「そう」

「そんなに儲からんくない?」

「ええねん、それで」

 博之は即答した。

「昼飯だけで大儲けしようとしてへんから。十人来てもろて、コーヒー飲んで、

 ちょっと喋ってくれたらええ。売れ残り大量に作る方が嫌や」

 何より、二号店で確認したいのは、博之が料理をしなくても店が回せるかどうかだった。

「俺しか作れへん料理やったら、三号店作った瞬間終わるやろ」

「ああ、そういうことか」

「そう。誰でも作れるようにしときたいねん」

 カレーもホットクック。

 肉じゃがもホットクック。

 五食ずつ。

 作り方を紙一枚にしておけば、慣れれば誰でも仕込める。

 将来、おじさんのアルバイトに任せることもできるかもしれない。

「最初は土日の昼から。慣れたら平日の昼もやってみたい」

 夜については、一号店と同じスナック形式にする。

 二号店は少し広いので、女性スタッフを二人入れても窮屈ではない。

 一号店は、これまで育ててきた女性二人を中心に任せる。

「なんかあったら電話して。俺、下におるから」

「二号店いうても一階下やもんな」

「そこがええねん。いきなり駅の反対側に店出したら、何かあった時に行かれへんやろ」

 一日店長を月に一回ずつ担当してくれている知り合いの女性二人にも話をした。

「二号店でも、一日店長できるで」

「そっちの方が広いん?」

「十席ぐらい。今までよりちょっと人数入れられる」

 自分の知り合いを呼び、酒を飲みながら楽しく過ごしてもらう。

 仕組みそのものは一号店と変えない。

 そして博之は、一号店と二号店が同じ建物にあることを利用して、もう一つ企画を考えていた。

「はしご割りやろうと思ってんねん」

「また変なん考えたな」

「一号店と二号店、両方行ってくれたら千円引き」

 一号店で飲んでから、階段を一階下りて二号店へ移動する。

 二号店では食事を出さず、そのまま酒と会話を楽しんでもらう。

「移動時間一分やん」

「それでも、はしごや」

 最初は千円引き。

 店が定着したら、五百円程度に減らしてもいい。

 まずは一号店の客に、二号店の存在を知ってもらうことが目的だった。

 常連客にも話した。

「二号店できるから、締め作業とか掃除とか、ちょっと仕事増えるで」

「また俺ら使うんすか」

「無理に頼まんよ。飲み代欲しい時に、一時間だけでも手伝ってくれたら時給払う」

「その金でまた飲むんやろ」

「そう。うちの中で金回してくれ」

 店に笑いが起こった。

 だが、博之は半分本気だった。

 博之には、もう一つ裏の目標があった。

 弱者男性にも、少しずつ仕事を渡すこと。

「おっさんをいきなりスナックの表に立たせても難しいと思うねん」

 博之自身は、SNSや小説を通じて客がついている。

 だから四十代のおじさんでも、客が話をしに来てくれる。

 しかし、普通の中年男性をいきなりカウンターに立たせても、同じようにはいかない。

「せやから、最初は裏方でええ」

 清掃。

 買い出し。

 締め作業。

 荷物運び。

 そして昼の仕込み。

「カレー五食と肉じゃが五食、ホットクック二台に材料入れる仕事やったら、おっさんでもできるやろ」

「確かに」

「別に愛想良く喋れんでもええねん。決められた量切って、入れて、スイッチ押してくれたら

 仕事になる」

 一方で、女性スタッフには、学生以外美容師、保育士、看護関係など、

 以前の仕事で身につけた経験を持つ者もいる。

 そういう人が何人か集まれば、将来は美容室やネイルサロンのような小さな店を作ることも

 できるかもしれない。

「一人で独立せえ言われたら怖いやろ。でも場所と客をこっちである程度用意して、

 何人かでシェアしたらできるかもしれん」

「なんか、だんだん国づくりみたいになってきたな」

 女の子の一人が笑った。

「国は大げさやろ」

「でも店増やして、人雇って、仕事作って、客回してるやん」

 博之は少し考えてから笑った。

「まあ、国作る前にホットクック二台ちゃんと動かすところからやな」

 二〇二七年四月。

 二号店で始めるのは、大げさな商売ではない。

 ホットクックで作るカレー五食。

 もう一台のホットクックで作る肉じゃが五食。

 合計十食だけの、小さな昼飯屋。

 しかし博之にとって重要なのは、十食売ることだけではなかった。

 自分がいなくても、誰かが簡単に作り、誰かが客に出し、誰かが片付けられる。

 その仕組みを一つずつ作る。

 それができれば、店は増やせる。

 仕事も増やせる。

 そして、自分と同じように普通の働き方からこぼれた人にも、少しずつ仕事を渡せるかもしれない。

「まあ、まず十食や」

 博之はそう言って、二台のホットクックを置く場所を測り始めた。

 大きな構想は、そのあとでいい。

 まずはカレー五食と、肉じゃが五食。

 博之の二号店は、そこから始まろうとしていた。

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