森から来た三人
焚き火の音だけが響く。
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パチ。
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パチッ。
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誰も動かない。
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森の奥。
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三つの気配も動かない。
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先に動いたのは熊鉄山だった。
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酒瓶を手に取る。
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空だと確認する。
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そして。
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投げた。
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ブンッ!
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酒瓶が闇へ飛ぶ。
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次の瞬間。
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カン。
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金属音。
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酒瓶が真っ二つになった。
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隊員たちの顔色が変わる。
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見えなかった。
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誰が切った。
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どこから切った。
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何も見えない。
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「出てこい」
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熊鉄山が言う。
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「酒の恨みは深いぞ」
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岳飛狼が吹き出した。
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緊張感が台無しだった。
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だが。
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闇の中から笑い声が返る。
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女だった。
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若い。
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鈴が鳴るような声。
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「面白い人ね」
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足音。
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コツ。
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コツ。
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三人が姿を現す。
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先頭は女。
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黒衣。
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二十歳前後。
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腰に細剣。
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顔立ちは整っている。
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だが。
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最初に目を引くのは目だった。
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人を見ていない。
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獲物を見ている。
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そんな目。
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二人目。
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大男。
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熊鉄山より少し若い。
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背中に巨大な包みを背負っている。
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武器らしい。
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三人目。
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痩せた青年。
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本を持っていた。
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武者には見えない。
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学者にしか見えない。
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だが。
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柳青玄の視線は最初の女へ向いていた。
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知っている。
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どこかで。
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確かに。
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だが思い出せない。
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「名乗れ」
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岳飛狼が言う。
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女は笑った。
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「失礼ね」
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「名乗るのは先でしょう?」
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「勝手に人の森へ入って」
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「騒いで」
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「岩を割って」
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「毒針まで浴びて」
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蘇月が眉をひそめる。
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「人の森?」
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女は頷く。
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「そうよ」
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「ここから先は私たちの縄張り」
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鎮魔隊の空気が変わる。
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縄張り。
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つまり。
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山賊か。
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邪派か。
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どちらかだ。
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その時。
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高文秀が静かに口を開く。
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「奇妙ですね」
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女の目が向く。
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「何が?」
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「もし本当に縄張りなら」
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「なぜ先ほどの襲撃を止めなかったのですか」
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沈黙。
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女の笑みが消える。
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ほんの一瞬だけ。
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柳青玄は見逃さなかった。
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当たった。
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高文秀も何かを感じている。
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女は肩を竦める。
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「全部は止められないわ」
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「私たちも忙しいの」
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嘘だ。
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少なくとも半分は。
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その時だった。
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一直線に飛び出した影がある。
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名前のない少年だった。
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全員が反応する前に。
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女へ向かって走る。
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速い。
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予想以上に。
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獣のような動き。
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だが。
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次の瞬間。
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女の目が細くなる。
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剣が半寸だけ抜かれた。
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チャッ。
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それだけ。
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それだけなのに。
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少年の身体が硬直する。
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止まった。
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完全に。
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まるで。
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目の前に見えない刃が置かれたように。
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柳青玄の瞳が鋭くなる。
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剣意。
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しかも。
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相当高い。
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二十歳そこそこで持てるものではない。
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女も驚いていた。
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少年を見て。
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初めて。
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本当に驚いた顔をする。
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「へえ……」
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「今ので止まるんだ」
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その言葉。
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柳青玄の耳が反応する。
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違和感。
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まるで。
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試していたみたいだった。
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その瞬間。
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森の奥。
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さらに遠く。
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誰にも気付かれない場所。
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一本の木の上。
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白衣の人影が立っていた。
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仮面。
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細い指。
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風に揺れる袖。
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そして。
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小さく笑う。
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「見つけた」
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誰を見ているのか。
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柳青玄か。
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名前のない少年か。
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黒衣の女か。
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誰にも分からない。
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だが。
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江湖の盤面は。
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柳青玄が思っているより遥かに大きく動き始めていた。




