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8/10

死人の荷車

谷を出る頃には日が傾いていた。



生き残った護衛は一人もいない。



残ったのは死体と謎だけ。



鎮魔隊は荷車へ遺体を積み込んだ。



岳飛狼が舌打ちする。



「結局何も分からねえ」



「いや」


高文秀が帳簿を閉じる。



「一つ分かりました」



「何だ」



「相手は私たちを知っています」



沈黙。



隊員たちが顔を見合わせる。



高文秀は続ける。



「谷へ入った直後ではなく」



「中央で襲撃した」



「つまり人数も戦力も把握していた」



柳青玄は小さく頷く。



正しい。



偶然の襲撃ではない。



待ち伏せだ。



しかも。



こちらを観察した上で。



その時だった。



荷車の後ろから音がした。



ガタン。



岳飛狼が振り返る。



「おい」



「またいるぞ」



隊員たちが一斉に振り返る。



少年だった。



名前のない少年。



河原で見た。



黒石谷で見た。



そして。



今もいる。



死体を積んだ荷車の後ろに。



当然のように。



「お前な……」



岳飛狼が額を押さえる。



「何でいる」



少年は答えない。



ただ。



荷車を見ている。



死体を。



じっと。



まるで。



知り合いを探しているように。



その目を見て。



柳青玄は少しだけ違和感を覚えた。



獣の目ではない。



悲しみだ。



だが。



それを表に出す方法を忘れた人間の目だった。



「誰か知っているのか」



柳青玄が聞く。



少年は初めて反応する。



ほんの少しだけ。



視線が揺れた。



だが答えない。



代わりに。



荷車の中の一体を指差した。



老いた護衛。



既に死後数日。



「この人」



少年が呟く。



「優しかった」



それだけだった。



そして再び黙る。



誰も何も言えなかった。



その時。



熊鉄山が荷車へ飛び乗る。



ドスン。



車体が軋む。



「よし」



酒瓶を振る。



空だった。



「最悪だ」



隊員たちが笑う。



「人が死んでるのに酒か」



「だから酒だ」



熊鉄山が答える。



「生きてる奴の方が大事だろ」



乱暴な言葉だった。



だが。



不思議と誰も反論しなかった。



その夜。



鎮魔隊は山中で野営した。



焚き火。



簡素な食事。



そして見張り。



柳青玄は一人で火を見ていた。



パチ。



木が弾ける。



その向こう側。



誰かが座る。



蘇月だった。



饅頭を食べている。



どこで手に入れたのか分からない。



「取ったな」



「拾った」



「同じだ」



「違う」



真顔で答える。



柳青玄は少し笑った。



すると。



蘇月が突然言った。



「今日の針」



柳青玄の表情が変わる。



「何だ」



「嫌だった」



焚き火の火が揺れる。



蘇月は自分の指を見る。



細い指。



まだ何も知らない指。



「見た瞬間」



「懐かしかった」



「でも」



「すごく嫌だった」



柳青玄は黙る。



前世。



暗器皇になった蘇月は言っていた。



『一番嫌いなのは私と同じ暗器使い』



理由は聞かなかった。



今なら少し分かる。



その時だった。



岳飛狼が木の上から飛び降りる。



音もなく。



「客だ」



全員の空気が変わる。



柳青玄が立ち上がる。



岳飛狼は森を見ていた。



その片目が鋭く細くなる。



「三人」



「こっち見てる」



熊鉄山が酒瓶を置く。



蘇月の指が動く。



高文秀は帳簿を閉じた。



森の奥。



闇の中。



確かにいた。



三つの気配。



殺気はない。



だが。



普通でもない。



そして。



その中央。



一人だけ。



異様に気配の薄い人間がいる。



柳青玄の背筋に冷たいものが走る。



前世の記憶が警鐘を鳴らす。



強い。



かなり。



そして。



その気配には。



どこか懐かしさがあった。



まるで。



昔どこかで会ったことがあるような。

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