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饅頭一個の値段

蘇月は捕まった。


三歩で。



「離せ!」



「離さん!」



「これは正当な徴収!」



「盗みだ!」



食堂の前で言い争いが続いている。



鎮魔隊の連中は笑っていた。



いつものことだからだ。



蘇月は週に三回盗む。


捕まるのは二回。


逃げるのは一回。



今日は捕まる日だった。



「新入り!」


料理人が柳青玄を指差す。



「お前も見ていただろ!」



柳青玄は粥を食べながら頷いた。



「見た」



「なら証言しろ!」



「確かに盗んだ」



蘇月が睨む。



「裏切ったな」



「最初から味方じゃない」



その返答に隊員たちが笑った。



だが。



柳青玄は少女の手首を見ていた。



細い。



傷だらけだ。



だが問題はそこではない。



指。



人差し指。


中指。


薬指。



異常に発達している。



普通の武人ではない。



ましてや飢えた孤児の手ではない。



前世。



千機夜叉。



唐門長老ですら恐れた暗器皇。



その始まりが。



饅頭泥棒だったとは。



「笑えるな」



思わず口から漏れた。



「何がよ」



蘇月が睨む。



柳青玄は首を振った。



「いや」



「思ったより安かった」



「は?」



「未来の値段だ」



意味が分からない。



当然だった。



未来の話なのだから。



その時。



遠くで鐘が鳴った。



ゴォン――



ゴォン――



ゴォン――



空気が変わる。



隊員たちの笑いが止まる。



岳飛狼が塀から飛び降りる。



熊鉄山も酒瓶を置いた。



鎮魔隊の人間が真面目な顔になる。



珍しいことだった。



「招集だ」



誰かが呟く。



武林盟本部からの招集。



良い話だったことは一度もない。



全員が演武場へ向かった。



中央には一人の男が立っていた。



青い武服。



鋭い目。



腰には細剣。



武林盟の執法使だった。



隊員たちの顔が曇る。



執法使。



簡単に言えば。



武林盟の犬。



そして。



鎮魔隊を最も見下している連中だった。



「諸君」



執法使が口を開く。



「栄誉ある任務だ」



その瞬間。



熊鉄山が小さく笑った。



岳飛狼も笑った。



高文秀は帳簿を閉じた。



柳青玄も少し笑う。



誰も信じていない。



執法使が「栄誉」と言う時。



大抵は。



「死んでこい」


という意味だからだ。



「黒風商会」



その名が出た瞬間。



柳青玄の瞳が細くなった。



来た。



前世ではもっと後だった。



もっとずっと後。



「護衛隊二十一名」



「全滅」



「積荷消失」



執法使が続ける。



「現地調査を命じる」



予想通りだった。



誰も行きたがらない。



だから鎮魔隊へ回ってきた。



その時だった。



柳青玄の視線が止まる。



執法使の腰。



細剣。



鞘に刻まれた小さな紋様。



雲。



いや。



雲ではない。



渦だった。



本当に小さい。



見逃してもおかしくない。



だが。



柳青玄の呼吸が止まる。



前世。



死の山。



最後の戦場。



天機老人の側近たち。



全員が同じ印を持っていた。



あり得ない。



今の時代に。



まだ存在しないはずだ。



執法使は何も知らない顔で命令書を読み上げている。



だが。



柳青玄には分かった。



黒風商会。



天機老人。



そして。



見覚えのある紋様。



全部が繋がり始めている。



誰かが。



盤面を動かしている。



前世よりずっと早く。

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