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第六話 地方都市ペジブール へようこそ

 エル、フリム、カナンの三人は無事、鉛等級の証を受け取り、仕事に戻っているエリナに挨拶をして、ギルドの館へ戻った。


 三人での初クエストの出発準備をしていた。

 なんでも、依頼主の都合で、とにかく時間が惜しいらしく、最低限の準備ができたら、すぐに出発して欲しいとエリナに言われていた。


 目的地の村リナーカカイナまでは、人の足ではどんなに急いでも二ヶ月はかかる。

 そのため、途中の地方都市まで駅馬車に乗る。中継地ごとに最速の馬を用意してあるらしい。

 そして、終着駅となる、地方都市の国営ギルド支部で旅に必要な物資を受け取り、そこからは徒歩で約二週間、全行程三週間の計算だ。

 自分の荷物以外は全て依頼主がギルドを通して用意してくれる厚遇ぶりだ。余程、緊急を要する事態なのだろう。


「初クエスト~初クエスト~。」

 フリムが準備をしながら、陽気に変な歌を歌っている。

 カナンはカナンで、ルミと一緒に旅に着ていく服を選んでいた。

 エル自身も初クエスト、しかも報酬はギルドの館という話に多少は浮かれているが、それにしても、このパーティーメンバーで長い道のり、大丈夫かと一抹の不安を覚えていると。


「綺麗だ……」

 フリムが突然口をついた。

 エルの顔が真っ赤になる。


 国営ギルド本部で、ライラとリュカに挨拶をした時のことだ。

 リュカが消え入りそうな声で名乗った後、みんなが挨拶をする中。

 エルが彼女の、ローブの裾まで届こうかという、艶のある美しい黒髪に魅せられて、口に出してしまった台詞。

 それをフリムが真似したのだ。


 突然の言葉にギョッとして固まるリュカ。

 ウチの子に手を出さないでねと笑いながら言うライラ。

 さすがにひと言目がそれは恥ずかしいと両手で顔を覆うカナン。

 声出ちゃってるよと爆笑するフリム。


 リュカは逃げるようにその場から去り、ライラは「またね。」と言って、彼女の後を追った。


「頼むから忘れてくれ……。」

 エルの黒歴史である。


 そんなくだらない話をしながら旅立つ準備を終え、約半年間世話になったギルドに一礼し館を出た。


 都市を出る際、エリナさんが見送りにきてアドバイスをくれた。

「ステータス確認はこまめに。」

「水分の確保は最優先。」

「道中のモンスター情報のメモ。」

「地図は持った?忘れ物はない?」

 まるで母親のようだ。

 そして、最後に、


「冒険者は、冒険しちゃダメ!」


 無理をすると、すぐに死んでしまう冒険者のために、国営ギルドに伝わるとある先人の教えらしい。


 仕事が忙しいのに、ギリギリまでサポートしてくれるエリナさんに感謝をしつつ、三人は出発した。


 国営ギルド(エリナさん)が用意してくれた駅馬車は凄い!都市から都市への整備された道とはいえ、高速で走る馬車はそれなりに揺れるだろうと覚悟していたが、全くそんなことはなく、乗り物酔いの酷いフリムも筋トレ出来ると喜んでいた。

 調子に乗って筋トレしたら酔ったみたいで、途中から大人しくなっていたが…。


 道中、スライムやトンクといった単体の小型モンスターや、間抜けな盗人と戦闘になったが、元々冒険者の往来の多い道。

 大型のモンスターに出くわすこともなく、最後の中継地[ペジブール]に到着した。


――地方都市ペジブール――

 都市というわりに、入り口には田園が広がり、のどかな町をイメージさせるが、中心地には未開の地へ探索に出る冒険者のための宿屋や武具屋、鍛冶、薬、怪しい魔道具まで、たくさんのお店が連なっている。

 住民の多くは町外れで農業を生業として生活しており、住民と冒険者の仲も持ちつ持たれつの関係で良好。

 中は活気があり外はのどかな田園風景が広がる、バランスのとれた都市である。

 

 中心地に着いた三人は、ギルド支部へと向かった。

 時刻は昼過ぎ、この時間は冒険者の姿も少ない。いるとしたらギルドに併設された酒場で、情報収集を名目に酒を呑む連中だ。


 受付には誰の姿もない。どうやら休憩中のようだ。呼び鈴を鳴らすと、

「はーい、ただいま参りま~すなの。」

と、元気の良い返事が返ってきた。


 ……待つこと三十秒……まだ姿を現さない。

「ムグッ!ンック、ゲホッゲホッ」

「何してるのムイ、冒険者様お待ちですの!ほら、お茶飲んで落ち着いて、早くいくの!」

「ごめんなの、ゴホッ……メイ、代わりに出てなの。」

「しかたないの。」

 受付の奥の部屋から聞こえてくる。


 部屋の扉が開き、やっと出てきたかと思ったが誰もいない。


「お待たせしましたですの。」


 声がする方を見るが誰もいない。

 おかしいと思いつつ見渡してみるが、カウンターには誰も立っていない。


 「下をみて欲しいの。」

 その声にカウンターの上から、声のする方向をのぞき込むと、可愛らしい少女がこちらを見上げていた。


「ちょっと待つの。」

 そう言うと、少女は三十センチほどの台を引っ張りだし、ぴょんと飛び乗った。

「これで見えるの。」

 少女は得意げに言ったが、これでも顔がひょこっと出てきた程度だ。


「君がここの受付?」

「そうですの。メイですの。以後、お見知りおきをですの。」


 ちょっと面を喰らったが、とりあえずエリナさんから支部の受付に渡すように言われていた手紙を出す。

 するともう一つの顔がひょこっと出てきて手紙を受け取った。突然同じ顔が現れてエルはビックリしてしまった。

「本部からの手紙なの。確認するからちょっと待ってなの。」


「彼女は?」

 エルは最初に出てきたメイという少女に尋ねた。

「彼女はムイですの。ここで2人で受付してるの。」

 この支部は随分若い子……というか子供が働いてるんだな、などと考えていると。

「今、失礼なことを考えたの。」

「私たちはハーフリングなのであって、子供ではないなの。あなた達よりずっとお姉さんなの。」

 なんで考えていることが分かったのか……勘が鋭いらしい。


 初めて出合ったハーフリングに最初は戸惑ったが、手紙の内容を確認した少女……女性二人はテキパキと仕事を始め、本日の宿の手配に食事の予約、装備の整備、薬草等のアイテム補充まで手配してくれた。確かに頼れるお姉さんだ。


 しかし、二人の見分けが全くつかない。いや、よく観察してみると、語尾がなの。のムイには口元に小さいホクロがある。これで語尾以外でも見分けがつけられるぞ、と密かに喜んでいると、

「ムイ、さっき食べてたおまんじゅうの餡子がついてるの。」

「あ、本当なの。ありがとうなの。」

 あっさりと喜びを奪われた……。


 全ての用意が完了するのは夕方になるから、今日はこの町でゆっくり過ごして!とのことで、快適とはいえ約一週間馬車に乗っていた疲れがあり、体を休めることにした。


 宿に到着すると、三人はベッドにダイブしたい気持ちを抑え、軽装に着替えて町を探索することにした。


 様々なお店を見て回りたいが、どの店も冒険者を相手に、昼夜を問わず営業している所が多いらしく、長旅でカナンのお腹の虫が悲鳴を上げているため、まずは予約してもらったレストランへ直行した。


「わぁ、どの料理もすごく美味しそう。」

 カナンが運ばれてくる料理に目を輝かせている。

「この料理には何の香辛料が使われているんだろう」

 料理好きなフリムは味の追求を始めた。

「うん、確かに美味しいな。素材一つ一つの味が別格だ。」

 久しぶりの豪華な食事にエルも心躍った。


 店員さんと話をしていたフリムによると、この地域は元々肥沃な大地に恵まれていて、農業が盛んだったらしい。そのため品種改良も進み、味の良い食材が多いということだ。

 それならば、もっと発展していいのではと聞いたが、モンスターにとっても同じことで、S級モンスターに目をつけられ、被害が大きく出たらしい。

 それでも粘り強く戦い続けた結果、近年、この地を縄張りとしていたS級モンスターが討伐されたことで、冒険者の往来も増え防衛も強固になった。未だ発展途上の段階らしい。


 S級モンスターの名を聞いたとき、エルとフリムはアクレス達に感謝した。

 S級モンスター〈ドル・ドルーパ〉はアクレス達が討伐した二体のうちの一体であり、この都市ができていなければ、一週間は徒歩移動が増えていたことになる。こんな形で助けられるとは、思ってもいなかったからである。


 カナンのお腹も無事満たされ、一行が次に向かったのは温泉。

 やはり、旅の疲れを取るには温泉!満場一致だった。


~男湯~

 まだ夕暮れ前だが、昼過ぎまでの仕事を終えた職人らしきドワーフの団体がいる。

 力仕事が多いのかみんな筋骨隆々である。

 筋肉つながりでハーフドワーフのフリムとは気が合うようで、すぐに仲良くなり盛り上がっていた。

 なぜか「人間にしては良い筋肉してるじゃないか。」と、ゆっくり浸かりたかったエルだが、ドワーフの輪に入れられた。


~女湯~

 離れた場所にあるはずの男湯から、賑やかな声が聞こえてくる。

「私にも、一緒に笑って冒険できる女友達が欲しいな。」

 アクレス達に助けられてから、仲間と呼べる人物はエルとフリムだけ。それ以前の記憶は曖昧だが、親しい人物は出てこない。

 だから、エルとフリムの関係が少し羨ましかった。


 温泉から出ると、エルとフリムがドワーフたちに酒場に誘われていた。

 まだ仲間と行くところがあると、二人は断っていたが、ドワーフは半ば強引に引っ張っていこうとしている。

 それを見て、二人に行ってきなよ、と合図を送るカナン。


 ドワーフ達はカナンの姿を見ると二人を解放して言った。

「嬢ちゃんに酒を飲ますわけにはいかねぇな。一人にするわけにもいかねぇし、うまい酒はまた今度飲ませてやるよ。」

「あぁ、楽しみにしてるよ。」

 エルとフリムは解放されて正直安堵した。

「そん時は、嬢ちゃんも一緒にな!」

 カナンは笑顔で頷いた。 


 陽気なドワーフ達と分かれた後、三人は、各々行きたい場所へ一緒に行くことにした。


 順番はくじ引きで決める!

 カナン、エル、フリムの順に決まった。


 カナンは、スイーツのお店にするか、最後まで迷っていたが行き先は、[怪しい魔道具屋]だ。


 外観からしてヤバイ、何の生物の物か分からない骨が飾られ、謎の文字で書かれた貼り紙、並べられた人形が不気味に微笑み、店内へ誘っている……ように見える。

 遠くから見ても怪しさ全開で、近づいても店内の様子は確認できない。

 フリムは、どうしても入らなきゃダメ?と震えていたが、カナンに引っ張られて仕方なくついていく。


 勇気を出して、恐る恐る入ってみると、店内は薄暗く、所々に置かれた髑髏が淡く発光している。

 少しずつ暗闇に目が慣れてくると、店内に並ぶ商品らしき物が見えてきた。

 見るからに怪しい粉や、瓶詰め液体保存された臓物っぽい物、魔術に使われるであろう水晶や人型の何か。今にも動き出しそうで怖い。


「すみませ~ん、誰かいませんか~。」

 なぜか小声のカナン。

 フリムは恐怖で固まっている。

(コイツいつも固まってるな)

 エルが店内を見回し再度声をかけてみる。

「誰もいないのか」

 やはり返事はない。仕方なく出直そうと店を出ようとした時。


「あら、珍しい。もしかしてお客さん?」

 人気のなかった店内の奥から声をかけてくる者がいた。


人物紹介

ムイとメイ(双子)

所属:国営ギルド支部

職業:国営ギルド支部 受付

種族:ハーフリング

性別:女性

身長:80

年齢:24

性格:裏表なく元気いっぱい

語尾が~の、~ですの、がメイ。語尾が~なの、がムイ。

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