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第七話 妖しい魔道具屋 へようこそ

地方都市ペジブールに着いたエルたち。カナンの希望でなんとも怪しい魔道具屋に入ることに。見た目も怪しければ中も妖しい。薄暗く人気のない店内、返事もなくいったん出直そうとした時、店の奥から現れたのは?

「あら、珍しい。ここに人が入って来るなんて何年ぶりかしら。何か用?」

 店の奥から現れたのは妖艶な女性。

 闇を纏うような真っ黒のゴシックドレスに身を包み、手には深い青色に発光した扇子を持っている。

 女性は口元に微笑を浮かべながら尋ねてきた。


「何年ぶりって……ここは魔道具屋じゃないんですか。」

「絶対ヤバイって!」と、怯えるフリムをよそにカナンが答えた。


「そうね……そうだったわね。暇つぶしにお店をやっていたんだわ。ようこそ……えっと、【ソルシエイユ】へ。」

 女性は記憶を探るように首を傾げた。


「それで、何か欲しいものがあるの?」


「あっそれが、なかなか見つからなくて。魔法石が欲しいんですがありますか?」

「魔法石……ね。」

「はい、光の魔法石を探してるんです。」

「随分、貴重な物を探してるのね。」


 後で聞いた話だが、カナンの目当て[光の魔法石]は魔法石の中でも特に希少らしい。

 普通の魔道具屋にも滅多に入荷されないらしく、それでこの辺りで一番怪しそうな店を見てみたかったとのことだ。


「どうしてそんな物が必要なの?」

「この子にあげたくて。」

 そう言うと、バッグの中で丸まっていたルミが顔を出す。

「そう、その子に…それは必要ね。」

 暗闇の中で光輝くルミに、女性は眩しいのか、手に持っていた扇子で光を遮る。


「確か奥の倉庫にしまってあるわ。あなた、手伝って頂戴。」

 エルが指名された。

 呪いが掛かっていそうな人形と睨めっこをしていたエルは、突然の指名に驚いた。

「オレですか?」

 力仕事が得意そうなフリムではなくて?

「そう、あなた。私、明るい物が苦手なのよ。光の魔法石は特に眩しいからお願い。」

 普段からこんな薄暗い店にいるくらいだ。そういうことならと奥の倉庫へ入っていく。


 奥へ進むとさらに暗く、足下が見えない。

 エルは何かに躓きよろける。

「つっ!!」

 よろけた際に首筋に何か触れたようだ。

「あら、あなたには暗すぎるかしら。少し明るくするわね。」

 そう言うと、彼女の持つ扇子が青紫色に発光する。エルの目にはまだ薄暗いが先程よりはマシだ。


 辺りを見回すと、首の横に角の生えた動物の剥製があった。首筋をさすると手に少量の血が着いた。危ないところだった。よろけた先が少しズレていたら、剥製の角が刺さっていたかもしれない……。


「大変、血がでてるわ。ごめんなさいね、後で傷に良く効く薬を塗ってあげる。」

「このぐらい、唾つけておけば治りますよ。」

「そんな遠慮しなくていいのよ。あっ、そこの棚にあるのが魔法石の入った箱だわ。」

 エルは目的の物を見つけさっさと戻ろうとした。


「ダメよ、傷の手当てをしなきゃ。そこの椅子に座って。」

 いや、大丈夫です!と言いかけて、体は力が抜けたように、ストンと椅子に腰掛けた。

「フフ、いい子ね。そのままジッとしていて。」

 おかしい……体に力が入らない。

 首筋を柔らかな温かい感触がなぞった。

「なに……を」

「んふ、消毒。唾をつけておけば治るんでしょう?」

 頭もぼ~っとしてきて思考が停止する。

 朦朧とする意識の中、このまま頂いちゃおうかしら、という声が聞こえたような気がした…。


「エル~見つかった~?」

「早く次に行こうよ~」

 カナンとフリムの声が聞こえた。

「あの子達もいたの忘れてたわ。今日はここまでね。」


 扇子の発光が青紫から深い青に変わる。

 その瞬間、体に力が戻る。頭はまだはっきりとしない。

「あれ?!オレどうして……。」

「大丈夫?躓いた時に打ち所が悪かったみたいね。ほんの数十秒だけど朦朧としていたわ。」

「本当ですか?すみません。もう大丈夫です。魔法石も見つかったし、二人も待っているようだから、早く戻りましょう。」

「えぇ、そうね。戻りましょう。」


 魔法石の入った箱を持って倉庫から戻ると、二人は安堵の表情を浮かべた。

「大丈夫?何か大きな音がしたけど。」

 カナンが心配そうに聞いてきた。

「あぁ、暗闇で躓いて頭をぶつけたみたいで。」

「えっ、本当に大丈夫なの?」

 フリムも心配してくれている。

「ちょっと疲れが残ってるのかな、今は全然平気。」

「無理はしないでね」

と、二人は気遣ってくれた。


 介抱してくれていた彼女に再度お礼を言い、箱の中身を確認しようとした時、

「箱の中身は全部あげるわ。」

 三人は聞き間違いかと固まる。

 魔法石は結構値が張る。その中でも希少な光の魔法石ともなれば、小さい一cm位の物でも一万Gはする。

 箱の重さからすると数十万、いや数百万Gはあるかもしれない。


「こんな高価な物、タダで貰えないですよ。」

 三人は慌てて、今あるGだけでも払おうとするが、彼女は受け取ろうとしない。


「確かに、使う者によっては価値のある物だけど、私にとっては、ただ倉庫の置物になっているだけの無価値なものよ。」

「それに……ついさっき、倉庫で魔法石より価値のあるものを見つけたから。」

 彼女はエルを見てにっこり笑う。

「それでも、あなたたちが払いたいというならば、冒険から帰ってきた時に話を聞かせて。」

「そんなことでいいなら、いくらでも話に来ますけど……。」

「じゃあ、商談成立ね。」

 終始彼女のペースで話が進んだような気がするが、ギルド設立の件もある。ここは彼女の好意に甘えることにした。


「あなたたち三人とも、真っ直ぐで仲間想いのいいパーティーね。とても気に入ったわ。名前を教えてくれる?」


「オレはエル・アステリア。」

「私はカナン・ステラリスです。」

「僕はフリム・グラント。」


「私は……ルシエラ・レジャンデ。」


「エル、カナン、フリム、あなたたちの冒険話。楽しみに待っているわ。」

 そう言い残し、ルシエラは店の奥の闇へと消えていった。


「またね、エル……。」



 三人は外観通り怪しい魔道具屋【ソルシエイユ】を出て、次のお店へ向かう。


「さっきのお店、ソルシエイユだっけ?凄いお店だったね。あっ、けどルシエラさんはいい人だったな~。」

「う~ん、不思議な人?かな。」

「いい人か……オレはあの人、ちょっと苦手かな。」

 エルは無意識に首をさする。

「どうかしたの?」

 と、フリムが覗き込むが、なにも痕は残っていない。

「いや……なんでもない。」

 一瞬、温かい感触が首筋をなぞった気がした。


「それより、着いたぞ。ここがオレが行きたかった店だ。」

 エルが行きたかったお店、それは…、


[鍛冶屋]


「鍛冶屋?武具屋じゃなく?」

 フリムが不思議そうな顔をして確かめた。


 明日には出発するのに、商品を選んで直ぐに購入できる武具屋じゃなく、これから注文して作ってもらう鍛冶屋では間に合わない。

 まさか鍛冶体験したいとは言うまい。


「看板だ!」

 力強く答えるエル。

「看板?」

「そう、看板!!」

「……ああ、僕たちのギルドの看板だね!」

「その通り!これからせっかくギルドの館が手に入るのに、看板がなきゃカッコつかないだろう。」

 これから向かう町、リナーカカイナに鍛冶屋があるかもわからないし、今発注しておけば館が手に入る頃には出来上がるだろうという計算だ。


「まだ、メンバーも足りないのに?」

「それはこれからなんとかする!」

 カナンがボソッと突っ込み、なぜか自信満々に答えるエル。

「ギルドの名前は考えてあるの?」

 カナンの問いにエルとフリムは得意げに頷く。

「まだ内緒だ。出来上がってからのお楽しみな。」

「ふ~ん、分かった。楽しみにしてるね。」


 新ギルドのことで盛り上がる二人。勢いよくお店に入ると、出迎えてくれたのは、昼過ぎに温泉で仲良くなったドワーフのうちの一人だった。


「よう、フリムにエル……っと、嬢ちゃん。どうした、美味い酒が飲みたくなったか?」

 つい先程まで鍛冶の仕事をしていたらしく、筋骨隆々の熱の籠もった体から湯気が立ち上っている。

「悪いが今は行けねぇ。朝までに仕上げなきゃならない仕事があってな。」

「酒は今度でいいんだ。仕事を頼みにきた。」

「おっどうした?装備品の整備か、製作か?」

「それもいいが、看板を作ってもらいたい。ギルドの看板だ。」

 エルはギルド新設の件を熱く語った。


「そういうことならウチに任せろ、最高の看板を作ってやる。」

 ニカッと笑うドワーフオヤジの歯が光る。

「ところで、最高の看板っていくらくらいするんですか?」

 フリムがニコニコ顔で尋ねる。

「そうだな…看板に使う最高の素材ミスリルを使うとして、自動修復機能やアレコレを付ける。さらに壊れるわけないが万が一の永年保障付きで、ざっと三千万Gってとこだな。」

「三千万G!!」

 フリムは青ざめカナンは目を丸くし、エルに至っては現実逃避し始めた。


「そんなに驚くことはねぇだろう、相場より安くしてるぐらいだぞ。それに、お前さん達、持ってるんじゃないか?魔法石。」

 ドワーフは花の匂いを嗅ぐように鼻を鳴らす。

 怪しい魔道具屋ソルシエイユでルシエラに譲ってもらった魔法石はあるが、流石にそこまでの価値はないだろうと思いつつも箱を差し出した。


 中身を確認し目を輝かせるドワーフ。

「こりゃすげぇ、お前さん達何者だ。」

 三人は箱の中身を見せてもらうと、そこには光の魔法石だけでなく、大小様々な全属性の魔法石が入っていた。


「量も凄いが純度が高く素晴らしい。これなら光の魔法石だけでも軽くお釣りが出るぞ。」

 全部で300000000Gはあるなと聞こえた気がしたが、三人共、無防備で持ち運びしていたことを自覚しそれどころではなかった。


「光の魔法石は譲れないんです。」

 カナンが気を取り直し事情を説明する。

 それなら仕方ないと、光以外の魔法石で請け負ってくれることになった。


 エルとフリムはドワーフオヤジとガッチリ握手し、カナンは丁寧にお礼を言って鍛冶屋を後にした。


 鍛冶屋を出て次に向かうのは、フリムご希望のお店である。

「少し遅くなっちゃったね。」

 看板の仕様やらを熱く話し合ったこともあり、その間暇そうにしていたカナンが少し眠たそうに言った。


 すでに夜空には無数の星が輝いて見える。

 中心街の店は冒険者相手に今も賑わっているが、明日の出発は早い。徒歩での移動を考えるとしっかり体を休めておきたい。


「今日はもう宿に戻って休もう。」

「いいのか、まだフリムの行きたい店に行ってないぞ。」

「みんなの体調の方が大事だし、僕は毎日早起きして朝食を作ってたから、明日は宿のご飯があるし、その時間を利用して買い物してくるよ。」


 一行はフリムの提案を採用し宿へ戻ると用意されていた軽食を食べ眠りについた。

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