第十二話 不思議な力 へようこそ
―――薄暗い部屋の中、一人の女性が水晶玉を覗き込んでいる。
「あら大変……でも、まだやれるわね。頑張って……。」
女性は水晶玉に向かって語りかける。
そこに映るのは、モンスターに飲み込まれたエル。
女性は水晶玉を見つめたまま静かに見守る―――
「オレはどうなったんだ?」
カナンを助けようとモンスターの前に立つと、視界は真っ暗になり身動きが取れなくなった。
「喰われたのか。いや、身動きは取れないが痛みはないな……丸呑みされたか?」
エルは己の身に何が起こったのか理解し、パニックに陥りそうになりながらも状況を確認する。
手足は僅かに動かせるが、声が出せない。出せないというより詰まる。息苦しく、呼吸が上手くできない。
弾力のある肉壁に挟まれどうすることもできず、何か方法はないか考える。
「そうだ!盾スキル。」
すぐに発動させるが変化はない。
「くそ、だめか!こんな時に魔法があれば……。」
カナンの防御魔法ルミナス・ヴェールならなんとかなるのではないかと思っていると、全身を淡い光の衣が包む。
「カナンか?ナイスタイミング。」
淡い光と肉壁の間に隙間ができる。
エルがモンスターの体内で試行錯誤している頃、カナンとフリムはというと――
「どうしよう、私を庇ってエルが食べられちゃった!」
「ぎゃーっ、エルを食べないで~。僕の筋肉の方が美味しそうでしょ……でも、食べないで~。」
しっかりパニックに陥っていた。
「あれ、デスボイズ・ワームだよね。ここ十年出現してなかったから、この地からは移動したって情報なのに。」
必死に頭の引き出しを開けるフリム。
「待って、あそこ……中から光ってない。」
デスボイズの体の一部が薄らと光っているのをカナンが見つける。ちょうど人間の大きさだ。
「きっと、エルがあそこにいるんだよ。カナン、あの辺に魔法を撃って。」
光る場所の少し下を指すフリム。
「ええ~っ、わかった。撃つよ!」
カナンはフリムの言葉に従って、光る場所へと特大の魔法を放った……。
「わ~もっと下だよ~。」
「へっ?!」
放たれた特大の魔法は見事に光る場所へ命中する。
……デスボイズの胴体をエルごと貫く大惨事かと思われたが、特大の魔法は胴体を傷つけることなく霧散した。
エルはデスボイズの胴体を襲った衝撃で、確保していた隙間を失ってしまう。
身を包んでいた淡い光も衝撃で薄くなり、肉壁の圧迫が強まってくる。
意識が遠のく……。
―――「何をやってるのかしら、あの子たち。」
水晶玉に映るドタバタ劇に、女性は微笑を浮かべる。
「面白いものが見れたし、今回は助けてあげる。」
手に持つ扇子が青紫色に光る―――
エルは首筋に生温かいものを感じた……携帯袋から、人型の紙切れがするりと出てきて、青紫色に発光する。
外では、デスボイズが人ひとり丸呑みしたことで満足したのか、フリムとカナンの奮闘も虚しく、地中に潜ろうとしていた。
「待って、お願い……行かないで。」
フリムがどこかで聞いたことのある言葉を呟いたとき。
突如、デスボイズの動きが止まり、身をくねらせ暴れ出す。
しばらくすると、光っていた辺りの胴体が膨らみ、そのまま膨らみは口へと移動してエルを吐き出した。
「げはっ……がはっごほ」
「大丈夫?」
咳き込むエルに駆け寄る二人。
「あぁ、助かった……カナンがルミナス・ヴェールかけてくれなきゃ、やばかった……。」
「えっ、私使ってないよ。」
そんなはずはない、あの身を包む光は確かにルミナス・ヴェールだった。
「助けようとして、無意識のうちに使ったんじゃないか?」
「そうかなぁ、あの時は必死だったからわからないや。」
「きっと、そうだよ。」
「その後の謎の衝撃にとどめ刺されそうになったけどな。」
エルの言葉に空気が凍り付く。
「それは……はい、私です。ごめんなさい。」
消え入りそうな声で謝るカナン。
「違うよ、あれは僕の指示が曖昧だったからで、カナンのせいじゃない。」
自分の不注意だと言うフリム。
「モンスターの腹の中にいる時、外で何が起きていたかわからないが、二人はオレを助けようとしてくれた。そして、結果は無事だったんだ、それでいいだろう。」
なんとなく察したエルは明るく振る舞う。
「エルがそう言うならいいけど……。」
まだ申し訳なさそうなカナン。
「リナーカカイナに着いたら、スイーツを一つ奢ってくれ。」
「うん、わかった。」
「それにしても、エル。どろどろだね。」
「あぁ……臭うし最悪だ。早く洗い流したい。」
「少し先に進めば川があるから、そこまでの辛抱だね。」
悪臭を放つエルを救うため、三人は川を目指して先を急いだ。




