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第十一話 荒野の食事 へようこそ

 二日目の夜。

 魔力を使い果たしたカナンはすでに眠りについている。余程疲れたのであろう、時折寝言が聞こえてくる。

「まじゅい……酸っぱぁぁぁい。」

 ……聞かなかったことにする。


 フリムは、荷物の確認やハーブの調合をしている。


 エルは、装備の手入れをしながら、一日の行動を振り返っていた。


 ゴブリン三体を相手に、今日は上手くいった――カナンの魔法石がなかったら?


 群れの対応もそうだ――ロックスがいなかったらどうするか?


「冒険者は冒険しちゃだめ!」

 出発前にエリナさんから言われた言葉を思い出す。


 その場での臨機応変な対応は必要だが、賭けになってはいけない。

 戦闘以外でもそうだが、最悪の状況でも最善を選択し、仲間を守る。

 それが、エルの考えるギルドマスターだ。


 だから、エルは一日の行動を振り返る。仲間の命を守るために――


「エル、眠れないの?」

 様子に気付いたフリムが声をかけてきた。


「あぁ、ちょっとな……。」

 余計な心配はかけまいと言葉を濁す。


「これ飲んで、ぐっすり眠れるハーブ茶。」

 フリムは温かいハーブ茶を差し出す。


「……美味いな……本当に美味い。」

 どこか落ち着かない心と体に染み渡る。


「ありがとう、これでゆっくり眠れそうだ。」

「どういたしまして、僕も荷物の最終チェックして寝るよ。」


 親友の気配りに感謝しつつ眠りについた。


 夜の闇が一番深くなる頃、遠くで獣の遠吠えが聞こえた……。


――翌朝、目覚めた一行は、朝食を取りながら目的地までの道程を確認する。


「小屋を出ればまた、しばらく岩場が続く。間違っても、ロックスは刺激しないように。」

「了解!あんな魔法を喰らったら、ひとたまりもないもんね。」


「エルの盾スキルに、私の魔法ルミナス・ヴェールを重ねてもだめかな。」

 何かを期待したきらきらした目でエルを見るカナン。


「紙切れのように吹っ飛ぶわ。オレを実験に使おうとするな!」

「え~そうかなぁ、けっこういけると思うんだけど。」

「絶対、試さないからな!!」

 冗談じゃないとエルは言うが、カナンは本気でできると思っているようだ。


「話を戻すぞ。」

 エルは咳払いをし、話を続ける。


「岩場を抜けるまでは、ロックスの他に[コモドーラ]に注意だ。」

「大きなトカゲ型のモンスターだよね。」

「その通り。遭遇したらどうする?」

「逃げる!」

「正解だ。」

 エルが質問し、フリムが答える。

 まるで、師匠が弟子に教えるような会話だ。


「昼前には岩場を抜ける。その先は、しばらく何もない荒野だ。街道を外れないように進む。」

「整備が行き届かない場所も出てくるから、戦っているうちに迷子にならないようにしないとね。」

「そこを抜けるとまた、草原が広がる。で、合ってるよね。」

 エル、フリム、カナンの順に話し、ムイとメイが用意してくれた地図を広げ、情報の認識に間違いがないか確認する。


「草原の端に休憩小屋がある。今日はそこまでが目標だ。そこから先はリナーカ・カイナまで森が広がっている。」


「……オレからは以上だ!他に共有しておきたいことはあるか?」


「僕からは、毒消しの丸薬。毒を持つモンスターも増える地域だから、はいこれ、みんなの分。」


「私は魔力の話。昨日、使い切ったから全部は回復できてない……たぶん半分くらいしか使えない。」


「よし、わかった。フリムはいつも助かる。カナンも正直に話してくれてありがとう。」


「魔法は温存。ただし、危なくなる前に使う。温存したまま全滅なんて洒落にならないからな。」

「了解!」

「よし、今日も力を合わせて乗り切るぞ!」


 小屋を出てすぐは、昨日と同じ大岩が多く視界はよくない。

 モンスターにとっても同じ条件だが、出会い頭の危険が付きまとう。


 少し進むと、冒険とは命がけという現実を目の当たりにする。


「エル、フリム、あれ見て。」


 カナンの指差す方に視線を向けると、岩の隙間から見える先に、冒険者らしき人が三人、折り重なるように倒れている。


 こんなところで、あんな格好で休む冒険者はいない……近づいても、ぴくりともしない状態が最悪の状況を物語っている。


 亡骸を調べてみると、装備していたであろう武器や盾が見当たらない。


「あのゴブリンどもか……。」

 昨日の戦闘が脳裏をよぎる。


 丁寧に弔ってやりたいが、時間は割けない。せめて等級の証だけでも持ち帰ろうと、冒険者の亡骸を調べる。


 三人の所持していた証は、同じ形のネックレスにつけられていた。固い絆で結ばれたパーティーだったのだろう。

 男性二人、女性一人の構成に自分たちの姿が重なる。


 等級の証を取り外し、ネックレスを元の持ち主に返す。

 ほんの数分だったが、カナンは祈りを捧げていた。


 無言のまま歩を進める三人。


「腹減ったな……飯にしないか?」

 重苦しい雰囲気を変えようとエルが提案する。

「ぐうぅ……。」

 それに答えたのはカナンのお腹の番犬。


「ふふ……ははっ、あはは。カナンのお腹はいつも通りだ。」

「だって、お腹は空くんだもん。」

「よし!決まりだな。」


 いつもの調子にひと安心したところで、予定していた昼休憩をとる。

 辺りはすでに岩場を抜けて、何もない荒野が広がっていた。


「岩場と違って、本当に何もないな……。」

 視界は開けて強襲の心配はなくなったが、何もなさすぎて不気味だ。


「殺風景でつまらないから、食事くらい楽しまないとね。」

 そう言ってフリムが取り出したのは干し肉。

 携帯食といえば、味は二の次の栄養豊富な食材を丸めた物や乾燥させた物が定番だ。

 干し肉もそのひとつだが――


「まさかトンクの干し肉?」

「その通り。」

「やったあ!」

 歓声を上げるカナン。


 干し肉は干し肉でもトンクの干し肉は旨さが違う。噛めば噛むほど染み出す圧倒的な旨味に病み付きになる。


「さ~ら~に~、味噌。」

「味噌?!スープでも作るのか?」

「それもいいけど、つけて食べてみて。」

 干し肉に少量の味噌を付けて食べろと言うフリム。

 それに従い、エルとカナンは干し肉に味噌を付けて一口……。


「旨い……。」

「美味しい……。」


 口の中に広がる濃厚な肉の味に味噌が絡み、深いコクを奏でる……絶品だ。


「美味しいでしょ。」

 二人の様子に確信のどや顔フリム。

「本当は、炙ってコクと香ばしさを追加したいところだけど、それは帰ってからね。」


 口いっぱいに頬張り、うんうんと頷くカナン。


「酒に合うな。」

 エルはギルドの看板作成を依頼したドワーフの顔を思い出した。


 疲れた体に染み渡る濃い味を食べた後は、のどごし爽やかなハーブ茶……至福のひとときを楽しんでいると、歩いてきた道の遠方で土煙が上がっているのが見えた。


「あれはなんだ?」

 警戒するエルはすぐ二人に合図を送る。

 どんどん大きくなる土煙。


「何か近付いてきてるね。」

 目を凝らすフリムの視界に入ってきたのは――

「コモドーラ!」

「いやいや、コモドーラはあんなに早く走らないだろ。」

「違う!コモドーラだけど、コモドーラじゃない。」

「どういうことだ?」


 よく見ると、土煙はコモドーラの少し後方から上がっている。

 その土煙から、必死の形相で己の限界を超えて走るコモドーラ。

 エルたちには目もくれず走り去る。


 その後に続く土煙。土が盛り上がり、土中を何かが移動しているように直進してくる。


「避けろ!」

 エルの咄嗟の叫びに避ける。


 土煙は直進を止め、土が大きく盛り上がり、地面を割って出てきたのは大型のモンスター。


 うねうねと動く長い体。地中から出ているのが頭だろうが、目や鼻といった器官は見当たらない。


「ミミズ?」

 フリムの呟きにぴくりと反応するモンスター。


「気持ち悪い……。」

 カナンが呟いた瞬間、モンスターの顔と思われる部位に穴が開く。それは穴ではなく口。


「あっ、まずい。」

 そう思った瞬間、エルの体は動いていた。

 大口を開けてカナンに襲いかかるモンスターは、庇ったエルを丸呑みにした。

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